どら焼き、カルメ焼き
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穴から零れ出たこちらでは、最小限の空間しか認識できていない。
日の光を求めても、今通ってきた穴からここまでは、少々、無理があるようだ。イチゴパンツを履いたルルが、洞窟の中を手探りで、恐らく、この前、俺と通ってきた方向を探っている。
「穴の真下以外は、暗いわよね、マーク、松明を灯してよ」
「それなら」
ロコが、木片の収納からペテン師の鍬の柄を出してくれた。その柄のさきっちょに、マリーは、指を押し当てて、化粧筆なしで、いつもの言葉を口にする。
「ブルスカ・ショックっ~」
「おいおい、灯を灯すだけなんだろうねぇ」
鍬の柄の先に、炎が灯り、以前も使ったことのある、燃え切らないし、短くならない松明がここに完成した。マリーの魔法も今回は、本来の効果だけを発動してくれたらしい。
これは、誉めてあげないといけませんよね。
「マリー、助かるよ、流石、我が家の主任魔法使いさんだね」
「えっへん、そうでしょ、私を連れてきてよかったでしょ、ゴールド・キッスへのご褒美は?」
チューっとな。
「これくらいだよ。松明だもん」
「いじわるねぇ、投げキッスくらいじゃ、我慢できない、せめて、ホッペに」
「待って!マリー、本当に、鍬の柄に灯を灯しただけなんだよね」
「ん・・・、そうよ、ほら、失敗してないでしょ」
ロコとルルも自分達と辺りを見渡して、マリーのショックに失敗がないことを確認してくれているらしいが、何だか、マリーのヤツは、鍬の柄にだけ灯を灯したわけじゃないんじゃないのかしら。
なぜならば、俺のお尻がガンガンとジンジンと熱くなってきている。俺の尻に火をつけやがったんだな。俺の尻に火をつけてどうするつもりなんだろう。
俺は、松明を照らしながら、自分で自分のお尻を見てみるが、不思議なことに、火は、着いていないらしい。だいたいお尻は、灯もなければ、明るくなってもいないのだ。しかし、強烈な熱さが、俺の尻を痛いほどに燃やしている。
何なのだ。
「マーク、どうしたの?」
「お尻が熱いんだよ、火がついていないか、よく見てよ」
「ついていないわよ、どこにも」
マリーが、自分を疑っている俺の言葉が気に入らなかったようで、俺のお尻をよくよく確認すると今度は、衣を捲って、俺の申又まで力任せに膝までずりおろしてしまった。
よく見てくれと言った手前、文句を言えた義理ではない。本当のところ、恥ずかしいとか言っていられないほどに、お尻が熱いんだ。
本当に燃えていないの?
「マーク、お尻に火は、着いてはいないけれど、お尻に、どら焼きがついているわよ、光ながら」
「えっ、どら焼き?どれどれ?」
「私、どら焼きなんて、焼いてこなかったわよ、どこで、買い食いしたの、悪い子ね」
「ロコ、馬鹿な事を言わないでよ、家の広間から、ここまでの直行便だったでしょ」
「本当だ、光るどら焼きね」
「触ってもいい?」
「私が見つけたのよ、私のものよ」
「マリー!」
マリーは、俺のお尻のほっぺたの、マリーが言うところのどら焼きを鷲掴みに掴んできた。
「アチッ、本当に焼きたてじゃんか」
「熱いのか、やっぱり、マリー、何とかしてくれよ、ショックの飛び火じゃないの?」
「それに、どら焼きじゃないよ、それは、傷跡からのアザだったはずだよ」
ペテン師によって、振り下ろされた鍬が俺とオロチちゃんの合体版ガンメタちゃん、オロマークの腰に突き刺さり、白い雪を鮮血に染めた後に、俺だけに残った傷跡が、初めて熱く疼いて、みんながどら焼きと呼ぶようにこんがりと燃え盛っている。
これが俺の尻が熱い原因らしい。
でも、耐えがたい熱さが俺を襲っている。本当に火が着いているような熱さなんだよ。どうしたらいいのか分からないくらいなんだよ。
「どら焼きでも、なんでもいいから、燃えているんだよ、なんとかしてくれ」
「水筒のお水を掛けてアゲルね」
ロコが竹の水筒から俺のお尻に水を注いでくれる。どら焼きは、まるで鉄が燃えているようにオレンジ色に光りながら、ジュウジュウと水を蒸発させてしまう。たまらない熱さが俺のお尻に襲い掛かる、ロコが掛けてくれるお水も、文字通り、焼け石に水そのもののようだ。
そして、どら焼きになったアザは、今度は、重曹を銜えたカルメ焼きのように一段と膨れ上がってきた。
「マーク、どら焼きが膨れて、カルメ焼きみたいになってきたわよ」
「バカ言ってないで、なんとかしてくれよ、マリー、火を消してくれ」
マリーも自身が松明に灯を灯した魔法が、アザをカルメ焼きまで、焼き上げてしまったのかと疑心暗鬼に陥りかけているので、今度は、きちんと化粧筆を構えて俺の尻に向けて、火消しの魔法を繰り出そうと、いつもの言葉を投げ掛けようとした瞬間、カルメ焼きが一段と膨れ上がり、盛り上がった頂点から火山の噴火の様に何かが噴出してくる。
俺の尻が気を失いそうなくらい一段と熱くなったと思うと急に熱くなくなった。そして、俺の足元にクネクネと蠢くものがある。
「マーク、まだ、ブルスカ・ショックの前よ、カルメ焼きが弾けて、アザに戻ったわよ」
「マーク、大丈夫?もう熱くない?」
ロコが再び俺の尻に、水筒に水をかけてくる。
「冷たいっ」
「冷たっ」
俺の尻に冷たさを感じると同時に、足元の蠢くものが、腿を伝って俺の脚に絡みついてくると、パッと、弾け飛んだ。
そして、次の瞬間に、目の前に、緑の肌の羽の生えた天使が現れた。
「オロチン!」
「あっ、オロチちゃん」
「マーク、やっぱり、来れたわ」
オロチちゃんがパタパタと羽ばたきながら、静かに自身の足を地面につけて、俺に抱き着いてきた。
「オロチちゃん、離れなさいよー」
マリー、ルル、ロコも、負けじと俺に抱き着いてくる。これじゃ、おしくらまんじゅうですわな。
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