羽の生えた蛇
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どのくらいの時間が経ったのだろうか。
眼の前には、何もない赤い大地が、広がっている。
今さっきまで、真緑の波の中に立ちすくんでいたはずなのに、真っ赤な赤土むき出しの大地、何処までも続く、全四方の地平線まで臨める、のっぺらぼうな大地に、砂埃を巻きあげながら、吹きっさらしの風が、強く頬を叩いている。
生あるもの無き、この大地に、先程来からの腐れ縁ともいえる四人だけが、唯一の生あるものとして存在している。
「マーク、大丈夫」
オロチちゃんが、強い風の中を羽ばたきながら俺の脚に絡みついてくる。瞬時に、全身を熱く握りつけられる感覚を覚えると、目線が地べた間近になってしまった。自分のお腹に、赤い土の甘暖かさを感じながら、シトロン、リンラン、ランリンの三人からいくばくかの距離を取る。この時、俺の首輪、手枷、足枷が外れていることに気が付いた。
「また、時間を操作したのだな、到頭、正体を現したな、このムジナ野郎、おばけ蛇め」
「外道に、ムジナ呼ばわりされたくないわい、よく見ろ、伝説の羽の生えた蛇だぞ、リュウのオロマークだ」
正にそうなんだ。
オロチちゃんと俺との合体版のガンメタちゃんは、今、この瞬間で、俺達の羽の生えた蛇そのものと言える。合体版でなくても、スダチちゃんによって羽を無理やりに生やされたオロチちゃん自体が、既に、羽の生えた蛇になってしまっていることに、これまた、気がついちゃったぞ。
オロチちゃんが、全ての源なのかしら?
「ムジナのくせに、気持ちの悪い羽の生えた蛇なんぞに、気色悪いだけではないか」
リンランとランリンが腰のサーベルを抜いて、テッカテカと金属的な黒光りをさせているガンメタちゃん目掛けて、それぞれの獲物を振り下ろす。ヒラリとガンメタちゃんが身体を翻してかわすと、ガラガラヘビのシンボルともいえよう尻尾の先でそれを受け止める。
カシャーン
甲高い金属音が、風の音にかき消されていく。なかなかどうして、自分が生まれていない時代に存在していることにより、魔力を行使できない次期女王二人であるものの、剣術の腕前もご立派なようである。ガンメタちゃんのガラガラから衝撃の振動が、脳天にまで響いてくる。これも骨伝導というものなのかしら。
自分でも驚いているが、強い風の浮力も借りるように、ハラリハラリと黒光りする大蛇は、スダチちゃんが肩甲骨を引っ張って作り出した翼によって、その身体を空間に浮かばせている。
「なんと気色の悪い生き物なんだ、私から魔法を奪って、勝った気にでもなっているのか」
「お母さままで、魔力を失っているのですか?」
「そうだろう、この時代に、生きているものなど、いないだろうから」
「それは、お前とて、同じではないか」
「だから、おバカさんっていうんだよ、俺達は、元々、魔法なんて使えないんだぞ」
「では、その姿や、ここまで連れてきたのは、何だというのだ」
「これかい、これは、技術の賜物だ」
「なにが賜物だ、それを手にして、元の世界に戻ってやる」
女王シトロンは、後ろ手に隠していた薙刀を構えて、空中を浮遊しているガンメタちゃんに振りかざした。先ほどと同様にガンメタちゃんは、ガラガラにて跳ね返そうとする。
「うわっ」
ガンメタちゃんのガラガラは、リンランとランリンのサーベルの時の様には、シトロンの薙刀の刃を食い止めることが、出来ずに、先端から二つ目までのガラガラがポタリと切り落とされてしまった。
「仕損じたか、さきっちょしか、捕らえることが出来ないなんて、すばしっこいヤツだ」
「お前、魔力を使えるのか?刃先が追いかけてくるじゃないか」
「これは、私の魔法ではない、この薙刀自体が生きているのだ」
何やら訳の分からないことを女王は言いだしたが、シトロンが振り下ろした薙刀は、ただ単なる薙刀ではないようだ。生きているという表現のごとく、秘めたる力を備えている獲物であることは、今の一撃で理解できた。
(「マーク、ガラガラの尻尾の先が、落とされちゃったわ、生え替えじゃなく、痛いし、どうしましょう」)
(「プリメアの雫を持ってきていれば良かったが、早めに切り上げようね」)
(「マークも同じ痛みを感じているんでしょ」)
(「ああっ、ジンジン、ビリビリっとしているよ」)
オレンジ色の光を放つ、切り落とされた連なる二つの節を拾い上げて、女王シトロンは、怪訝そうな顔をしてこちらを見ている。ヒラリと刃をかわしたはずなのに、衝撃の痛覚を伴う痛手を負ったガンメタちゃんは、羽ばたく力も失って、赤い大地にそのお腹を付けてしまった。辛うじて、鎌首をもたげて、女王に相対出来てはいるが、力が漏れ出ていくのが実感できる。出血は、していないのに、気力が漏れ流れていく感覚が著しい。
「これは、龍石ではないか、本当に、お前は、伝説の龍なるものなのか?」
「お母さま、龍石って」
「その石が分かるのか、その尻尾を切り落としたお前さんの薙刀も、特別なもののようだな」
「それほど、知りたいのか、この薙刀の柄は、お前たちが見つけた禁断の果実の木で出来ている、生ける薙刀なのだ」
禁断の果実の木。
なるほど、それで現在では、あの樹木は、切り株しか存在していないのということか。恐らく、あの樹木を木材として利用する為に切り倒したのだろう。薙刀の柄だけで切り倒す必要もないだろうから、他にもまだ利用しているのだろう。
しかし、姑息にも、樹木の力の恩恵を維持するために、切り倒す前の過去に通ずる時空穴を開けたってことだな。
大体のカラクリを理解できたぞ。
「動けなくなったようだな、そろそろ元の世界に戻してもらおうか、戻ったところで、この薙刀でその首と切り落としてやろう」
「その必要は、ありません、今ここで、私たちが、首を落とします」
女王と次期女王の眼には、尻尾の先を切り落とされて、浮遊も出来ずに動けなくなっている羽の生えた蛇は、既に脅威の対象では、無くなったのであろう。侮られたものであるが、こちらも、こやつらが言う通りに、身体の自由が効かなくなっている。
リンランとランリンが再びサーベルを地べたに横たわっているガンメタちゃんに振り下ろしてくる。尻尾で防御できないガンメタちゃんの身体から、俺の気力だけで、果物ナイフで二本のサーベルを跳ね返した。大蛇の腹から飛び出すように生えている果物ナイフは、いままで見たことのないような、縄、もう一匹の細長い蛇のような形状をみせて、クネクネとガンメタちゃんの身体を守っているようである。
(「マーク、果物ナイフが、伸びて、クネクネ金縄みたいになっちゃったわ」)
(「ガンメタちゃん仕様なのかもしれないね」)
「やめい、二人とも」
「お母さま」
「こやつを殺めては、元の世界に戻れなくなるではないか」
女王は、俺達がいなくては、元の世界に戻れないことを理解しているらしい。次期女王よりも、断然の認識力、流石に、女王と言える。まぁ、当たり前の事だけれども。
(「女王も気が付いているらしいから、オロチちゃん、そろそろお暇いたしましょうかね」)
(「そうね、このまま、置き去りにしちゃうのね、マークって、いじめっこね、うふふっ」)
女王が認識しているのなら、話が早いと、ガンメタちゃんの上半身だけを俺とオロチちゃんに分離して、俺が指輪の石を左に捩じり込むのを確認するやいなや、オロチちゃんが捨て台詞のように、お決まりの文句を発声した。
ラ・イ・ミ・ラ・イ・ミ・タ・マ・タ・マ
「わっ、待て、逃がさんぞ!」
慌てる女王シトロンの叫びと共に、赤い土煙を巻き上げて、下半身が大蛇のままの、俺とオロチちゃんを旋毛風が飲み込んでいく。
赤い荒野に、絶世の美女三人だけが佇んでいる。絶世といっても、この世界には、この三人しか生ある物として存在していないのは、皮肉なことであるが・・・。
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