脱出
ゴゴゴゴっー
「地震か?」
「外へ出ろーっ」
洞穴のこの空間に悪魔の雄たけびのような、不気味な地鳴りと共に、大きな地震が起こってきた。ドッドッドッっと、重苦しい雰囲気と恐怖感が辺りを包み込んだ。
「マリー、なにが起きるの?この魔法」
「・・・、わっ、わからないわ、考えてなかったもの」
「えっ?分らないって?この音は、だって・・・」
マーク達の船が停泊している入り江に、どす黒く大きな波が沸き立ってきた。
その波は、ゲトレに向かってきている。津波だ。
マリーは、地震を引き起こし、大きな津波を呼んでしまったらしい。この魔法使いは、まだまだ未熟で、善悪も、強弱も思い通りの魔法を使い切れていないのだ。つまり、大きな魔法を使えた時、魔王になるか、女神になるか、自分でも、分からない本当は、初心者マークが目に入らぬかって程の天然クルクルパーの勘違い魔法使いちゃんなのだ。
悪気が無いのがまた、手に負えない。最近、ロコばかりを褒めているマークへの燻っていた嫉妬心がブルーのおけけによって爆発してしまったようだ。
「マリー、地震を起こして、津波を呼んだの?」
「地震?何も呼んでないわ。ブルーヘアーのバカ野郎って、叫んだだけよ」
「そうじゃなかったわ。ブルスカ・ショックだったわよ」
「心の中では、そのつもりだったわ」
「もう、一分と待てないわ。この機に乗じて、外へ」
「マークは?」
「入口で別れた所を探さないと」
ナイフを握るルルの腕がガタガタと揺れている。ゴーッと凄まじい轟音と激しい揺れが俺とルルの二人を包みこんだ。
「何かしら?マーク。大きな地震?」
「大変だぞ!山が崩れ落ちる前に、脱出しないと」
ガチャッ
「居ないじゃないか、逃げられたぞ」
隣の部屋。ルルの居た部屋が開けられて確認されたらしい。俺は、この自分の独房の扉の内側から拳で叩きながら叫んだ。
「どうしたんですか?出してください、大地震です」
「うるさい!、お前になど、構っていられない」
「どうか、カギを開けてください」
「他の所を確認しろ」
「マーク、このナイフを扉に」
「ナイフを?」
「このまま、言い伝えが本当なら、いかづちを呼び、一体となり、何物へとも成りし剣」
「・・・、また、言い伝えですか?」
俺は、この恐怖と人々の叫び声が渦巻く環境の中で、何故か冷静な面持ちでいた。
ルルは、たわわな胸を押し付けるように、俺の腕にしがみ付いている。
俺は、ゆっくりと、ナイフを扉に向けて突き出していく。すると、その時、ナイフの剣先がいつもの光とは違う明るい閃光を帯びて、ドアの取っ手があるだろう部分に吸い込まれるように同化した。そのまま、ナイフを引くと、扉がごく普通に開いた。
「マーク、開いたわ」
「うん、演出がものすごい割には、結果は地味だね」
「そんなことないわよ。凄いわよ」
「飾り窓の女の子たちも、出してあげないと」
ナイフを扉から引き抜き、俺は、部屋を飛び出し、他の扉の鍵穴に次々とナイフを突き刺した。
そして、ルルが順々にその扉を開いてゆく。この辺りの部屋には、俺達しかいなかったようだ。
ではと、飾り窓が並ぶ通路へと走り、先ほどのように、ナイフを次々と刺して回った。ルルが一人残らず娘たちを出すと、俺の周りには、二十人位の美女が群がっていた。
「ありがとうございます」
「とにかく、逃げましょう、今の地震で、津波が押し寄せるかもしれないし」
「マーク、奥に向かって風が流れているわ」
「本当?それなら」
ルルに、促されるように、元居た俺達の独房よりも更に奥へと、突き進んでいく。奥に出口があるのだろうかと、いささか疑心暗鬼にもなってくる。何故ならば、俺達以外の誰にも出くわすことがない。この中の者は、誰も奥には逃げていないのだ。
だんだんと緩く右へとカーブしているように細くなる通路を奥へ、奥へと駆け続け、頭を下げないと通れないような洞穴のようなところまで突き進んできた。
到頭ついに、益々狭くなる洞穴の奥の突き当りまで、来てしまったが、何も無いようである。行き止まりだ。持っている松明を翳しながら辺りを見渡す。見る限りは、何も見当たらない。
「行き止まり?」
「ルル、何か、あるかい?」
「見当たらないわ」
「戻るにも、こんな奥まで来ているから」
ふと上を見ると、松明の煙が、吸い込まれていく所を発見した。その小さなひび割れのような部分にナイフを突き刺して見る。
土が崩れ落ちてくる中に、小さな空間を発見することが出来た。手を入れて探ると一部分に四角いレンガのようなものの感触が感じられる。ナイフで掘り起こしながら、なんとか、そのレンガを外すことができた。
すると驚いたことに、人ひとり通れるほどの横穴が発見できた。脱出の抜け穴なのだろうか?その横穴は、どこまでも続いている感じであるが、小さく先に光を見ることが出来ている。しめたっ。
「急ごう、とにかく、この穴の先へ先へと進むんだ」
「はいっ」
一人ひとり押し込むように、娘達を次から次へと横穴に潜らせる。あとは、ルルと俺だけだ。
「さぁ、ルルも」
「うん、マークも早くね」
俺も、みんなと同じように、最後尾から横穴を四つん這いになって進んでいく。松明も捨てて穴に突入しているので、何も見えない。
俺の頭と顔に時折、ルルの柔らかいお尻が当たる。そのたびに、なんとも心地よい感触といい匂いが漂い、頭がクラクラする。あっ、よく考えると、いや、考えなくても、ルルは、ノーパンなのだった。全裸に俺の上着を羽織っているだけだ。ということは、さっきから、顔全体に当たる柔らかい部分は、ルルの・・・。いい匂いがするわけだ。
なるほど、どうりで股間が緊張していて、前に進みにくいはずだ。
緊張????
俺は、いつものことなら、あるはずの股間に手を這わせてみた。えっ、えっ。馴染み深い感触がそこに存在している。慌てて胸にも手を当ててみると、先ほどまでは、弾ける程に左右に揺れていた胸がない。俺のいつもの平たい胸板があるだけだ。魔法が解けたのだ。だから、ルルの感触や香りにも過敏に反応できてしまうのだ。
このまま、上手く表に出られたとして、二十人の娘の中に男一匹。嬉しいような、空恐ろしいような。待てよ、この分だと、マリーとロコも力強い男の姿から元通りの女の子に戻ってしまっている、この状況を打破して、逃げ延びていてくれているのだろうか。
「マリー、こっちよ」
「飾り窓の中には、誰もいないわ」
「そうね、奥の小部屋の中にも誰もいないわ」
「逃げたのかしら」
「あんちゃん達、悠長にしてないで、逃げろ。山が崩れるぞ」
我先へと人々が表を目指して、右往左往して狭い博打場の通路を激流と化した人の流れに二人は、揉みくちゃに飲みこまれていく。二人は、手を繋ぎ、その激流を溺れるように表へと押し流されていく。
身体をあちらこちらへとぶつけながら、入り口を通り抜け、表に出られた。今度は、表では、町の人々がまたまた、激流の如く、揉みくちゃになっていた。
「波が押し寄せてきているぞ」
「山へ、逃げろ」
「山は、崩れるぞ、町の高台へ」
「ロコ、大丈夫?」
「うん、マリーは?」
「ううん、ごめんね」
「何が?」」
「私の魔法のせいかなぁ?」
「大丈夫よ、地震も津波もたいしたことないわ。それより、上手く表に出られたじゃないの」
「マークは、マークは、どうしたかしら」
「表に出られたのかしら」
二人は、お互いの顔を見合わせて、心配とこれからどうしたら良いものかと困惑している。ふと、ロコが気付いた。
「マリー」
「何?」
「戻ってる?」
「何が」
「女の子に」
マリーとロコは、今一度、お互いを見渡し、元の姿に戻っているのを確認した。
「もう、一日経ったのかしら?」
「賭け事に夢中になって、時間を忘れてたのかなぁ?」
「ということは、マークも男に戻っているってことね」
ロコは、口笛吹きながら、上を向いた。すぐさま、小さな小鳥がその口元に近づいてから飛び去っていった。暫くすると、また小鳥が戻ってきて、ロコに何かを伝えているようだ。
「マリー、大丈夫よ。津波のような大波は、入り江の中だけをかき回しただけ。地震も、山や建物を崩していないようよ」
「本当?よかったぁ」
「じゃぁ、港へ行っても大丈夫なのね」
「そうね、人々は、港へは、向かわないから、船に一旦戻りましょう」
一方、俺はと言うと、四つん這いで穴を進んでから結構な時間が経過している。あとどれくらいかかるのだろう。
「ルル。何か見えてこないかい?」
「真っ暗よ。先頭の子しか、光らしいものは、見えないわよ」
「そうだよね。水が追いかけて来ないところをみると、波からは、逃げ切れたらしいね」
「あっ、いやん。マーク、私のお尻に顔を押し付けないで、女同士でも、恥ずかしいわ」
「この柔らかいのは、お尻なの?」
「・・・」
指先でチョンっチョンっと突くように触れてみると、
「いやぁん、バカっ、そこは、お尻じゃない」
「頭?髪?ルルは、いつ、向きを変えたの?」
「バカっ、マークのヘンタイぃ~っ」
益々、俺は、緊張の強張りを強めながら、動きづらく、大きく屈みこんだ四つん這い姿でノシノシと、二十人の一体化した芋虫のように、身体を前へ押し出し、揺らしながら少しずつ、前へ、前へと、人ひとりの大きさのモグラのトンネルの如き、横穴の中を進んでいく。なんだか押し出し式の鉛筆みたいだ。
「光が、表が見えます」
先頭の娘が、歓喜の声を震わせながら、叫んでいるのが聞こえた。
「マーク、聞こえた?」
「うん、うまく出られるかもしれないね」
「いやーん」
「ルルのここ、柔らかくて、気持ちいいね」
「もっと、離れて進んできなさい」
横穴の中で、一糸乱れることのない小刻みな蠕動運動のごとき、集団の塊は、その先頭を、解放された光の只中に押し出した。そこは、一人ひとり、次から次へと美しい娘を吐き出してゆく。まるで、美女の泉の噴出口だ。
「表に出られたわ、本当に、表に出られたんだわ」
「よかったぁ~」
「ありがとうございます」
「表よ、表」
騒がしく、騒ぎ合っている声が段々と大きく、そして、近づいてきていることが、実感できた。
ルルのお尻の間から、眩しい光が確認できた。素晴らしいシルエットが俺の目の前に浮かび上がっている。と次の瞬間、眩い光の中に放り出されてしまった。
「マーク、出られたわ、外よ、外。んんっ????????」
「キャーぁ、男よ」
「誰かぁ、追手が来たわ~」
「お前は、何物だっ!」
「ルル!うまく出られたね。マークだよ」
「マーク?マークは、女の子よ、バカ言わないで」
「みんなも静かに、俺だ。これを見てくれ!」
俺は、鍵穴を外し、横穴を見つけてくれたナイフを大きく掲げて、みんなに見せつけた。胸に巻いてあった帯は、腰の下まで緩んで落ちかかり、そんなに逞しくはないものの、上半身裸の男の姿を露わにさせている。
「ルル。俺は、本当は、男なんだよ。騙して、ごめんなさい」
「本当に、マークなの?」
「このナイフを見てごらん、ルルが鍛えてくれた波紋を」
「いや~ん、ヘンタイ、マークのバカっ」
なんとか、みんなに味方と信じてもらえたようだ。しかし、先ほどまで、先導していた女の子が、男になってしまったのだから、女の子たちの動揺は、計り知れない様子。
各々、胸や腰回りなどを、手で隠している。変態扱い?みたいだ。
とりわけ、下着を付けていないで、俺の上着だけを縄の紐で止めている殆ど裸のルルは、涙目になって俺を睨んでいる。それが命の恩人に向ける目つきですか?
「とにかく、表だ、地震も、津波も大丈夫のようだね」
「こっちを見ないでっ!近づくなっ」
「ここは、どこだろう、町や港は」
切り立った崖の踊り場のような場所に立ち、潮の香に誘われるように辺りを見渡した。眼下に広がっていたのは、港だ。ちょうど港の端に出てきたのだ。そして、真下には、入り江に停泊させていたはずの、俺達の船がそこにあった。波が沸き立って、船がここまで流されてきたことが理解できた。
「しめた、よし、このまま、この崖を下に降りるよ」
「なんですって」
俺は、腰まで落ちている帯を解いて、ルルに渡した。
「ルル。この帯で上着を止めて。今、巻いている縄をよこして」
「この状況で、私を脱がすのね。このヘンタイ」
「違うよ。帯と交換だよ。ルルの縄で、みんなで下に降りるんだよ」
渋々とルルは、俺の帯を手にすると、すかさず後ろを向いて、縄を解き、帯を巻くと後ろ手で縄を俺に渡した。
縄を岩に括り付け、下に降ろしてみると丁度船まで行けそうな長さを保っている。
よし、いけそうだ。俺は、横穴ピストン式脱出方法と同様に、女の子一人ひとりを順々に降ろしていく提案をすることにした。でも、今度は、縄なので、本当に一人ずつしか降りていけない。
「これから、この縄を伝って下に降りる、細いからひとりずつだ」
「怖いわ」
「随分と高いもの」
「俺が先に降りて、縄が揺れないように、下から掴んでおくからね」
「マークが、先?」
「この揺れる縄は、女の子では、難しいから、俺が先に降りて押さえておかないと」
「私が先に、降りて支えるわ」
「ルルが?、それでも、いいけど、支えられるかなぁ?」
ここは、みんなも、自分たち非力な娘よりも、貧弱でも男の俺の力を信じたい様子で、無言のまま、ルルの提案を却下する視線をルルへと向けている。
「分かったわ。マークが先にお願いします。でも、下から上を覗かないでね」
「ルルは、上から、みんなを順に降ろしてくれ。そして、最後に降りておいで」
「了解。絶対、見上げたらダメよ。だって、パンツ履いてないんだから・・・」
ルルの最後の言葉を聞く前に、俺は、縄を伝って下へと降りていった。意外にもルルを縛っていた縄は頑丈で難なく下まで辿り着くことができた。
そして、縄を揺れから固定するように引っ張りながら、
「よーし、いいぞ。ルル。一人ずつ、下ろしてくれ、よろしく頼むよ」
「いいわ、いくわよ」
「さぁ、あなたから、ゆっくり、しっかりつかまって、降りて行って」
ルルと俺との連携は、手際よく、次から次へと無事に娘たちを降ろすことができた。到頭、上には、ルル唯一人となった。
「よし、みんな降りたぞ、あとは、ルルだけだよ」
「マーク。本当に、上を見上げないでね。約束よ。目をつぶっていてね」
「わかったよ、あっ、パンツ履いてないんだもんね」
「ばっ、バカぁ。約束してね」
「わかったから、ゆっくり、慌てず、降りておいで」
俺は、上を向いて、約束を確認させるように、目をつぶった顔をルルに見せた。
ルルは、それを確認するや否や縄を降り始めたらしい。
らしいって、目をつぶっているから、縄から伝わる振動でしか、状況が掴めないのだ。
とその時、強い風が吹いてきて、抑えている縄を大きく揺らした。
「ルル、大丈夫かい?」
「うん、だから、目を開けないでね」
更に、縄が左右に大きく揺れた。俺は、縄を握る手に力を込めた時、俺の瞼が、ちょこっと開いちゃったらしい。
「ああっ、すっスゴ~イ。なんてキレイな峡谷なんだぁ」
「ダメっ、見ちゃ、ああっ」
咄嗟にルルは、今の状況を忘れて、腿の付け根を隠そうして、身体をよじった。一瞬縄から離れた手がすべり、俺の見上げている顔の上に座り込むように、ズドーンっと落ちてきた。
「イテテっ、ルルぅ~」
「マーク、ゴメン大丈夫。イヤっ」
仰向けに寝転んでいる俺の顔の上に、ぺったりと座り込んでいるルルが、熱いものに触れた後の反射反応のように、飛び上がるように跳ね上がり、素早く俺の顔の横に降りた。
「見たでしょ?それに、感触も」
「イテテ、大丈夫そうだね。ルル。今さ、湿地帯の草叢に嵌まったのかと思ったよ」
「もう、いや~ん。怪我はしてないけど、毛を見られたっ~。舐められたっ~」
「見てないし、舐めてません。綺麗なライトブルー?いや、サファイヤブルーの草叢なんて」
「しっかり、見ているじゃないの。ヘンタイ!」
「だって、仕方ないだろ」
とにかく俺は、起き上がると、目の前の我が家である船に駆け寄り、縄梯子を持ち出して、今度もまた、美しい娘たちを一人ひとり船に乗せてあげた。
そして、全員が乗船したところで、甲板に倒れ込むように横になった。




