第八部 第8話 melee(混ぜるなキケン)
「ちょっと!冗談じゃないわよ!?何なのこの騒ぎ!!」
相手のジクインバウトだっけ?カンペキじゃなかったけれど、イイ感じだったのにさ・・・突然多数のMhwがコッチになだれ込んでくるだなんて、今の状況(ワイヤー連結ね)じゃ共倒れになりかねない・・・思わずワイヤーを手元でカットしたわよ。
「ウル!状況っ!!」
「はいっ!って言うか、もう何が何だか分かりませんよ?現状からの推測ですけど、聞きます?」
ウルもアッチの2機の相手で手一杯だったみたいね。カンゼオンが行動不能領域に陥らないよう、調整しながらの局所ジャミング連発だもんね、仕方ないか。
「それでいいわ!教えて」
「コッチは戦闘機部隊、アッチはMhw部隊の増援がそれぞれ到着したんだと思います。まぁ、コッチに限定した話でも、そんな増援の情報はありませんでしたけど。んで、それが各所で乱戦引き起こしたモンだから、連鎖しちゃってるんですよ」
なるほどね。確かに今回の出撃はおかしなことばかりだ。増援の情報が無いこともそうだけど、何より、今回の出撃部隊に明確な指揮命令系統が無いように感じてたのよね。そういう意味では、ソレがまともに機能してたのはpentagramだけだったみたいね。
「けれど、相手は基地がアソコにあるのよ?あちらさんもそんなことってある?」
「分かりませんけど、可能性としては、あの最初の一撃が向こうの指揮系統を混乱させてるって感じじゃないです?」
うん、まぁソレは有り得なくない。けれど、直後の敵機編隊は見事な統制が取れてたように見えたわ。でなければあれだけの数の戦闘機が、混乱なく発進するなんて不可能でしょうし。
「さっきの3機、どこいったか分かる?」
「はい。あの3機はマーカー付けてます。すごいですよ?あの一瞬の混乱で3機とも一気に後退。んで今は基地防衛してるんだと思います」
へぇ・・・この混乱に巻き込まれず、キッチリと事態を把握してるってことか・・・なら尚更、敵基地の指揮系統が生きてると考えるべきね。それにしてもこの状況は・・・
「みんな聞こえる?pentagramはこのまま敵基地方面に向かうわよ。この混乱の中を突っ切るんだからかなり至難の業だとは思うけど、私はやっぱり、あの最初の一撃が気になるのよね。目標は相手の司令部・・・生きてれば基地司令クラスとコンタクトを取るわ」
「おいおい、そりゃぁいくらなんでもムチャだぜ?たどり着くことはできたとしても、「ハイなんでしょう?」って聞いてくれる状況じゃねぇダロ?」
そりゃ隊長の言ってることの方が正しいとは思うわよ?けれど、私の推測が正しいとすれば、今のこの状況は誰かが意図的に引き起こしてる。たぶんソレは、アッチの司令官も気付いてるんじゃないかな。
そもそも最初、ウルのカンゼオンシステム最大出力で敵基地を無力化するつもりだった。上手くすれば戦闘そのものが発生しなかったはず。けれど、あの一撃のタイミング・・・あれはどちらの軍にとっても早すぎた。おかげで向こうはハチの巣をつついたみたいな大騒ぎ、コッチはこっちで、大群で飛来するハチへの対応に右往左往するハメに。そしてそれは、次の段階への布石でもあった。
互いに想定外の戦闘となったことで、そもそも知らされていないという問題は置いといたとして、互いに相手の増援があることに気付かず、援軍があることも知らされる余裕が無かった。結果はご覧のとおりの大混乱。おそらく戦場に居る兵士は、乱戦が招く混乱の結果、憎しみ・・・いえ、恐怖の方が正しいかしらね、それを増大させることになったでしょうね。
「ムチャなんて承知してるわよ?けれど、私の信念は曲げられない。戦うのなら、自分が正しいと思える大儀がいるの。けれどこの戦場にある雰囲気は・・・目的のための戦闘じゃない!戦闘そのものが目的なのよっ!」
「アイさん、行きましょう。ソレ、私も感じてたコトです。この戦闘は誰かが裏で操ってる。ただ単純に、2つの軍を戦わせようという意志があるような感じですよね。そしてそれはたぶん、あのダカールの人だと思います」
何なのウルって?やっぱりこの子、只者じゃないわね。今解ってる情報と状況を繋ぎ合わせれば、確かにそうかもしれない。
ダカールであのディミトリーだとかいうヤツは「両軍に対する宣戦布告だ」と言った。その目的は2つの軍を壊滅させることであって、その手段までは限定していない。よーするに、自分が直接手を下さなくても、互いに潰し合ってくれても、彼の目的は果たされる。
あの映像に映ってた3機のMhwは、いずれもADaMaS製Mhwに見えた。実際、その内の1機があのAttisとヤり合ってたけど、Attisと互角に戦えるなんて、ADaMaS製じゃなきゃできない。あとの2機は詳細分からなかったけど、ADaMaS製Mhwのヘンタイ加減はイヤと言うほど身に染みてる。曲撃や魔法のような狙撃を可能にする機体が居たとしても、ソレがADaMaS製Mhwだとしたら、驚きはするけど納得もできる。
「ウル、それ、正解だと思うわ。ジャミングはいいからレーダーに集中してついて来て。出来る限りこの乱戦の薄いトコロを縫って行くわよ」
「わーったよ、オレが前衛やるから、オマエは真ん中に居ろ。それとリッカ!来る気があんならオレと前衛。それからタクヒ!オマエも同様、ただし来るんならケツに付け。後ろからの攻撃は黒王で全部止めろ。殿を任せる」
「オウよ!黒王の真骨頂、見せてやるぜ!」
「いいですけど、さっきの3機、アレ、ゼッタイ出てきますよ?」
頼もしいわね。それにしても、ADaMaSのメッセージ、なんとなくだけど少し分かってきたような気がする。私たちは軍人である前に1人の人間だわ。私たちはそれぞれに意志を持って生きてる生物。それは人間だけができる生き方なんじゃないのかな。
「決まりね。それじゃあみんな、行くわよ!この乱戦の中、私を無事に送り届けなさい!」
それがムチャなコトであっても、戦争っていう状況下にあって敵軍と私的にコンタクトを取るということが、戦闘行動中では理解できない行動だったとしても、その行動には自分の考えがちゃんとある。そして、その行動をとることに自分の中で明確な目的・・・〝信念〟がある。その信念が、状況や環境、他人の意志に負けたり、流されてちゃダメなんだ。
「あの3機、どうするんです?突破はラクじゃないよ?」
「そうね、リッカ・・・けれど、あの3機もADaMaS製よ?私たちの考えが間違ってなけりゃ、あの3機にもADaMaSのメッセージは届いてる。少なくともあのトンボ・・・ジクインバウトのパイロットはそれを正しく受け止めてる。そんな気がするのよ」
ウルのレーダーによると、ジクインバウトは頭部を吹っ飛ばされても、基地の正面で防衛戦を張ってるらしい。別に戦って心が通じたとか言うつもりは無いわ。ハッキリ言ってこんなの、ただのオンナのカンよ?だけど、オンナのカンを侮ってもらっちゃ困るわ。
「いい?あの3機、墜としちゃダメだからね?ヤったら私が怒るわよ?ウル!こちらの通信圏内にトンボを捉えたら教えて。あの3機は私が止める」
「わ、分かりましたっ!私、移動以外はレーダーに全振りしますから、他は頼みましたからねっ!カンゼオンちゃんに弾当たったらキレますからねっ!」
うん、ウルも言うようになった。よぉし!後は目の前で広がる乱戦を抜けられるかどうかだ。
「つらぬけぇぇぇええっっ!!」




