第八部 第7話 Wire(赤い糸と手錠)
「すごいな・・・アッチの女性士官ってみんなこうなのかな?」
我ながら、なんで敵Mhwの言うがままに待っていたのか不思議でしょうがない。説明するなら〝気圧された〟ってコトなんだろうけど・・・。
まずはフロイト少佐から聞いていた、Thekuynboutに蹴りを入れてきたあの青いMhwだ。あの動きには正直驚かされた。普通に考えてMhwで出来る動きじゃない。あのパイロット、どの時点で〝あの蹴り〟を想定していたのだろう?Thekuynboutのサーベルを躱した動きもエゲツナイけど、すれ違う僕にあの体勢から回転蹴りが追い付くんだから、躱した直後からでは間に合わないんだ。少なくとも僕が斬りに行く前じゃないと間に合わない。もしかしたら、そうすると頭で考えた結果ではなくて、ただ直感的に起きた動きだったのかな?だとしたらソレはもう、〝野生〟と言うべきか〝本能〟と言うべきか・・・。けれど、僕が気圧されたのはソレじゃない。すごいなとは思ったけれど。ヤバいのはコッチの女性パイロットの方だ。Thekuynboutに片腕吹っ飛ばされた直後なのに、さらにはその相手が目の前に居るのに、その相手に「ちょっと待ってろ」とか言える?普通はムリでしょ。戦場でそんなコト言われても、待つヤツは居ない・・・まぁ、結果的に僕だったんだけれど、ソレ。
それにしてもこの部隊は優秀だ。機体数の優位を最大限に活かしつつ、適材適所が完璧に機能している。おかげでThekuynboutだけ孤立した格好になってしまった。この状況を作り出すため、瞬時に判断したヤツが居るはずだけど、「隊長」と呼ばれてはいたものの、ソレがあの〝野生児〟だとは思えない。コッチのお姉さん(年齢は知らないけど)なんだとしたら、激情的に冷静な判断を下したコトになっちゃうよね・・・同時並列型二重人格とか?
お姉さんに手傷は負わせたものの、陣形はコッチが不利だね。ベクもケビンも、上手く飛べていないのが見て解る。あのガトリング使いの牽制もお見事だけど、それだけじゃないね。あの耳付きが何かしてるのかな?・・・ジャミング?ここは僕がこの2機を引き離さないといけないかな。
「八つ当たりはイヤだなぁ・・・って、え?」
「コラコラ、逃げる気か?させるワケないでしょ?飛び立てると思うなよ!」
驚いたね。いつの間にもらったんだ?左脚に何か・・・ワイヤー?が絡みついてるね。お姉さん機の残った腕から出てるのか。にしても、なんてパワーなんだ。コッチが引っ張られる!
「ウフフ・・・このワイヤーは赤い糸?それとも手錠?貴方にとってはどっちかしらね?」
このお姉さんホントにヤバいっ!Mhwの顔なのに冷たい笑みが見えるみたいだ。えぇいっ!このまま脚に絡みついてるってのはまずい。バランスが取れなくなる。距離を詰めるコトになっちゃうけど、ワイヤーに余裕を持たせた位置で、あえて腕に絡ませる必要があるね。
「赤い糸だと嬉しいんだけどねっ!まずはもう少しお近づきに成るところから始めようと思うんだよねっ!」
よしっ!腕への巻き付けは成功。これで両脚で踏ん張れるようにはなったね。けれど、だいぶ近付いちゃったな・・・お互い、1歩踏み込めばサーベルが届く間合いか・・・ん?コレ、とーってもマズくない?僕のThekuynboutって、手持ちのビームサーベル無いんだった。
「あら嬉しいコト言うわね?隊長?私たちの仲を邪魔しないでね?・・・ソコで待つか、アッチ行ってなさい」
うわー・・・なんかコワい・・・。野生児がものすごーくしょげてるのがMhw越しに伝わるわ。ついでに言うと、向こうの3機からは「関わったらマズい」感が伝わって来る。Mhwでその雰囲気を伝えて来るなんて、チガウ意味で相当な腕だ。野生児の警戒を最優先にしてたけど、本当に警戒すべきはコッチだったか。
「ベクっ!ケビンっ!もう1機がソッチに行く!そいつが例のヤツだろうから、気を抜くなよ?僕は援護できそうにない。ステキなお姉さんにグイグイ迫られてるんだよね」
と言って強がるのが精一杯ってトコかな?サイアク、お姉さんにソッコーで両断されかねないもんな。
「私の機体は木花之佐久夜。貴方の機体、ソレ何て言うの?」
「・・・Thekuynbout」
「ふ~ん、不思議な響きね。私、好きよ?ところで、ジクインバウト?は、サーベル持ってないんじゃない?だから・・・ホラ」
これはまた・・・戦場じゃなかったら惚れてたかもしれないね。コノハナサクヤが手にしていたサーベルを投げて寄越した。それから背中にあるもう1本を引き抜いて構えてる。おいおい、コノハナサクヤはすでに片腕失ってるんだよ?ってことは、サーベルを握ってる方の腕、Thekuynboutと自分のワイヤーで繋がってるってことなんだけどな。ソレだけの不利を背負いこんでなお、上から目線のこの強気・・・良い意味で、このお姉さんカッコよすぎでしょ。
「コノハナサクヤ・・・確か、島国の神話に登場する姫の1人だね。貴女の乗機に相応しい名だと思うよ・・・武器のご配慮、痛み入る。では姫・・・いざ、参る!」
「ええ、受けて立つわ!・・・カカッテコイや!!」
戦場に情けは禁物だというのは常識だ。墜とせる相手は墜としておかないと、いつかその相手に自分や僚機が墜とされるかもしれない。コノハナサクヤは手負いにもかかわらず、僕にサーベルを渡した。このパイロット・・・いや、この女性は尊敬に値する。なんでStarGazerなんだとホンキで思ってしまう相手だ。だが・・・だからこそ、僕の今出せる全力で相手しなければいけない人だ。
正直なところ、僕は格闘戦が得意とは言えない。コノハナサクヤの振り上げた手から繋がるワイヤーが、Thekuynboutを引っ張るように引き込む。当たり前だが、斬るための振りかぶる動作と、本来なら脚を使って詰める間合いの動作が一連になる。ならば、体制が崩れたことを逆手に取るまでだ。僕はスラスターを開けて、コノハナサクヤがサーベルを振り下ろすよりも早く、懐に飛び込んだ。このまま胴体をサーベルで貫けば終わりだと思った。
「あら惜しい。首だけしか斬れなかったわね」
目の前に居たコノハナサクヤの姿はすでに無い。そしてこちらのメインモニターが破損したことを、コクピット内のモニターが告げている。どうやら首を切断されたらしい。
「忘れてたよ・・・そう言えばこのワイヤー、コレもサクヤヒメの武装でしたね」
「本当はそのまま、繋がってる手足も一緒に落とすつもりだったんですけどね」
モニターにワイヤーがチラリと見えたのは偶然だった。ワイヤーの位置が気になってスラスターを緩めたことが幸いだった。そうでなければ彼女の言うとおり、Thekuynboutは自分の推力でワイヤーの絡まっている箇所全てを落していただろう。
「それにしても、よく気が付いたわね」
「ああ。こんなワイヤーを装備したMhwなんてそう多くはないからね。それを敢えて装備してるんだから、有効に活用できていると考えるべきだろう?だいたい、ソチラは全てADaMaS製なんだ・・・ただのワイヤーを装備しているはずもないよね」
自分で言っといてナンだが、このことにもっと早く気付くべきだった。別に本人に問いただしたわけじゃないけど、コレが彼女の本当の狙いだったとしたら、ここまでの全てが僕を誘い込むためのトラップだったということになる。ワイヤーの硬度、Thekuynboutの機動力、互いの状況を最大限に利用して最高の結果を出力しようとした・・・お願いだから、世の中の女性全てがこうだと言わないでくれ。