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第七部 ADaMaS(アダマス)
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第七部 第15話 誰よりも近くに居たい

 「しかしまぁ・・・Leef(リーフ)本社の地下深くだとは恐れ入ったね」

第二ADaMaSは地中にあった。それもかなり深い。地上に出るために用いられるエレベーターも特殊なもので、これもリニアによって駆動している。このエレベーターを中心に広がる空間は3階層になっている。一番上の層は商業層、真ん中が生活層、そして一番下に会社としてのADaMaSがある。

 「ADaMaS(アダマス)層はともかく、他は地上でも良かったんだけどね。農業や子供たち向けに、郊外の地上に通じるラインも用意してあるわよ」

「そうよねぇ・・・陽の光は浴びたいわねぇ・・・でも、ま、現状を考えればコレが一番安全ね」

3つの階層はそれぞれ独立したドームだと考えればいい。それぞれの天井から繋がる壁は全て映像を映し出すことが可能であり、基本的には〝地上の世界〟を映している。室内からはもちろん、建物の外に出て天井を見上げたとしても、目に映るソレは空と認識出来そうだ。とは言え、もちろん本物の太陽ではなく、宙に浮かぶコロニーのように天気まではコントロールされていない。

「ねぇ、ミシェル姉さん?ちょっとした疑問なんだけど、ココってそもそも何の目的で造ったの?」

これほどの地下建造物となれば、よほど大掛かりな作業が必要で、その直上となる地上に、すでにLeef本社ビルを始めとした街が存在する状態で造ったとは考えにくいというのが、ローズの考えだ。

「何って・・・この上のビル建てるとき、何かに使えるかなーって・・・」

果たしてこの地下建造物にどれほどの費用が必要だったのだろうか?1層だけならまだしも、3層も存在するうえに、それぞれの内部を整えるにも莫大な費用が必要だったはずだ。

「ミシェル姉の金持ち度、パねぇー。改めて人類史上最強のお金持ちだって実感したわ!」

 事実、Leefが世界に及ぼす影響は計り知れない。例えばIHCは世界でも有数な企業であり、Mhw(ミュー)こそ注目され続けているが、一般的に身近なモノで言えば、自動車や携帯電話と言った工業製品の多くを取り扱っている。もちろん世界にはIHCだけでなく、実に様々な企業が存在しているのだが、それら〝全て〟の企業と関わりを持つ唯一の存在が〝Leef〟である。電子や証券といったこの世界に存在する全ての〝お金〟を集めたとして、その1/3(ちなみにIHCはさらに上を行く)を所有しているとさえウワサされているほどだ。

 「助かったよ、ミシェル。これで当面は、ADaMaSの皆が以前と変わらない生活を送ることができる」

「いいえ、まだよ。世間的にADaMaSは壊滅しちゃってるんだもの。ここで生活できても以前のままというわけにはいかないわ。ま、以前のままにできるかどうかは、私も含めた貴方たち次第だけれど」

その場にはADaMaSの主要メンバー全員が揃っていた。ミシェルを除いた12人全員が、これから自分たちが身を置く場所は戦場だということを覚悟していた。そして同時に、ミシェルはLeefの現当主なのだから、こえまでのように顔を出すことはあっても、ミシェルはLeefに残るのだと思っていた。ミシェルとADaMaSの今後の関係性は、物資の支援的なことはあったとしても、同行はできないと考えて当然だ。

 ミシェルの発した「私も含めた」という言葉が、全員の意識に引っかかっている。それもまた自然な流れだったのだろう、全員がウテナの方へ視線を向けた。

「ミシェル?まさか一緒に来るつもりじゃないだろうな?」

おそらく、みんなの視線を受けなくても同じ質問をしていただろう。

「みんなの言いたいことは解るわ。自分の立場も同じように解ってる。けれど・・・私とみんなは仲間だわ」

 ミシェルはみんなが自分の立場を気遣ってくれていることを承知していた。たぶん、自分だけがココに残ったとして、みんなとの関係性が変わることは想像できない。戦場に発つみんなは、自分に後方支援を期待していることも分かっているし、それが必要不可欠なモノであることも理解している。彼ら戦場に立つADaMaSにとってLeefという存在は、公にできないが絶対に必要な存在だということは間違いない。

 それでも、ミシェルはみんなと一緒に戦場に発つことを選んだ。Leefという組織は巨大だ。自分が不在だったとして、それで傾くようなことは無いと確信している。信頼している幹部も要所に配置できている。その幹部たちも、ミシェルがしばらく不在にするだろうことを承知してくれている。そうでなければ、いくら私財だからと言って、戦艦3隻の建造や、この地下空間へADaMaSとしての都市(というより町だろうか)を受け入れるはずもない。

 ミシェルは何不自由の無い令嬢として育った。それでも、戦争を要因とした一般市民によって両親を殺害された経歴を持つ。当時、世界そのものを憎みそうになった。だが、そうすることが誤りだと教えてくれたのはADaMaSだった。その時から始まったADaMaSとの〝友好〟は、それほど時間を必要とせず、〝友〟に変わった。もしもADaMaSがその命を懸けることがあるのなら、そのときは迷わないと決めていた。そしてもう1つ、ミシェルが同行する決定的な理由がある。

 「それにね?ホンキで惚れた人を戦場に送り込んで自分は後ろで見物なんてできないわ。もしものことが私の身に起こった時には、その人には誰よりも近くに居て欲しいし、ウテナに何かあったときには、誰よりも近くに居たいもの」

その場の全員が固まった。ミシェルの普段の絡み方からして、好意があることは誰もが知っている。問題はこれまで、一切それを公言していないことだ。いつのやり取りを思い返しても、どこか茶化した雰囲気がミシェルにはあった。

「み、ミシェルおねえちゃん・・・?〝ヒト〟って言ってたトコ、サイゴだけオニイちゃん・・・」

マドカの口だけが、まるでロボットかのように言葉を発した。その表情には一切動きが無い。ローズは内心で「ウテナって言ったの聞き間違えじゃなかった」と思い、ナナクルは「マドカちゃん、ソコ、突っ込んじゃダメ・・・」と思った。マギーやアリス、セシルは「うーわ!ついに公表?」と表に出さずに色めき立ち、クルーガン、ヒュート、ジェイクたちは「うん、知ってた。本人以外」と心でナットクし、ポーネルとミハエルは「深く関わるのはよそう」と大人な対応に徹した。問題はウテナだった。

 「あー、ソレ気になった。僕に何かあったときっていうのは縁起でもないけどさ、いや、気持ちは嬉しいよ?けど、ミシェルって医療系のスキル持ってたっけ?」

直前まで内心でそれぞれにいくつかのことを想っていたが、ここだけは全員(ウテナとミシェルを除く)の内心が一致した。「バカヤロー!ソコは「嬉しいよ」だけでいいだろうがっ!!」が全員一致の意見だ。

「何言ってるのよ?私、医師免許、持ってるわよ?・・・ってアレ?知らなかったかしら?合格したのは2年前よ?」

不思議なことに、ミシェルの表情に怒りは感じられない。

「エっ!そうなの!?いやぁ、それはすまなかった。是非、側に居てくれ」

ウテナの言葉に、満足そうとも嬉しそうともとれる笑顔をミシェルが浮かべている。「いいのか?コレでこの2人は・・・いいのか?」と誰しもが心の中で思ったのは言うまでもない。

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