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第七部 ADaMaS(アダマス)
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第七部 第12話 結局のところは〝敵〟

 「まずは結論から。アレはPluriel(プルリエル)という存在だよ」

Plurielの意味は〝複数〟だ。それを個体であるMhw(ミュー)に名付けるのは違和感がある。その違和感を無くすためにはどんな仮説が必要となるだろうか?

 世の中には〝地球ガイア仮説〟というものが存在する。ジェームズ・ラブロックの唱えたコレは本来、生物と環境の相互作用についての仮説なのだが、様々な者の提唱の中では地球が一個の生命体だとするものがある。簡単に例えれば、人体が地球であり、細胞が地球上で生きる生命体だとする仮説だ。おそらく世間一般的に知られているガイア説はこの内容だろう。

 〝肉体が先か魂が先か〟という論争がある。これの1つの解答が〝プラトンの魂論〟だろう。世界の創造者であるデミウルゴスから始まる話であり、これによれば、魂が先である。不死の魂を作った後、限りのある肉体を作ったとされるが、これは仮説というより神話的なモノだ。

 結局のところ、〝反物質〟とは何だったのだろうか?創造主であるウテナの結論は、反物質はBrain(ブレイン)-Device(デバイス)を介して集められた人々の記憶だ。言葉だけを聞けば、これを技術者が口にするのは違和感があるかもしれない。しかし以前にも触れたように、人は電気信号を発する。これは事実であり、そして機械が電気信号を記録することに違和感のある者は居ないだろう。彼らADaMaSの技術者は、人の思考と電気信号を同じものであると考えることができる。ならばそれを機械に記録させるということは当たり前にできることであって、蓄えたソレを放出したとすれば、反物質の存在が見えて来る。

 「ADaMaSに来る前の自分だったら理解できなかったッスね・・・そういうのも、局長の影響ッスね。昔なら信じられなかったコトも、ワリとすんなり受け入れられる」

「局長の感染力って協力だもんな・・・ま、おかげで楽しく仕事できるようになったからラッキーだったけどな」

クルーガンとヒュートが顔を見合わせている。そんな2人の様子を眺めるウテナとしては複雑な心境のようだ。

「オマエらヒトを病原菌みたいに・・・ま、ウチでの仕事が楽しいモノになったんならいいんだけどな・・・続けるぞ?」

 実際にウテナにとってもブラックボックスな部分はあるが、反物質精製装置が取り込んだ〝人の意志〟がおそらく〝人の遺志〟だろうことは予測している。人が発する電気信号にも強弱があり、最も強力に発するタイミングが〝死の間際〟だと考えられる。

 この20年あまり、そのタイミングにも、そのタイミングを迎える人の数にも、世界は困っていない。反物質精製装置による電気化した人の遺志の収集範囲が実際にどれほどの範囲なのかは判明していないが、可能性として地球全土、あるいは宇宙にまでその影響力があるとしても否定することはできない。それは〝ガイア仮説〟の相互関係で説明することも可能だ。あの生み出された反物質に、どれほどの〝人の遺志〟が蓄えられたのかは定かでないが、〝Pluriel〟が示す〝複数〟とはこのことを指しているとすれば、その名称も理解できる。

 生み出された〝Pluriel〟が〝複数〟という意味を持つ一塊の〝魂〟であったのなら、ソレはMhwという〝機械の肉体〟を手に入れ、1つの〝存在〟と成った。それは偶然にも〝プラトンの魂論〟と一致する。

 「ちょっと待ってよ、ウテナ・・・それじゃあ、Mhwが1つの生命体に成ったって言いたいわけ?」

「そう説明しているつもりだよ?そしてディミトリーという存在は、魂と肉体をつなぐ存在に変わったということだよ」

 ローズの表情に若干の〝恐怖〟が見え隠れしている。それはそうだ。どんな角度から見ても、Mhwは機械であり、それが生物に変わることなどあり得ない。だが、物は言いようだ。〝生物〟を〝生命体〟に置き換えるとどうだろうか。

 地球上で人が認識している生命体とは、〝有機生命体〟を指す。本来、有機生命体しか認識していないはずの人間が持つ想像力は素晴らしいらしく、この生命体という言葉を使って、実に様々な生命体を生み出している。〝ケイ素生命体〟〝機械生命体〟〝金属生命体〟に〝情報生命体〟〝エネルギー生命体〟という存在もある。

 面白いことに、人間の想像力というものは現実の延長線上でしか成立していない。基本的には「もしも〝コレ〟が〝コウ〟だったら?」といった類のもので、ようするにそれは、〝現実性〟や〝可能性〟をほんの僅かであっても秘めているということだ。では今回の件はMhw生命体とでも言えばいいのだろうか?魂として反物質がまず存在し、それがMhwという骨肉に宿る。しかし、魂の意志を骨肉に伝える手段が無い。Mhwはあくまで人が操縦することで初めて手足を動かすことができる。Mhw生命体が生命体として成立するための最後のピースは人間=伝達神経だったというワケだ。

 「それにディミトリーが選ばれたってことか・・・アレ?ちょっと待てウテナ。それじゃあディミトリーはその役割を承諾したってコトなのか?」

「うーん・・・ソコに関しては〝非科学的〟なんだよな・・・ま、ソコだけじゃないかもしれんけどさ」

ウテナの言う〝非科学的結論〟はディミトリーという魂をPlurielという魂の集合体が取り込んだというものだ。これを無理やりに科学的とするならば、ディミトリーの脳から身体各所に発信される電気信号をPlurielが意図的に遮断し、Plurielが代わって電気信号をディミトリーの体内で発信しているという説明になる。

 Plurielという存在は、戦死者たちの魂が集まったものだと言ったが、厳密に言えば魂そのものではなく、感情が発露した際に脳内で起こる電気信号の集積物だ。Plurielの内側でもしかしたら、集積された信号がまるでシナプス細胞のように結びつき、それぞれを補完し合うことで、1つのニューロンネットワークを形成しているのかもしれない。この〝もし〟が正しいものであった場合、(偏っているだろうが)1つの個性としてPlurielは存在していると言える。

 「それはアレね・・・そもそも魂が科学で解明されていない以上、憶測や推測の域を出ることはないわ」

「そのとおりだよ、ミシェル。でもね?認識出来ている信じられない現実があっても、それを仮説で説明できるんだったら、その仮説は事実に最も近いんじゃないかな?」

「シャーロック・ホームズね・・・まったく、アーサー・コナン・ドイルも、小説の中にとんでもない人物を造り上げたものね・・・ウテナのトンデも話を事実に後押しするなんて」

ミシェルのヤレヤレといった仕草を押しのけて、腕組みしたまま難しい表情を見せるマドカが割り込んできた。

 「んー・・・お兄ちゃん?結局のところ、ミリアークもディミトリーも、現状敵じゃないかもしれないけど、味方にはなりそうもないってコトでオケ?」

「2人が動くのなら敵になるだろうね。さらに言えば、2人は別々だろうけど、間違いなく動くよ。だから結局のところは〝敵〟って認識でいいんじゃないかな」

「どいうコト?」

「目指す目的が同じだけど過程が違うからね」

 ミリアークは兵器流量をコントロールし、戦争を永続させることで人口そのものをコントロールしようとしている。その目的は地球の保護だ。NEXTの研究は彼女にとって、自身が扱うべき兵器だからだろう。

 ディミトリー(ではないが便宜上)は地球を守るために愚かな人類を消し去ろうとしている。戦争に関わる人間を悪と断罪し、その全てを消し去ることで恒久の平穏を得ようというわけだ。

 戦争を続けさせようとする側と、戦争を根絶しようとする側が相容れるわけがない。ならば雌雄を決するため、そこで必然的に争いが発生する。それは避けられない未来だ。

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