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第七部 ADaMaS(アダマス)
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第七部 第8話 世の中を利用するつもり

 「返事は今じゃなくていいわよ?判断材料も無いでしょうし」

もし仮に彼女の言う「判断材料」があったとしても結論が変わることは無いだろうと思いつつも、口を挟むこともせず、ミリアークの続きを待った。

「それよりも、せっかくこのメンツなんですから、もう少し込み入った話をしましょう・・・ねぇ、アナタたち・・・アナタたちには今の世の中ってどう見えているのかしら?」

ずいぶんとアバウトな質問だとは思うが、ミリアークの目はその鋭さが増しているように見える。今ここに居る3人は、それぞれに〝勢力〟と呼べる団体の頭だ。言ってみれば、これから行われる会話はそれぞれに相対する2人が敵なのか味方なのかの品定めといったところだろうか。

「ずいぶんアバウトすぎる質問だね・・・答えに困るよ」

「ふむ・・・まずは貴女の意見を聞かせてもらえるとありがたいね」

なるほど、それがこちらの手の内を明かすことになるのかどうかは判断しかねるが、先に相手のカードを出させるのは良い手だ。

「あら、それは失礼。確かにそうね。私にはね、今の世の中が〝多様性に殺された世界〟に見えるのよね・・・いえ、もっと正確に言うなら、〝多様性という言葉に侵された世界〟かしらね」

 〝多様性〟という言葉が世の中に現れてからどれぐらいの月日が過ぎ去っただろうか?多様性という概念そのものが悪いというわけではない。むしろその考えは迎え入れられて当然の考えだ。その言葉が世に現れたキッカケを例に挙げるならば、人類には2種類が存在している。それは男と女だ。そしてその両者の間には恋愛感情が芽生え、その結果として人類は繁栄を極めた。しかし、肉体的には男性であっても、精神的には女性(またはその逆)と言った稀な存在も人類の中には存在していた。

 多様性が謳われる以前の世界では、そうした稀なケース、(外見上)男(女)が男(女)を愛する、といった感情は「悪」だとして排除された。コレは言ってみれば、〝多数決〟の概念だ。しかし多様性は排除するのではなく、そういった存在が居るということを認識することを意味している。

 これは同性愛を受け入れろと言っているのではない。言葉を選ばずに言うのなら、ノーマルがアブノーマルを受け入れることなどできはしないが、アブノーマルが存在していることは知っておいてほしいという切なる願いだ。要するに、アブノーマルだからと攻撃するなということだ。

 最初はそうだったはずだ。ところがどこからか、「多様性」という言葉を自分の都合に合わせて使い始めた者たちが現れた。それは言ってみれば、「多様性」を「自由」とはき違えた者たちだ。

 例えば、一般的に公序良俗が求められるような場において、露出の多い、その場においては「下品」とさえ言わしめるような姿を晒す者がいたとして、「公序良俗」を指摘すれば、「多様性において服装は個人の自由だ」と反論する。さらには、「不快に思うのなら見なければいい。それも個人の自由だ」とさえ言ってのけてしまう愚か者だ。だがそれは多様性でもなんでもなければ、自由にしていい場面でもない。露出の多い服装を「多様性」だと声高に叫んだかと思えば、その姿にSEXを感じれば「犯罪だ」と叫ぶ。その者の見解からすれば、そう感じることも〝多様性〟だというコトに気付かないまま。

 その「多様性」の使用方法は実に使い勝手がいい。一般的に認められていないコトであっても多様性と言えば(一定数)認められる。もちろん反論はあったとしても、それに迎合する者の数は増えていく。コレはつまり、〝秩序〟の崩壊と言っていいのではなだろうか。

「私だってね?例えば男性の前で背中の大きく空いた服とか着てるわよ?けれど、自衛手段は持ってるわ。そしてそういう服を着るときの時と場所、そして相手は選んでる・・・もしもすべてに多様性が優先されるのなら、例えば今アナタたちが私をレイプしたとしても、そうしたいと考えるのは多様性だと言えてしまうのだもの・・・極論だけれどね」

「確かに極論だね。けど、間違いじゃない・・・なるほどね。多様性が秩序を殺したか・・・言い得て妙だね」

 本来の意味を失った「多様性」という言葉は、他者に管理統制されることを拒否する武器となった。それは現代に至る過程で、宇宙に住む者と地球に住む者がそれぞれに「自由」を叫ぶ結果を招いた。互いに理解、認識するのでなく、ただ反発することしかできない「間違った多様性」は統制を失い、やがて戦争を呼び起こした。

「相手が意思疎通のできない宇宙人じゃあるまいし、受け入れることはできなくとも、「そういう存在も居る、居てもいい」と認識すらできなくなったのが今の人類じゃなくて?」

「・・・話の筋は通っているな。全面的な支持はできないが、正しいとは感じるな」

「相手を拒絶することしかできないってのは、なんだか悲しい話だね・・・けどつまり、アンタはだから〝統制〟が必要だって考えてるってことかい?」

「その通りよ。人類は個人の我儘を好き勝手できる所帯じゃないのよ。けれどね?そこを正すには人類が多すぎるのよ・・・すでに宇宙も含めて人類は存在できるキャパを超えているわ」

 ミリアークの語った「間違った多様性による結果」は、確かにディミトリーの言ったように間違いではない。だが、今の人類が抱える根本的な問題は「増えすぎた人類」の方だ。ソレを解決できない限り、人類にこれ以上の繁栄は見い出せず、なんなら衰退が見え隠れすらする。

 人類は文明の発展とともにその数を暴力的に増やした。やがて、地球環境がそれだけの数を許容することができなくなると、人類は自らたちの手で宇宙に生活の場を求めた。これは驚くべきことだ。地球に870万とも言われる種が存在しているにも関わらず、自らの力でその地球を出たのはたった1種のみなのだ。しかし、人類がそのまま宇宙に適応できたかと言われれば、それはNOと言う他ない。どれほど進化しようとも、宇宙空間で人類が生身のまま存続することは不可能だ(もし万が一、それができる者が現れたとしたなら、それはもう、人類とは呼べないだろう)。だからこそ、コロニーが開発された。それは人類史において最大の建造物となった。さらに驚くべきは、その建造物に使用された鉄材のほとんどを宇宙で手に入れた。だがさらに驚かされるのは、そうしたコロニーの建造よりも早く、キャパを超えるほどにまで増え続ける人類の方だろう。人類の増加にコロニーの建造が追い付かなくなった。計算上でそう算出された数か月後、事実として戦争は始まった。

「だからね?私は今の世の中を利用するつもりなのよ。人類はすでに食物連鎖の頂点だわ。となると、人類の天敵は人類にしか成り得ない」

ミリアークの眼光がさらに鋭くなったようだ。なるほど、ミリアークは「間違い」と「問題」を同時に正すつもりらしい。

 「後は分かるでしょうけれど、ご想像にお任せするわ。こんなところでどうかしら?」

ミリアークの視線が「次はアナタの番よ?」と言っているようだ。

「今の世の中、ねぇ?・・・人類にとっては概ねアンタと同じでいいや。地球にとってって言うんなら、メイワクこの上ないだろうね・・・世界にとってと言われたら、たぶん結論はアンタたちと異なるだろうね」

「私にとってそんなコトはどうでもいいことだ。私の目的が、その過程や趣旨によって変わることはない」

ミリアークの熱弁と比べれば随分と簡潔な2人だったが、思いのほかミリアークはソレで満足なようだ。思わず魅入られそうな笑顔を見せていた。

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