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第七部 ADaMaS(アダマス)
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第七部 第5話 あくまで可能性の話

 「ウテナ局長、ミシェル女史。少しよろしいか?そのことについて、提案・・・というほどかどうかは微妙ですが、話があります」

その誰が聞いても落ち着きをもたらしてくれる声のトーン、話し方の持ち主はポーネル・ウィルソンだ。不思議と彼の〝提案〟という言葉に希望感を抱いてしまう。

「ポーネルさん、構わないよ?聞かせてくれ」

「では・・・あくまで可能性の話だと聞いてください。実戦経験者たちを集められるかもしれません。もちろん、100%の保証はありませんし、援軍と成りえても、そのタイミングまでは不確かなことになりますが」

 ポーネルはADaMaS(アダマス)主要メンバーの中で最年長だ。最も年齢が近いウテナやナナクルであっても15歳の差がある。年齢的、そして立ち居振る舞い的にも、絵に描いたような〝紳士〟である彼は、メンバーから「ポーネルさん」と親しみを持って呼ばれている。

 ポーネルはADaMaSにおいて〝情報部〟に籍を置いている。対外部の交渉は基本的にローズとナナクルが担っているが、Mhw(ミュー)製造依頼を受けるか否かの重要なファクターとなる当該機パイロットと接触しているのはポーネルの方だ。対象パイロットの情報を得るため、ポーネルは様々な基地等を訪れることが多く、Noah’s-Ark(ノアズアーク)StarGazer(スターゲイザー)双方に親しく話すことができる人物を作っている。本来情報部ともなれば影の存在であるだろうはずが、妙なことに、ポーネルは表立って堂々と情報収集を行うことができる稀有な存在だ。

 本人にも理解できていないが、不思議とポーネルは他者から信頼を得ることに長けており、同時に、彼の〝人を見る目〟も確かなモノがあった。ADaMaSがMhwを造るかどうかを見分けるポイントに〝パイロット〟があるが、人物的(スキルや特性ではない)にこれを見極めているのがポーネルだった。

 「ホントにっ!?ポーネルさんが言う実戦経験ってことは、どちらかの軍に所属している軍人ってことよね?ちょっとは期待してたんだけど、想像してるコトで合ってるとしたら、かなり頼もしいわね」

ミシェルは自分の胸の前辺りで、両掌を「パチン」と打ち合わせて見せた。他の者たちの表情にも明るい兆しが見え始めている。どうやら全員の想像が徐々に一致していっているようだ。

 「ポーネルさん、具体的に見込みありそうなパイロット、見当ついてるのか?」

勢い余ったナナクルは、すでに「パイロット」と言葉にしてしまっている。

「ええ、ついてますよ。ほぼ確実と考えているのは、実戦経験としては浅いでしょうが、caduceus(カドゥケウス)Kerukeion(ケリュケイオン)ですね。次いでAttis(アティス)でしょうか。微妙なのはpentagram(ペンタグラム)、難しそうなのはAIR-FORCE(エアフォース)といったところです」

 全員の表情が一段と明るくなるのを見て取れる。ミシェルの言った想像と合致していたことの証明だろう。〝微妙〟や〝難しい〟者も含まれていたが、もしも全てが揃えば、ADaMaS製Mhwに乗る実戦経験者、つまりエースパイロット級の腕を持つ者が11人集まることになる。それは直面するであろう危機に対するADaMaSとして、貴重な戦力となることは間違いない。だが、ポーネルの表情は他のみんなほどの明るさを持ち得てはいないようだ。見方を変えれば浮足立っているようにも見えるみんなを見る目に、若干の罪悪が滲んでいる。

「いいですか?先ほども言いましたが、コレは可能性の話です。さらに言えば、個人の意志としては期待できても、相手は軍部ですからね・・・物理的な可能性としては、正直なところかなり低い」

ポーネルの言葉は、後半になるにつれ言い淀んでいた。期待だけが先行して膨らみ過ぎたのではないかという危惧からだ。実現性を無視した〝期待〟というものは、その先で〝絶望〟へと姿を変えることが度々ある。人は難しい局面と対峙したとき、自然と希望的観測を見出そうとする。もしかしたらそれは、精神的な面での自己防衛なのかもしれない。そしてしばしば、その絶望の矛先が希望の入口を見せた者に向かうことがある。

 「ポーネルさんっ!ダイジョーブだって!軍隊なんてガッチガチでしょ?そっから抜けよーなんて、かーなりムズイことぐらい解ってるって!」

「そーですよー?キホン、しゃちょーたちが作戦?的なコト考えるんでしょ?まぁ、役に立つ場面少ないだろうけど、私たちでやれそうなコトは手伝うし!当たって砕けろ的なカンジでいいんじゃん?」

ADaMaSギャルチームの良さはここにある。どれほど深刻な内容であろうと、そのカルさは明るさへと姿を変え、周囲の雰囲気を一変させる力がある。これからADaMaSが向かうであろう方向で、彼女たちの存在は何よりも力と成り得る。

「マギーとアリスの言うとおりですよ?ポーネルさんっ!ざーっくりソコのヒトたちに話して、後はお任せでいいっしょ?」

マドカがミシェル、ローズ、ナナクルを次々に指差しながら(並びの間に居たウテナの位置だけ、ご丁寧に指先が上空を迂回していた)、「ポンッ」とポーネルの肩を叩いた。少し首を傾けるようにマドカの顔を見ると、そこには満面の笑みがあった。

 「まぁ、いつものコトですね・・・。詳細はまた打ち合わせるとして、おそらく、アンさんとユウさんのときにはマドカさん、pentagramはローズ社長の協力が必須になると思います。後は予測されるタイミングに我々の準備が間に合うかどうかが勝負所かと」

「え?私?pentagramの5人とは面識無いわよ?」

ポーネルの話す内容の中に、自分の名前が出て来ることは予想していなかったのだろう。オマケに、直接的に彼ら5人と顔を合わせていなかったのだから尚更だ。キョトンとした表情をポーネルに向ける。

 「5人との面識は無くとも、6人目・・・いえ、むしろ最初の1人でしょうか・・・とは旧知だと思いますよ?pentagramを直接指揮している人物、かなりの人格者です。StarGazer准将、フォレスタ・コールマン」

その名前を耳にしたとき、ローズの大きな瞳は、さらに大きく見開かれた。

「フォレスタが軍に居るコトは知ってたけど・・・そう、准将にまで成ってpentagramを指揮しているのね・・・」

大きな瞳を閉じ、顔を天井の方へ向ける。ローズは頭の中にある記憶の蓋を開け、古い記憶を引き出しの底の方から引っ張り出していた。15年ほど昔の記憶だろうか?引きずり出した記憶に残っているフォレスタは、ローズの実の兄であるホープと親しくしている姿ばかりだ。

 思いもかけず、兄ホープの姿まで思い出すことになった。実の兄であるものの、もう何年会っていないだろうか?ホープは実家を継いでいる。メール等での連絡は年に2,3度あるが、直接会ったのは10年近く遡らないと記憶に無いことに驚く。

 仲の良かったホープとフォレスタは、今でも連絡を取り合っているのだろうか?確かに3人ともが10代だったころ、3人で遊んでいた記憶もある。しかし、フォレスタは兄ホープの親友だと認識している。ということは、ポーネルの言う〝協力〟とは兄ホープを介するということだろうか?ローズはすっと眼を開き、ポーネルをじっと見つめる。

 「フォレスタは元気にしてる?」

「気苦労も多いようでしたが、元気ですよ。ちなみに彼にも、今の貴女と全く同じ逆方向の質問をされましたね」

いくら短い質問だったとしても、知りたい相手の名前が違うだけで、まったく同じ質問だったことが可笑しく思えたポーネルは、普段あまり見せることのない笑い顔を見せていた。

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