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NEXT  作者: system
第六部 Tartaros(監獄)
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第六部 第3話 支え

 軍に入ってからの2ヵ月間、アンは不自由を感じることの無い生活を送っていた。特に軍事訓練を行うわけでもない。軍というもの、戦争というもの、そして世界そのものを学ぶ期間を過ごした。そして彼女はIHCに戻り、NEXT-Level(ネクストレベル)の正確な測定を受けることになった。

 N3-system(エヌスリーシステム)がアンを見つけたとき、おおよその数値ではあったが、それはNEXT-Level最強と言われるニキ・アウラを超えていたのだが、正確な数値を計測したときには、さらにその場をどよめかせた。彼女が示したNEXT-Levelは1,978。それは圧倒的な数値だった。

 N3-systemはアンのNEXT-Levelがどういった特性を持っているのかを詳細に示しもした。NEXT-Levelは大きく「送信型:自身の思考を相手に伝えることを得意とする」「受信型:他者の思考を受け取ることを得意とする」「身体型:身体能力向上に影響を及ぼす」「操作型:電気制御を有する無機物の遠隔操作を得意とする」「感覚型:自身の感覚のいずれかまたは全部が発達」「万能型:前述する全てが平均的に発達」の6つに大別される。NEXTの多くは送信型、受信型、感覚型に分類されているが、分類されたタイプにしか能力が発揮されないのではない。要するに、いろいろ出来るがどれが得意か?ということだが、アンの場合、その数値の大部分が受信型に振れていた。

 アンは子供の頃から、他人が心の内で思っていることや、事象に対して感じた感情を自分のものとして感じ取って来た。とりわけ、他人の感じる〝恐怖〟が自分の中に流れ込んでくる感覚は、少女であったアンの自我を崩壊させるに十分な影響を及ぼす。アンのことを理解し、その自我をかろうじてアンの内に留めておくことを成し得た存在は〝家族〟だけだった。

 その中でも兄の存在は、アンにとって大きな支えとなった。アンの兄ユウ・ハートレイは、一生をアンの側で過ごすことが叶わないことだと理解していたのだろう。アンのNEXT-Level(当時は超能力的なものだと認識していたが)をコントロールする方法を探し続けた。長い年月をかけ、アンはユウの尽力も手伝ってその術を手に入れた。

 アンがNEXT-Levelをコントロールできるようになって2か月後、事故により両親が他界する。そのとき集った人々の多さは、2人の両親の人望を表していたのだろうが、力のコントロールがこの日に間に合ったことを幸運だったとユウは思った。

 やがて2人はそれぞれの道を歩き始める。ユウは技術者としてNoah’s-Ark(ノアズアーク)に入隊し、アンはIHCの社員として、稀に強すぎる感情に揺れることはあっても、平穏な日々を過ごしていた。

 そんなある日、ユウに1本の電話が入る。相手はヴォルフゲン・フロイト。彼の乗機であるAttis(アティス)の整備をするようになって以降、懇意な相手だ。年齢差はあるが、友人であり、時には親代わりもしくは兄のような存在だ。そのフロイトから告げられたのは、軍にアンがNEXTであると知られたことと、軍がアンをTartaros(タルタロス)へ入れようとしていることだった。

 ただの整備士になんの権限もあろうはずがない。それどころか、自分が軍属であることが悪い方向に働きかねない。実際問題、頼れる人物は1人しかいなかった。ヴォルフゲン・フロイトだ。

ユウ・ハートレイという男は、実に妹想いの人物だった。それはおそらく、少女であったころのアンを、誰よりも近くで知っているからだろう。アン・ハートレイの幸せを誰よりも願っていると、この男の前では口が裂けても言えない。それほどの想いはユウにフロイトを通じて、Tartarosへの転属を果たさせた。いずれ来るアンの出撃に対し、その護衛を目的としたMhw(ミュー)パイロットとして。

 その決定には多数の思惑が絡んでいたのだろう。例えばTartaros側の人間からすれば、恐ろしいほどに強力なNEXT-Levelを持つアンを手懐けるのに、ユウの配属はうってつけだと考えた者も居る。違う立場の者は、ユウを戦場に送り込むことに対し、アンを護るためにはコレが最善なのだと自分を言い聞かせる者も居る。ある意味でその結果は、多くの人が望んだ結果だとも言えた。そして今、ユウ・ハートレイは、Tartarosへと歩を進めるアン・ハートレイの横に並んで歩いている。


 「へぇ~、ユウ、オマエMhwのパイロットとしてもやって行けるかもな!」

その当時はユウもフロイトも軽い気持ちだった。何もホンキでMhwパイロットへの転向を考えていたわけじゃない。

「冗談は止してください・・・いや、確かにシミュレーターで操る分には楽しいですけど・・・改めて思いますが、ヴォルフを尊敬しますよ」

それはユウの本心だ。本質で言えば、シミュレーターで自身が命を落とすことは無い。これまで数えきれないほどの出撃を繰り返しているフロイトが、常に自身の命を危険に晒しているそのプレッシャーは、自分に置き換えれば押しつぶされてしまうと思える。

「ハハ、心配するなって!何も、オマエを戦場に引っ張り出そうなんて思っちゃいないさ。純粋にその力量に関心してるだけでな。いや、実際、操縦覚えたてにしちゃあオマエの技量が並じゃないのは確かだぜ?」

Attisのコクピットを使用してのシミュレーターではあったが、機体設定はノーマルのeS(エス)で起動させている。そしてシミュレーターはこれで2度目(と言っても1回目は操作の基本をやっただけだが)だ。装備も基本的な設定だった。シミュレーターの難度も、一般パイロットが行うレベルに設定していた。ユウの叩き出した7機撃破という結果は、一般兵士と比較してもかなりハイレベルな結果だった。

 ユウは時間があればAttisのコクピットに座った。目に見えて力量が上がっていくユウを見て、フロイトも楽しかった。普段単独行動の多いフロイトは、もしも誰かとコンビを組むなら、こういうパイロットが理想だとさえ思った。

 ユウは機体設定を〝Attis〟でシミュレーションをしたこともある。だが不思議とeSとそれほど大差ない結果、むしろeSでの結果の方が良いとさえ言える。

「オマエはオレと違って近接格闘よりオーソドックスな近距離タイプなんだろうな。ちょっとノーマルなsks(スケィス)でやってみ?」

16機撃破に加え、ほぼ無傷で帰還まで果たすという驚くべき結果を残した。その記録をたたき出したユウ自身が、自分の技量に驚いているように見える。

「オイオイ・・・ユウ、オマエを技術者にしとくにゃあ、勿体ないって気がして来たぜ・・・いや、オマエの技術者としての技量がすげぇのは重々承知だがな」

「確かに驚きました・・・eSとsksで乗る側としてはこうも違うモノなんですね・・・いやぁ、参考になります」


 この後も何度か続けたユウのシミュレーター結果を手に、フロイトは彼の要望に応じてユウをTartarosの特Aパイロット(アンのことだ)専属の護衛に推薦した。フロイトの背後にはディミトリー中将の影響力があったことも手伝って、整備士でありながら、特殊な任務に就くMhwパイロットの候補にユウ・ハートレイの名前が挙がった。

 そこには5人の名前があり、後は実力勝負だった。ユウ以外のパイロットは4人とも歴戦のパイロットだ。それでも、ユウは彼らを超える成績を残し、最後は堂々と妹であるアンの護衛を勝ち取った。


 アンがTartarosへ来て2週間、自分が何をすれば、どうすればいいのか分からずに自分が置かれた新しい環境下への不安を募らせていたころ、彼女の目の前にユウが現れた。最初、兄の決断が自分のせいだと自身を呪った。だがそれ以上に、ユウが目の前に居ることに安堵した。そのとき語ったユウの言葉は、彼自身の心からあふれた言葉だった。

「やっと・・・やっと僕の望が叶ったよ。ただいま」

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