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第五部 Valhalla(戦死者の館)
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第五部 終話 戦死者の館

 「よぉ大将?コレからどうするんだぃ?」

すでに陽は落ち、辺りは一面に闇が覆っている。Valhalla(ヴァルハラ)の本拠地は、見渡す限り人工的な灯りの無い砂漠にあった。拠点としての建造物は全て地下に存在し、3機のMhw(ミュー)を収納するために開いた口も、遮るものが無い風によってその痕跡を一切残していない。おそらく各種のジャミングシステムを搭載したその地表は、宙を漂う衛星にも影響を与えているのだろう。その場所を特定するのは不可能と言っていい。

 ヤーズ・エイトから戻った3人は、高級マンションにありそうな広いリビングでくつろいでいる。その部屋の一角にはバーカウンターが備えられ、テレビが無い代わりにプロジェクターが備えられている。音量は絞られているが、壁に映し出されている映像は先ほどまで居たヤーズ・エイトのモノだ。

 「1週間ぐらいは何もしないさ。おそらく民衆が勝手に動き出してくれる。その後で、それぞれがどう動くか次第だよ」

バーカウンターの中に立つディミトリーは、4人分のアルコールを準備している。どうやら自身はブランデーらしく、先に注がれているソレを時折口に運んでいる。他の3つはウォッカ、カルアミルク、ビールのようで、折角用意したカクテル用のシェイカー等が、出番を失って片隅に並んでいる。

 「へぇ・・・まぁ、Laevateinn(レーヴァテイン)直すのにちったぁ時間かかるだろうし、ちょうどいいか。んで、どれぐらいかかんのよ?」

カーズはソファから立ち上がりディミトリーの方へと向かった。差し出された3つのグラスのうち、ウォッカが注がれたグラスを一息に飲み干した。そのままグラスをカウンターに戻すと同時に、ディミトリーに人差し指を立てて見せる。次いで指を三本揃えて横に倒す。指3本分まで注いでくれというサインだ。ディミトリーがそれに応えるようにもう一度ウォッカに手を伸ばすのを確認すると、ビールの注がれたグラスをカウンターの端に座るルシオンに差し出した。

 「1週間あればいいだろう。なぁに・・・あのAttis(アティス)と対等にヤりあったんだから、これぐらいの損傷、なんでもない」

差し出されたビールを受け取る時、受け渡しで発生した振動が、グラスからわずかに盛り上がったアワをグラスに沿ってこぼれさせた。カウンターの上に泡の池が作られるが、それを意にも介さず、ルシオンはグラスの半分ほどを飲み干した。

「カーズさんもルシオンさんも、満足そうでいいよな~・・・僕なんて、行って帰って来ただけッスよ?2人が闘ってるスキにこっちで狙えたけど、ヤったら絶対カーズさん怒るし・・・」

1人ソファに残っていたザイクンが、ソファの背もたれに両肘を乗せるように逆向きに座り、不満そうな表情を見せている。Attisとの戦闘に満足を得たカーズと、自身が製造したMhwがウテナの開発したMhwであるAttisと対等であったことに満足しているルシオンと比べれば、確かにザイクンは何もしていない。

 「あぁ、ブチギレるな、ソレ。なぁに・・・もうちょっとすりゃあ、オレたちの出番も増えるだろうさ・・・それにしても何だ?コノ飲みモンは?オンナかよ?」

カルアミルクの注がれたグラスを上から指先だけで掴み上げ、ザイクンの方へ持っていく。カーズは粗野に思われがちだが、それが何であれ、実力を認めた者に対しては粗野が鳴りを潜める傾向にある。模擬戦において、カーズは射撃系攻撃による被弾が極端に少ないが、ザイクンは被弾だけでなく、Mhwの部位損傷レベルのダメージを受けた相手だった。それ以降、カーズはザイクンを戦闘における相棒と位置づけし、絶対の信頼を置くと同時に可愛い後輩のようにも接していた。

 「コレ、甘いしウマいんッスよ?オンナの子ウケもいいし。それより、僕のFreikugel(フライクーゲル)にも出番作ってくださいよ~?」

ザイクンはグラスから1口分だけ口に含むと、ディミトリーの方へと視線を向けた。背後の映像にはちょうど、彼ら3人のMhwが映し出されている。

「すぐにでもそうなるさ。ところでルシオン?Valhallaの軍備はどうかな?」

「軍備と言っても、ほとんどのMhwが志願パイロットによる持込ですからね。大隊編成分ぐらいは1,2週間ぐらいですぐに整いますよ。ソイツらと一緒に流れてきた技術者系もいますしね」

ルシオンの返事を一緒に飲み込むかのように、ブランデーを喉に流し込む。

「うん、いいタイミングだね・・・それが整い次第、カーズとザイクンにはそれぞれ基地攻略を開始してもらおうかな?その頃には世界も動いているだろうし、いよいよValhallaの本格稼働開始といこうじゃないか」

持っているブランデー入りのグラスを、部屋を照らす照明と自身の眼の間に掲げる。光がブランデーの中で屈折率を変える様が美しい。

 「なぁ、大将?ところで、Valhallaってのは何なんだ?」

「戦死者の館と言う意味だよ。戦争で散った命に敬意を表してね」

Valhallaは北欧で語り継がれる神話に登場する。それは主神であるオーディンの宮殿であると同時に、ワルキューレという存在によって戦士の魂(エインヘリャル)が集められる場でもある。そこでは、ラグナロクと呼ばれる終末戦争に備え、集められた戦士たちが日々鍛錬を繰り返す。

 ラグナロクとは終末の日のことを指す。それは神々とエインヘリャルの軍勢が、巨人の軍勢と闘うことを示す。ディミトリー曰く、この巨人の軍勢とは、現代において巨人と揶揄できる存在を指すようだ。

 巨人とは何なのであろうか?思うに、ただ人間と比較して身体が大きいという単純なモノではない。そう考えれば巨人が示す存在が、現在でいう〝軍隊〟であることは容易に想像がつく。ディミトリーはこれに加えて〝兵器産業企業〟も含めているようだ。

 巨人に対するエインヘリャルは、今回のディミトリーの演説によって目覚める民衆を指すのだろう。ならば、エインヘリャルを従える神とは、ディミトリーを筆頭とした彼らになるのだろうか?

 「いやいや、私たちも人間だよ?神を名乗るなどおこがましいことだよ。それでもそうだね・・・せいぜい、ワルキューレといったところじゃないかな?」

「ふーん・・・で、ワルキューレって?」

話を聞いてはいたものの、神話などには一切興味の無いカーズは、本当に知りたいと思っているわけでもないが、ただ流れとして質問したに過ぎない。その点、ザイクンは知り得ているようだ。

 「ワルキューレって、戦士の魂を集める存在のことでしょ?確か、半分人間で、半分神なんじゃなかった?そんで、ラグナロクって神々の黄昏とも言うんでしょ?」

「ワルキューレは合ってるけど、神々の黄昏は間違いだよ?」

ラグナロクは正しくは〝神々の(死と滅亡の)運命〟である。〝神々の黄昏〟という言葉は広く流布しているものの、実は誤訳である。

 「なんだよ、知ったかぶりかよ。おおかた、ゲームにでも出て来るんだろ?」

カーズの予想は正しかった。ザイクンは時間さえあればゲームに興じている。Mhwパイロットとなって以降は、Mhwによる戦闘ですらもゲームのように考えているフシがある。

 「まぁ、私たちはワルキューレであり、その行いは、究極的には神の意志の代行だよ。私はね?神とは地球なんだろうと思うのだよ。人類だけじゃなく、全ての生命を生み出し、育んだ存在は、結局のところ〝地球〟という言葉に集約される。地球が意志のある神ならば、この世界に巨人はいらないだろう?」

 人は争う生き物だ。それを避けることはできない。争いが起きることを避けられないならば、神の代行者は何を成す?それが彼らValhallaの進む道だ。

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