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第五部 Valhalla(戦死者の館)
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第五部 第9話 宣戦布告

 「ねぇね?そう言えばディミトリー中将?って、結局世界を救ったってことでオケ?」

それはマギーの素朴な疑問だったのだろう。少し前にミシェルがやろうとしたことを、いとも簡単にやってのけたマギーに、ローズは少しばかりの尊敬を抱いた。

「アンタって子は・・・まぁ、ソレも良さかな・・・でも、結果だけ見たらそう感じるわよね?けど、だったら、ディミトリー中将は反物質を正しく使おうとしてるの?ウテナ?」

 ディミトリーと会った最後の日、彼は反物質を「兵器として使用する」と言い切った。そしてその相手は、「戦争の継続となる全て」だとも言っていた。

もしも資源衛星がヤーズ・エイトに落ちていた場合、Noah’s-Ark(ノアズアーク)による報復は避けられなかったと予測できる。報復に次ぐ報復は誰かの意図どおり、むやみに戦局を悪化させていただろう。結果からすれば、反物質を使うことで、確かにディミトリーは戦争の拡大を止めた。

「いや、ローズ・・・まだ早いさ。この後、ディミトリーが何をするのかで決まるんじゃないか?」

珍しくナナクルの表情が険しい。ナナクルはADaMaS(アダマス)を大きくするため、独学で様々なことを学んできた。その中には政治や経済から人心についてなども含まれている。そこで得た知識が、ナナクルに安心にはまだ早いと伝えているようだった。

 そこに居た全員、ナナクルの言葉を最後にする合図だったかのように、一度テレビに映るヤーズ・エイトの空へ視線を向けた。そこに若干のノイズとテレビ局のスタッフと思われる人物の「あっち!あっち!」という音声が入ったかと思うと、画面が急に旋回し、岩場の方へズームしていく。ピントが合うまでの僅かな時間、そうしたところでテレビ画面なのだから見えはしないのだが、自然と目を細めて見入る。

 「なんだ?あの3機・・・Noah’s-Ark系の機体みたいだが・・・知らない機体だ」

そういうナナクルと先に目が合ったのはクルーガンだ。開発部の人間なのだから、現存する機体は全て把握していると自負しているクルーガンだったが、画面に映る3機に見覚えは無かった。ナナクルの視線に気づいても、ただ首を横に振ることしかできない。

「アレは僕が設計した機体だ。ルシオンが作ったんだろう。ルシオンなら、図面があれば完成させるだけの技量はあるさ」

それは誰もが懸念していたことだったのだろう。誰もウテナの方を向こうとはしない。全員が、画面に映し出されている3機のMhwを見つめ続けている。

「御覧頂けていますでしょうか?今から流す音声は、あの中央の機体から流れている音声です!」

テレビクルーの1人がそう言うと、数秒後に聞き覚えのある声がテレビから流れてきた。

 「私はかつて、Noah’s-Arkの中将だったマクスウェル・ディミトリーだ。この地球は、本来美しい惑星であった。それがどうだ?今や人類という種が、自らの傲慢によってこの惑星を破壊しようとしている。

 人類は増えすぎた。だがそれは生物の持つ本能なのだからいい。地球に収まりきらなくなった人類が宇宙へ出たことも必然だろう。だが、それでも人類が自らたちを抱えきれなくなった。そしておろかにも、人類が次にとった解決策は〝戦争〟であった。戦争という無意味な行いによって、どれほどの命が失われた? 

 私の声を聞いている者たちに問う。評議会の決議とは何であった?人が己の利益のため、他者を支配することを宣言したように聞こえたのではないか?

 そして支配を宣言された者が起こした行動とは何であった?一瞬でこの辺り一帯の生命を全て消し去ってしまう愚行ではないのか?

 この一連は誰が仕組んだものだ?どこからが仕組まれたものだ?人が人の生き死にを決めて良いか?他の生命はどうだ?そもそも地球を好きにして良いか?あの衛星はそれらの問いに「YES」と答えた者たちによる傲慢と独断ではなかったか?

 あの資源衛星は私が消し去った。私の乗るこの機体、Pluriel(プルリエル)には、反物質を放つ機能が搭載されている。その威力はご覧いただいたとおりだ。私はこの力と、両脇に控える2機のMhwを筆頭とした武装組織を立ち上げる。その名は〝Valahlla(ヴァルハラ)〟。その目的は1つだ。私は宣言する。この世界から、人類同士による争いを根絶する。

 Noah's-Ark(ノアズアーク)ならびにStarGazer(スターゲイザー)に告ぐ。覚悟せよ。私は戦争行為への介入などと生温いことを言っているのではない。私は、アナタ方2つを破壊すると宣言している。これは2つの勢力に対する宣戦布告だと受け取ってもらって結構だ。Valahllaの前には如何なる武力も無意味であることを知るがいい。

 そしてっ!自らを戦争と無関係の被害者だと認識する人々よ、正しく自らを定義することを願う。人類は2つに分かれて争いを始めた。人類であるのならば、そして今回の資源衛星落下を目の当たりにしたのならば、すでに戦争と無関係な〝一般市民〟という分類が存在しないことを認め、各々が自らの意志を示せ。

人類は変革の時期を迎えていることが、世界に正しく認識されることを願う」

すぐに録音を開始し、追いかけながら放送したのだろう。音声のディミトリーが言い終えるよりもわずかに早く、Plurielと呼んだ機体がその場で反転を始めていた。ディミトリーの演説が流れる間、誰1人として声を発する者は居なかったが、反転するPlurielを見たナナクルが口火を切った。

「アレはダメだ・・・おい、ウテナ・・・アレ、本当にディミトリー中将だと思うか?」

おそらくディミトリーの演説を聞いた彼の言うところの一般市民は、彼の言葉に心を打たれたことだろう。ヤーズ・エイトでの戦闘を目の当たりにし、そこに住んでいたはずの人々の惨劇を見た。その上、最後に出されたカードは資源衛星落下による〝無差別殲滅〟だったのだから、それがいつ自分の身に起こるかもしれないと考え、Valahllaの掲げる大儀に傾向する者が溢れることが想像できる。何よりも、20年も続くこの戦争を終わらせると宣言したのだ。英雄視されて然るべきだろう。だが、少なくともADaMaSが知っている限りのディミトリーという人物は、戦争に与しない人々を巻き込むようなマネはしない男だったはずだ。そういう人々を護るために、戦争を終わらせたいと願っていた人物だったはずだ。

「声だけならそう聞こえたけど・・・」

「ああ、声だけってなら、何とでもなるからな。誰かが彼を装っているのか・・・いずれにしても、あの内容は世論を引っ張るぞ?」

ミリアークもBABEL(バベル)で言っていたが、世論とは〝自らそうだと認識せず、武力を持っていない1つの勢力〟である。人類史を見た時、その世論を引っ張る者が現れたとき、そこで起こり得るのは〝革命〟と呼ばれる新たな戦争だ。今回もそうなる保証はないが、革命が起きた時、それが成功する場合が多いことからも、世論がいかに強大な力を持つかが解る。

 「何?それじゃあディミトリー中将は英雄にでもなろとしてるの?」

ローズの言葉には少しばかりの怒気が混じっているように聞こえる。だが、口元をよく見れば、そこが小刻みに震えているのが見えた。人は怒りがこみ上げるときにも体を震わせることがあるが、その僅かな震えはそうではないようだ。

 「ローズ・・・そうね、そうかもしれないし、違うかもしれない。彼の真意はまだ解らないけど、それを知る手がかりなら、あの画面の向こう側にあるわよ?」

ミシェルが指差すテレビ画面には、依然として3機のMhwが映し出されている。違うのは、望遠による撮影ではなくなっていることぐらいだ。

 すでにStarGazerによるヤーズ・エイト包囲は解かれ、StarGazer所属Mhwの姿は見えない。そもそも資源衛星落着に合わせて後退を始めていたのだから、そのまま撤退したと考えるべきだろう。画面の手前には、以前とは異なる景色となってしまったダカールの街と、そこここに立つMhwの姿がある。その中に1機、ADaMaSがよく知るMhwの姿があった。

 「あの戦場には、Attis(アティス)が居るわ。そのパイロットはヴォルフゲン・フロイト。彼がディミトリーを前にして動かないはずがない・・・そう、ヤーズ・エイトはまだ戦場よ?」

片膝を着き待機しているように見えたAttisが、まるで何かを決意したかのように立ち上がった。

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