第四部 第11話 遊び心
「しょうがないわね・・・サプライズにしようと思ってたけど、お見せするわ」
3人がBM-01を見ているのは5,6人ほどが詰める事務所ほどの部屋だ。その部屋は一面が全てガラスで出来ており、そこからMhwが立ち並ぶと思われるハンガーを一望できる。ハンガー内にある様々な設備を一括コントロールするための部屋だということが解る。管制室のような様子を見せるその部屋の1席で、ミリアークがコンソールを操作すると、ガラスが一瞬で白く曇ったように変化した。
そのガラスは、通常はガラスとしての役割を果たすが、必要時には大型のディスプレイとして機能する性能を有していた。ミリアークはそこに、BABEL-ForceSystemと題された系統図を表示させた。現れた系統図の向かって右側には大きな空白が存在している。
系統図は下に向かって広がっている。頂点には〝0A〟の下に〝ROUKE〟と書かれた四角いボックスがある。その下にはHaniel、Uriel、Samaelがそれぞれ、やはりボックス内に書かれている。その3機それぞれの下には、BM-02とかかれたボックスが複数ある。
ボルドールのHaniel、ロンのUrielの下には、それぞれ12機のBM-02が存在するように示されている。それはいい。しかし、ミリア・クロンのSamaelの下には、24機ものBM-02が配されている。しかも、よく見るとそれら24機は6機毎の4小隊に分けられているのが見て分かる。
「誤解しないでね?ミリアを特別扱いしてるわけじゃないのよ?BABELの軍隊としては彼女たちが主力部隊ってコトね」
ミリアークはBM-02を空中で指差した。
「いや、と言うか・・・これだけの数、いつの間に?」
「ロン、違うと思いますよ?さっきまでそこには3機しか無かったんです。これから造るつもりでしょう?」
ボルドールは顎で巨大なモニターとなったガラスを指してみせた。しかし、実際に指示した場所はその向こう側に広がっていた巨大なハンガーだ。モニターに(現状)表示されているMhwの総数は52機だ。記憶に残っているハンガーの広さは、それだけの数のMhwを収容するに十分なスペースがある。
「そうよ?でも、設計はすでに終わってるし、何なら製造も随分進んでるから、そう時間もかからずに全機揃うと思うわよ?まぁ、まずはコレ見てみなさい」
ミリアークが指でコンソール上のBM-02を右側のスペースの方へスライドさせる。すると、ボックスの枠が一気に広がり、BM-02の三面図と機体スペック表が現れた。
BM-02の外観は非情にシンプルなものだった。ある意味、Noha’s-Ark最初の量産機であるeSに似ている。スペック表に現れている各種性能値を見ても、お世辞にも優秀な機体とは言えそうもない。BM-01のサポートを行う機体としては、見劣りが過ぎる。これではせっかくパイロットが№’sだというのに、その能力を活かしきれないのではないだろうか。
「ミリー?コレじゃあ、オレたちの機体についてくることも難しいんじゃないか?」
「ええ、このままならね」
ミリアークが微笑んでいる。いつもの含みのある笑みだ。
「ふーん・・・ならやっぱり、あのハードポイントがミソってことかい?」
BM-02の三面図を見る限り、機体各所に相当数のハードポイントが設けられていることが解る。脹脛、同外側側面、膝、腰部前後左右アーマー、前腕、胸部、背部バックパックに4つ、肩アーマー上面及び側面、よく見ると頭部側面にも小型のものが見える。その数は実に24カ所にも及ぶ。
「なるほど・・・それぞれ役割に応じて装備を換装できるってことですかな。その組み合わせ次第で、スペックが大きく変化するうえに、そのバリエーションは膨大な数になると」
ミリアークの笑みが大きく広がる。
本来、Mhwはパイロットに寄っていく。パイロットの持つクセや特性に応じて、ある程度は日々のメンテナンスの中で自然とカスタマイズされていく。それがさらに進んだ場合、それはカスタム機として形を変える。
実際に、特性の異なる複数のMhwをある意味で同時期に乗りこなせるパイロットは多くない。ここで言う〝乗りこなす〟という表現は、普通に動かすことを指すよりもはるかに高いレベルでの操縦技術があることを意味している。現状で知る限り、それに最も優れたパイロットはStareGazerのショウ・ビームスだろう。彼もN3-systemで調べればNEXT-Levelの持ち主ではないかと疑いたくなるほどだ。
元はガラス製の大きな窓であったそこに映し出されているBM-02は、もしかしたらこの後に表示されるかもしれない複数の換装パーツによって、乗り手はそのままに特性を如何様にも変えてしまう。だが、その〝乗り手〟として選ばれているのは、ミリアークが№’sと呼び、全員がカテゴリーグリーン以上の能力値を持つという少女たちだ。この特性の無限変化に対応することが出来ると考えていいだろうし、そうでなければ、ミリアークの今の笑顔は見ることが出来なかったはずだ。
「どうかしら?コレが私たちBABELの軍事力よ?」
未だ頂点の〝0A〟は明かされていないが、ソレがミリアークの乗機だということは解っている。それがBM-02はもとより、BM-01と比較してもより強力な機体であろうことも容易に想像がつく。表示はされていないが、たぶん、0Aにも何機かのBM-02が編成されているだろう。おそらく総数では70機前後になると予測されるBABELの軍事力を、ミリアークは〝私たち〟と言った。
ロン・クーカイは考える。〝私たちBABELの〟なんてよく言える。〝私の〟軍事力の間違いだろう?と。そしてそうだと分かっていても、自分の都合に合わせて利用してみせる。
ボルドール・ラスは考える。今は〝私たち〟という表現で構わない。いずれ、ミリアーク個人のものだと正々堂々と言えるように私が世界を動かす。そして唯一、ミリアークが頼るべき相手となるのが自分であればいい。
「これならば、数の不利を覆すことも可能でしょう。この部隊が軍として正しく機能すれば、相手に同様のNEXTで構成された部隊が存在しない限り、負けはしないでしょうな」
ボルドールの思考は次第に歪みを生じさせている。その歪みの中心、発生源に有る存在は、ミリアークに他ならない。
「だといいがね。ミリー、他に隠してるコトないか?・・・いや、まて、そもそもミリーの乗機を見せてもらってないな」
ロンは画面に映し出されている頂点の〝0A〟と表示されている方を指さした。ロンにすれば、ここまでいいようにミリアークにあしらわれている感があったのだろう。〝してやったり〟と言いたそうな表情に見える。だがしかしミリアークは、そもそも見せるつもりであったかのように、〝0A〟を右にスライドさせた。
「コレが私の機体、ROUKEよ。どう?美しいでしょう?」
そこに現れた姿は3面図ではなく、実機の映像だった。あえて言うとするならば、その姿はNoah's-Ark寄りのようだ。中でも、背後から上方に突き出している構造体が目を引く。背面が撃ちしだされた方へ眼をやると、それが背部推進機構と一体化されているモノだと解かるが、その目的が理解できない。現状では前面投影面積を悪戯に増やしているだけのように思えてならない。脚部が少しマッシブな印象があるが、全体的に細身な機体は機体色の白がより引き締めて見せている。各所にポイント的に配色された赤のおかげだろうか?美しさと同時に畏敬すら覚えるミリアークによってその姿を現したROUKEという機体は、おそらくMhw史上初の機構が実装されていた。