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第三部 AIR-FORCE(空軍)
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第三部 第6話 空牙

 「さすがに巡行速度はThe(ジ・)kuynbout(クインバウト)が一番速いな」

巡航速度という観点から見れば、最も遅いのはFAUABWS(ファウアバウス)だ。それでも、先行するα隊に追いつくに十分な速度を維持できるだけの速度は有している。そして後方から迫るΔ隊が速度を上げているのが視認できた。

「さっきのオペレーターの女性、ベクの知り合いか?」

「ん・・・?」

会話のやり取りからして、オペレーターの女性とベクスターがただの知り合い以上の関係にあると予測したが、返って来たベクスターの返答ははぐらかしたり、照れ隠しといった様子が無く、純粋に理解できていないといった雰囲気が言葉にあった。それはそれで、ルアンクからすれば不可解な反応だ。

「え?」

「ああ!?違うチガウ!」

ほんの少しの間を置いての慌てた様子の否定に、ルアンクとケビンはニヤリとする。

「またまたぁ。別に隠す必要もないっすよ?白状しちゃえよー」

案の定、茶化すのはケビンだ。

「いや、ホントに違うんだよ、オマエらの認識が」

α隊との合流にはまだ時間がある。それまでの束の間、こうした話もいいかとルアンクは思うことにした。

「どういうことだ?」

「いや、な。あの子はオピューリア・カナン。オピューリアを略して〝オペ〟なんだよ。戦争が終わったら一緒にとは思ってるんだがな」

なるほど、確かに認識が違う。完全にオペレーターの〝オペ〟だと思っていたのだから、話が噛み合うはずもない。オマケにいとも簡単に彼女であることを認めるどころか、結婚までほのめかされたのだから、ルアンクは苦笑する他ない。

「それは確かに認識が違うな。さぁてと、戦争の終わりはまだ見えないが、少なくともこの幸せ者を〝オペ〟に返すとするかね・・・2人とも、時間だ。まずはThekuynboutが先行する!」

「あいよ!αにゃあ、オレから言っとくから、気にせずオレとオペのために突っ込め!」

「ベク・・・隊長に祝ってもらえなくなるっすよ?フォロー入るっす!」

 Thekuynboutがスラスターを全開にした。Mhw(ミュー)でありながら、音速の壁を突き抜ける。もともとが戦闘機乗りであるルアンクにとって、音速越えによる体への負荷は気にするほどのこともない。耳元でベクからα隊への指示が聞こえる。

「こちらAIR(エア)-FORCE(フォース)。Thekuynboutが先行する。各機散開して、煽り食らってるヤツらを叩き落しな!地上のMhwはオレのFAUABWSとpierrot(パイエロット)がメンドー見る!」

ベクスターが全てを言い終えるより早く、Thekuynboutがα隊を飛び越え、敵戦闘機編隊の中へ突っ込んだ。

 これが戦闘機同士であったなら、真っすぐに突っ込むなど暴挙以外の何者でもない。しかし、StareGazer(スターゲイザー)にも存在している戦闘機乗りたちは、突っ込んでくるソレが何であるのかを理解することが出来なかった・・・当たり前だ。Mhwがスーパーマンのごとく真正面から飛んで来るなど、だれが想像できる?

 StareGazer戦闘機部隊の隊長は不運としか言いようがなかった。隊長であるが故に、部隊の中央に自機を置いていた。その位置はThekuynboutの進路上だ。Thekuynboutの翼基部にあるビーム刃生成器から、翼と同じ長さのサーベルが翼前に生成された。ピンク色の鮮やかな光を放つそれが、すれ違う敵戦闘機を2分割にしていく。その刃が届く範囲にいたパイロットたちは皆、ソレがMhwであることに気付くことはできなかった。

 「全機散開!な、なんだあれは・・・うおお、Mhwが飛んでいるだとっ!?」

StareGazerの戦闘機乗りもなかなかに優秀な者が多いらしい。得体の知れないモノに部隊の指揮官である隊長機が一瞬で落されたにも関わらず、おそらく副官であろう者が瞬時に散開を指示した。しかし、相手がMhwであることは認識できていても、それがどういう意味なのかを理解するには、まだ経験と時間が足りていない。

 通常、戦闘機同士がすれ違った場合、次に相手を正面に捉えるまでにそれなりの時間を要する。戦闘機はその場で方向転換することはできないからだ。だが、Thekuynboutは違う。指示を出したばかりの副官がミラー越しに見たものは、空中で翼を広げたMhwと、それが構えるライフルが光を放つ様だった。その光はあっという間にミラー全体に及び、副官の人生はそこで幕を閉じた。

 「こりゃあ・・・オレたちの出る幕はほとんどねぇぞ・・・」

指揮系統に混乱の生じた敵戦闘機部隊は、α隊の3機一体の編成攻撃の前に脅威ではなかった。それでも、α隊はまだ出撃した甲斐があったというものだ。後続のΔ隊に至っては、現着時にすでに戦闘行動は成されていなかった。

 3発のビームライフルで4機を撃墜したThekuynboutは、再び機体を加速させる。驚くべきことにThekuynboutは、スラスターと翼の向きを変え、空気抵抗による急制動をかけた瞬間に機体の向きを翼と水平になるように位相を揃えることで、角を持つ軌跡を描くことが可能だった。自分たちと同じ速度で空を飛ぶMhwが、自分たちには不可能な直角的な方向転換をかけて、突如として向かってくるなどと、誰が想像できようものか。

「ルアンクのヤツ・・・戦闘機乗り時代でも相当な腕だったが、アレ・・・Thekuynboutだったか?の性能と合わさってエゲツナイことになってるな・・・」

「隊長、ソレってそんな昔の話じゃないですよ。自分たちにもできるんですかね?」

α隊の隊長機を含む3機編隊は、すでに現状監視に移行し、戦闘行動からは離脱していた。

戦場のさらに上、俯瞰で見ると改めてThekuynboutのすさまじい機動性がよく分かる。

「Mhwには乗れるようになるだろうが、ほとんどの者がアイツの領域には辿り着けんだろうさ。とは言え、焦る必要は無い。戦闘機が戦場から姿を消すことは無いだろうからな」

 眼下で高速移動を繰り返すThekuynboutをただじっと見つめる。そのあまりの機動力に自機の死角に入られれば次の瞬間にはその行方を見失っている。これまで、戦闘行動の主役がMhwに移り変わろうとも、戦闘機の持つアドバンテージは確実にあった。戦争の様相が変わっても、空を制してきたのは戦闘機だった。しかし、今この戦域において、空を絶対的に支配しているのは、間違いなくThekuynboutだ。α隊でもなければ、敵部隊でもない。α隊も敵機を落としてはいるが、おそらく、Thekuynboutたった1機で全て片付いただろうことは想像できる。

 まだ残りの2機を目にしていないが、過去にこれほど空を自由飛行するMhwは存在していない。それを可能とするMhwを生み出せるのは、うわさに聞くADaMaSだけなのだろうか?もしもThekuynboutほどでなかったとしても、ある程度の制空権を得ることができるMhwが量産されたとするならば、それは戦闘機の持つアドバンテージがほとんど失われることを意味する。

「まぁ、あの機体も、それを乗りこなすパイロットも、どっちも無二だとは思うがな・・・」

「何か言いました?」

「ん?いいや、何でもない。それより、地上の敵Mhw部隊の方はどうなっている?こっちの状況に気付いて撤退行動に移っていればいいのだが・・・」

 空はThekuynboutが制した。同じADaMaS製Mhwだが、相手もMhwだ。ベクスターとケビンの2機は地上も制することができるのか?そう考えるα隊隊長は、自分の疑問に疑念を抱いた。その疑念は、今度はハッキリと聞こえるような、それでも独り言として口から飛び出した。

「地上だって?・・・あの2機も〝空〟じゃないのか!?」

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