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第三部 AIR-FORCE(空軍)
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第三部 第2話 Thekuynbout

 「これも隊長の努めかな?」

Mhw(ミュー)のコクピットは胸部に存在する機体がほとんどだ。基地や戦艦内など、定められた場所にある場合は専用のリフトなどが備え付けられているが、それの無い場所の場合、人力で乗り込むことは不可能だ。そのため、機体によってはコクピットハッチに昇降用のウインチが内蔵されている場合も多い。ADaMaS(アダマス)製Mhwな全ての機体にこの昇降用ウインチが備えられていた。ルアンクは地面すれすれまで降ろされているワイヤーを掴み、先端に備え付けられたタラップに足を乗せる。その重みに反応して巻き上がり始めたワイヤーがルアンクの身体を宙に持ち上げ始めた。

 「いや、チガウだろ?」

「っすよね・・・ジャンケンが弱いってだけっす・・・」

ベクスターとケビンはそれぞれ、見上げたThe(ジ・)kuynbout(クインバウト)が作る影の中へ飲み込まれていくルアンクを、太陽光に負けないようにと手で遮りながら見送った。これからルアンクがやろうとしていることは、今までの常識で考えれば自殺行為に等しい。

 ADaMaSによるMhwの1号機はと問われたとき、人によっては〝空戦型sks(スケィス)〟がソレだと答える者もいる。その機体は、空中を浮遊することができた。ところが、空戦型sksにルアンク、ベクスター、ケビンの3人が気持ちを動かされることは無かった。

 空戦型sksは空を漂う。その滞空時間はスラスター燃料の残存する限り持続できる。しかし、地上高はというと、100m前後でしかなく、彼らからすれば〝飛ぶ〟という概念に当てはまるものではない。

 彼らが空を飛ぶということは、大空をどこまでも自由に、空気の流れを利用することを指す。それの究極は鳥だ。鳥は自らの筋力と、広げたときにこそ美しいと感じるその翼が生み出す揚力、そして推進力で空を飛び、その体が流体力学として成立している。3人が共通して有する美しさとは、鳥が飛ぶ姿に他ならない。

 「でも、Thekuynbouってカッコイイよなぁ・・・ちょっと羨ましい」

「それは同感っす。そういや、Mhw史上初っすよね?翼を持つMhwって」

「アレで戦闘機並みに空飛ばれたら、俺、泣くかもしれん」

すでにコクピット内に姿を消したルアンクが、Mhwの起動手順に移ったのだろう。人の目を模した各種センサーなどの収められたメインカメラと呼ばれる箇所が、太陽を背に自らで作り出した影の中で赤い光を放った。続いて、各関節部を筆頭に、機体内で様々な機械音がその音色を晴れ渡った空に響かせ始めた。最初バラバラだったそれらの音は、やがてそれぞれが調和したオーケストラのように音楽と成った。

 オーケストラの演奏が荒涼とした大地に響き渡る。時折、アクセントのようにアクチュエータの音が紛れ込んでくる。背部翼の基部となっている可動箇所が動く音だ。機体そのものに隠れてハッキリと見れないが、2人の方へ伸びている影が、背部の翼そのものが動いていることを知らせている。

 「ちょっと離れた方がいいと思うぞー?」

「えっ!?もう行くのかよ!!」

「ちょ、ちょっと待ってくださいっす!すぐジープで離れるっすから!!」

ベクスターとケビンの2人は、まるで弾かれたかのように後方に停めてあるジープにドアを開けることもせずに飛び乗ると、慌ててバックさせた。これが荒野でなければ間違いなく他車と接触した上での大事故は免れない速度だ。車のエンジン音は、Thekuynboutの高まるスラスター音に上書きされて聞き取ることができない。

 「よっし!・・・行きますか」

オーケストラのような音色はただの騒音へと瞬間的に転じた。Thekuynboutのスラスターの巻き上げる砂塵が自らの姿を一瞬くらませる。煙のようにもうもうとした砂塵は、Thekuynbouのスラスター全開による急上昇が作り出した気流で飛散した。

 「はっや・・・アレ、ルアンク隊長大丈夫なんすか?」

「速度は問題ねーだろ。戦闘機に比べりゃ・・・いや、同程度ぐらいは出てんな、ありゃ」

直上に急上昇したThekuynbouは、それほど時間を必要とせず成層圏にまで到達した。青と黒の境目でようやくその翼を開き、地上に対して機体は垂直に、翼は水平を保った。腰部両サイドの翼のような形状をしたアーマーも水平に展開している。

「すごいな・・・あっという間に成層圏か・・・こりゃ、体鍛えないともってかれちゃうね・・・ま、フツーなら、だけど!」

おそらく、この機体の機動速度はパイロットの一瞬の油断だけで、瞬時に意識を奪えるほどの高速性能を有しているのだろう。例え気を緩めなかったとしても、先に見たThekuynboutのスペックならば、速度のみならず俊敏性においても常軌を逸していると言えるほどの凶悪さがあった。普通ならば臆しても仕方のないThekuynbouの性能に、だがしかし、ルアンクは狂喜した。

 その姿はまるで、高高度からのスカイダイバーのようだ。垂直を保っていた機体をゆっくりと水平にし、背部の主翼、機体、サイドアーマーの線を揃えると、頭部を僅かに持ち上げ体位を前に傾斜させていく。徐々に上がる降下速度がThekuynboutの翼で揚力を生み出し、現状では一切の推力を使わずに高速域での滑空飛行をMhwで実現させてみせた。

 「い~い感じだ・・・さぁて、こっからが本番かな?」

「隊長!聞こえてるっすか?応答してください!!」

「ん~?どうした?」

「良かったす。生きてるっすね?・・・って、Mhwでその高度って異常ですよ・・・無理せず降りてきてくださいよ?」

「あ・・・悪いな、ケビン。もう楽しんでる最中だ」

スラスターを開放したThekuynboutは言葉通り、空を飛んでいる。その姿は鎖から解放されたワシのように雄大だ。Thekuynboutは、正に〝飛ぶ〟ことを前提に設計されたMhwだった。背部の主翼で揚力を得、スラスターで推力を得る。機体各所に配置された大小様々な小翼が機体の安定と、急制動を可能にしている。通常では考えられない多角的に描かれた飛行機雲がThekuynboutの性能を証明していた。

 人は空を飛ぶことに憧れる。それは本来人が空を飛ぶことのできない生命体だからなのだろうか?そして、飛ぶ術を得た人は、時代や装備、乗り物によって、その行為に掛ける命を切り売りする。自らの命を預けた空を、ルアンクは思う存分に楽しんでいる。

 「おーい、ルアンク。楽しいのは解ったから、そろそろ武装面とか、Mhwとしての性能評価に移ってくれないか?」

「ああ、2人も楽しみたいよね・・・分かった。標的出してくれ。狙撃と斬撃、両方やる」

ルアンクは〝分かった〟と言いながらも、Thekuynboutの飛行速度は落ちない。走る車から手を出せば感じることができるだろう〝空気の壁〟をルアンクが知らないはずがない。戦闘機は空気の流れに逆らうような可動をすることはないが、Mhwの場合はそうではない。

 装備しているビームライフルを撃つためには、現状の姿勢ならば、腕を前に出す必要がある。

「オイオイ!ルアンクっ!!ライフル持ってかれるゾ!最悪の場合、腕ごとっ!!」

「いーや、あのADaMaSはそんなミスしないよ。ライフルは前腕と接続固定式。スゴいのはサーベルの方でな。翼の前面にビーム刃が生成される」

「はぁっ!?なんだよソレ!!すり抜けながら掻っ捌くってのかよ!?」

事実、腕部に固定されたライフルは、演習用ターゲットを射抜き、地面と接触するほどの低空を飛ぶThekuynboutの両翼前方に宿った光が、同じくターゲットを上下に切り分けた。それは、高速で中空を移動し続けるMhwが誕生したことを意味していた。

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