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第二部 pentagram(五芒星)
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第二部 第11話 勝ち負けの定義

 伊邪那岐(イザナギ)Attis(アティス)。2機が繰り広げる激闘は、互いに目に見えるダメージが入るまで、まるで演舞のような流麗さがあった。流れに逆らうこと無く、且つ、訪れる〝間〟すら1つの演目として、綿密な打合せ、演習によって初めて成し遂げることが可能になると思えるほどの細部に渡って精密な演舞だ。しかし、その演舞は突如として終演を迎えた。

 イザナギのパイロットであるアキラ・リオカは、これまでに目撃されたAttisに関わる情報を持っていた。それは、純粋に格闘に特化したADaMaS(アダマス)Mhw(ミュー)というものに興味があったからだが、その情報はあくまでStareGazer(スターゲイザー)が入手できる範囲のものでしかなかった。

 イザナギの左腕を食い千切ったのは、5本の爪がまるで手のように見えるAttisの主装備Astaroth(アスタロス)の機能の1つであるクロー部分の射出機能がその要因であったが、それは今までに1度も使われたことの無いものだった。これまで爪を失ったことの無いAttisが、Astarothに内蔵されている隠し剣を使った例ももちろん無い。今まで使用することの無かった機能を使用しなければならないほど、アキラとイザナギの組み合わせがAttisとフロイトを追い詰めたことは間違いない事実だ。

 Attisのパイロットであるヴォルフゲン・フロイトは、その最大の特徴であるAstarothを囮に使った戦法が決まったことで安堵を覚えた。それはつまり、油断が生じたことに他ならない。そのことを自分で理解できていたからこそ、自分の甘さを悔やんだ。

 「これは・・・ADaMaSに行ってる中将に怒られるかな?まさか、自分の千切れた腕を振り回すとわね・・・」

「ナニ言ってやがる・・・ロケットパンチは男のロマンだぞ!羨ましいじゃねぇか・・・まぁ、グーパンチじゃなくて爪だけどよ」

これまでにAttisは目立った損害を受けたことが無い。それはAttisに限らず、ADaMaS製Mhw全てに言えることであり、ADaMaS製Mhwの優秀さを広く認知させる一因にもなっている。2機共に言えることだが、部位欠損というダメージはADaMaS製Mhw初であると同時に、実のところ、ADaMaS製Mhw同士による戦闘そのものも初めてのことだった。

 イザナギは左の腕そのものを失った。それは単純に攻撃力の半減を意味する。アキラは、このままAttisとの戦闘継続が自身にとって圧倒的に不利だと感じていた。Attisから繰り出される攻撃は、爪が剣に変わっただけで何ら攻撃力に変化は無い。

 ヴォルフゲン・フロイトという名は、敵味方問わずAttisと共に知られているのに対し、アキラ・リオカは、自軍内部でのみ、しかも一部にだけ認知されているに過ぎない。しかしそれは、他者が決めたあいまいなルールによる結果であって、同じADaMaS製Mhwを得たアキラの実力が、Mhw操縦技術という項目において同レベルにあることが解る。

 ADaMaSが受けるMhw製造は、基本的にパイロットデータから始まる。そのデータからパイロット特性を把握し、最大化できる性能と特色、武装を検討、実装する。pentagram(ペンタグラム)に配備された5機は、例えばアイならば洞察力、判断力を基に指揮能力を最大化している。リッカは左右のコントロールバランスが均等に行われていることからDWシステムを開発し、タクヒは突破力に着目された結果、黒王が生み出された。唯一、戦闘記録の無いウルは、士官学校時代のデータに、他を圧倒するほど高い成績を残した数値解析能力が見られたことで、ジャミングシステムが実装されている。

 この特性把握という作業は、そのほとんどがウテナ局長によるものだ。そして、ウテナがアキラのデータに見たものは、まるで猫であるかのような機体の安定性だった。Mhwはその機体重量から、特に地上戦において俊敏というわけにはいかない。スラスターの使用によって、それに類似した機動性を確保することは可能だが、地上には必ず〝天〟と〝地〟が存在するため、立位という観点から安定したまま高速機動させるためには、およそ常人離れした機体制御が必要となる。ほとんどの場合、機体制御はOSに任せるが、これをパイロット自身が高い次元で結実させている者がアキラ・リオカであり、それはヴォルフゲン・フロイトと同レベルを示していた。

 イザナギという機体は、アキラの能力を昇華させるために造られた機体だ。突発的に腕をもがれたせいで左右のバランスが大きく変化したにも関わらず、機体の安定性を維持し、その上で的確にコントロールし、Attisの頭部を交換に奪った。その瞬間、フロイトはアキラ・リオカという男が、自分の土俵に堂々と立つことができる人物であることを確信した。

 「男のロマン?」

「いーんだよ・・・オレの祖国に生まれた男の子が持つものだからな」

フロイトは地理にそれほど詳しくはない。それでも、アキラの名前が東洋の島国に見られる名前の雰囲気を持っていることに気付いていた。その名前は、ADaMaSの局長、ウテナ・アカホシも同様である。Astarothにこの機能があることに少し納得がいった。

 「フロイト少佐!撤退です!!こちらの旗艦が大型砲の直撃を受けました・・・」

「オイオイ、マジか・・・そんなに前衛に出てたの?」

「いえ、それがですね・・・どこから砲撃されたのか、こちらで補足できんのです。弾道としてはそちらの方向ですが、何か見てませんか?」

「超遠距離砲撃ってことか・・・。見てたら警告してるよ。」

 フロイトは単機で行動していた。今居る方面にStareGazer(スターゲイザー)の遊撃部隊の存在が察知され、対応に出たのは空戦型sks(スケィス)の部隊だ。しかし、この戦場で過去、StareGazerに遊撃隊編成があったのは1度しかない。前回の戦闘時だ。編成機体数まで判明こそしていなかったが、ソレがADaMaSの新型機による編成部隊だと直感的に察したフロイトは、そのことを作戦指揮官に告げ、空戦型sksの後を追った。そして今に至るわけだが、pentagram以外に機影は無い。

 「オイ、コラ!何だ、ってか誰だ、今の声は!?」

「・・・アキラ・・・オタクの部隊に遠距離砲撃可能な機体、あるか?・・・いや、前回の戦闘データにそれらしきモノがあったな・・・Legario(レガリオ)型のヤツか?」

一見してソレと判る武装を持った機体は無かった。仮にソレを内蔵している機体があったとして、そうであるなら、あのRay(レイ)-Nard(ナード)型の機体があれほどの機動性を待つことはできないだろう。となれば、Legario型の機体しかないが、長距離を可能とするほどの砲門は見えなかったはずだ。

 「legario型?ああ、じょーちゃんの機体、カンゼオンだ」

「カンゼオン・・・名前ほどの優しさは微塵もナイじゃないか・・・砲身は・・・脚・・・いや、長さからして腕か!?」

フロイトの推測は正しかった。カンゼオンの左腕には、内部に空洞がある。腕を真っすぐにすることで、この空洞が直線に並び、内部の砲身が3段階に延長されることで、超長距離砲撃が可能となる。もちろん、目標に命中させる行為は、着弾距離が延びるのに比例して困難となるが、それを可能にするデバイスがカンゼオンにはある。強化された各種レーダー類とウル・ハガクレ自身だ。

 「へぇ・・・フロイト・・・だっけ?アンタ、オレと違ってただの格闘バカってワケじゃないんだな。正解だ」

「なんだ、自覚はあったのか・・・ここは痛み分けってコトで失礼するとしようかね」

「オゥ・・・次合ったら、今度はコックピットに嚙みついてやる」

「いやいや、ゴメン願いたいね・・・こちらフロイト。これより戦線を離脱。帰投する」

Attisはイザナギに背を向けることこそしなかったが、それでも無防備に後退を開始した。イザナギも、まるで友を見送るかのように正面にAttisを映したまま、残された片腕を挙げた。しかしその中指は、立派に天を突きさしていた。

「アノヤロゥ・・・なーにが痛み分けだ・・・それにしても、何があった?」

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