第二部 第8話 犠牲
「ひーふーみー、うん、全機揃ってるみたいだね」
これはサイアクのタイミングだって悪態つくべきなのか?正直に言うとアイに怒られちまいそうだが、オレとしてはちょっとワクワクしてんだよな。Attisとヤれるなんて光栄の極みってモンだろ?とは言え、コノヤロウ・・・こっち全員をしっかりロックオンしてやがんのな。マジで1機でオレたち全員を相手取るつもりらしい。ヤり合う気マンマンなのはオレとしても(内心)喜ばしい事なんだが、他の連中に被害が出るのはカンベンしてほしいね。
「コイツとまともにやり合うワケにはいかないわ。ウル、カンゼオンシステムのイケる隙を作るわ。私たちもろともで構わないから、Mhwの機能を奪って」
おっといけねぇ・・・どうやらアイのヤツ、冷静を装ってるだけで実際はテンパってんのな。そんなコトすりゃ、この場は切り抜けれても、相手に増援がありゃアウトだ。それにそもそも会話が傍受されてることを忘れてやがる。オレがヤツなら、今の会話でターゲットの1番をウルにしちゃうね。
「へぇ・・・ソコのLegarioっぽいMhw、そんなコトができるのか?さっすがADaMaS製Mhwってとこだな。さしずめ、部隊の目と耳ってトコかな?」
やはり目を点けられたな・・・
「しまっ・・・クソっ!こっちの通話チャンネルに合わされてる。コレもAttisの機能だって言うのかしら・・・」
「ご名答だ、ねぇちゃん。そしてねえちゃんが指揮官だな?女がパイロットってのも珍しくない時代だ、わりぃが容赦はしない。けど、できれば降りてくれると助かるんだけどな」
こりゃイカンな。相手はあのヴォルフゲン・フロイトだ。こっちの軍にまで聞こえて来る熟練のエースパイロット様だぜ?技量差云々の前に、威圧に飲まれてんな。まぁ、コレも経験だ。ココを生き残れば、コイツらはさらに強くなる。オレの実体験が保証するぜ。ここは1つ、Mhwパイロット兼人生の先輩であるオレが、戦場の生き抜き方ってやつを息抜きと合わせて教えちゃおうかな。
「アイ!ソイツは強いぞ?そしてオマエはこの部隊の指揮官だ。さて、どうする?」
現状がpentagramにとってピンチなのは理解できてるよな?オマエらから見りゃあAttisは充分にバケモノだ。これまでの逸話からすれば一番サイアクなのが全滅ってことも理解してるな?なら、それを回避する可能性が一番高い選択肢はなんだ?さぁ、指示を出せ、アイ。
「ぜ、全機、最大出力でこの場を離脱なさい!今すぐにっ!」
おっと、そりゃ悪手だ。現状ならこっちが引けば相手は追って来る。しかもpentagramで一番遅いのはウルのカンゼオンだ。こっちの動きでヤツのターゲット順が変わることはねぇ。どうせアイのことだ・・・大方、自分が1人残って時間でも稼ぐつもりだったんだろうがな、相手がフロイトだってんなら、悪いがアイにソレは役不足ってモンだ。
「それは選択ミスだっ!済まないが墜とさせてもらう!」
「ダメ!ウル、逃げなさい!」
ほぉうらキタ!アイのヤロウ・・・後で説教だな。ま、オレに後があれば、だがな。
「っ!早い」
「Attis!!テメーの相手はオレだっ!」
・・・やっぱコイツ、強ええわ。部隊で真っ先に動いたのはオレだ。予想どおり、ウルを狙ったヤツの爪がカンゼオンに届く前の間合いで叫んだんだが、それよりも早く反応してやがった。格闘レンジを好むヤツは視野が狭くなりがちなんだが、コイツ、狙撃手かってぐらい広いじゃねーか。オレの居た方向は格闘ヤロウからすれば死角なんだがな。しかも、判断が早い。さっさとウル諦めて、オレの迎撃に向けて体勢変えやがった。ヴォルフゲン・フロイトか・・・名が通るってのはやっぱ、ダテじゃねぇわな。おかげさまでAttisと思わず目が合っちまったよ・・・。
「困ったな。アンタは俺を好きにさせてくれそうもないね」
「そりゃそうだろ?誰が敵さんの好き勝手許すんだよ?」
「はっはっは。そりゃそうだ。すまないねぇ。ここは戦場だったな」
「そういうこった。ところでアンタ、オレと同じニオイがするんだがな?」
コイツの戦闘にはオレに分かる感覚がありやがる。弱いヤツを狩るシュミはねぇってタイプのヤツだ。
「オイ!アイ!!」
「は、ハイ!」
「惚けてねぇで、全員連れて離脱しろ。この場はオレが受け持つ」
「で、でも・・・」
チッ・・・コノヤロウ・・・楽に会話もさせてくれねぇ。オレの意識を仲間に割く割合の変化を探ってやがるな?予想外だろうがオレはこう見えて仲間想いなんだよ!もうちょっといい格好させろっての。
「アイ、さっきのオマエの判断、半分は合ってるから大丈夫だ。Attisと出くわした以上、最悪は全滅、1機の損失だけで済んだら上出来だ。だが、ソレはオマエの役目じゃねぇよ」
状況が悪いならサイアクを避けるのは定石だ。この場合、そのためには時間を稼ぐ必要があるんだよ。同じヤられるとしても、時間を最大限稼げるヤツがその役割を果たさなきゃぁならんわけよ。
「・・・ごめんなさい。隊長、この場を頼みます」
「いいってことよ。感謝したいんなら、オレが帰ったら1晩付き合え」
「・・・え?それはイヤです」
あれ?こういうときってツンデレるんじゃねぇの?オレって見た目、そんな悪くはないと思うんだけどなぁ・・・ん?もしかして、イケメンどーこーじゃなくて、内面的な拒否?だとしたらそれはちょっとヘコむぞ、オイ?・・・ったく、これから命がけだってのに気合が入らねぇじゃねーか。
「あんがとよ。おかげで余分な力、抜けたわ」
「隊長・・・帰ってきてくださいよ?指揮官命令ですからね」
指揮官が居て、隊長は別に居る・・・ややこしい部隊だな。
「隊長命令はドコいったよ?・・・まぁ、分かった。・・・行けっ!」
Attisとアイツらの間にはオレが居る。ヤツは近接格闘主体のMhwだしな。腕の拡散ビーム撃ったとしても、そんでソレがアイツらの誰かに当たったとしても、離脱すんのに支障が出るような損害にはならねぇ。距離がある。これで部隊としての目的は果たしたぜ?
「アンタ、名前は?」
「アキラ・リオカだ。ヴォルフゲン・フロイト、オマエのことは知ってるぜ?」
「そうか・・・アンタの名は、俺が覚えておくよ」
「冥途の土産みたいに言うなよ。そういうの、死亡フラグって言うんだぜ?」
「では・・・」
「ああ・・・」
コレはオレが望んでいたモノだ。Attisとの1対1。pentagram配属以前のオレなら、気持ちでヤりたくても機体性能の差がデカ過ぎてムリだった。けど、今のオレが乗ってるのはADaMaS製Mhwの伊邪那岐だ。特徴は違うのかもしれねぇが、MhwとしてはヤツのAttisと同格だからな。ってことは、この勝負、勝敗を左右するのは純粋にパイロットの〝技量〟ってことだよな。いつの間にか世間で出来上がってた〝格闘機乗り〟ってカテゴライズに属する者としちゃあ、これ以上ない舞台だわな。シャレたヤツならこんな時、ダンスがどーのって言うんだろうが、オレがそんなタイプなわけねぇわな。
エモノのリーチはヤツが上。オレのは切れ味こそスゲェけど、内に向かって弧を描く形状だから、お互いに格闘機ではあるものの、間合いが違う。間合いの勝負になる。オレがヤツの懐に飛び込めるかどうか・・・ヤツの機動性もさっき見た限りじゃ、そーとーなモンだから、かなりシビアな戦闘になるんだろうな。異種格闘技戦のボクサー(オレ)対キックボクサー(ヤツ)みたいな感じか?
ヤベーな、オイ・・・ワクワクしてきたじゃねぇか!