第十四部 第13話 飾りかと思っていました
「全機!応戦っ!!」
その声が誰のものだったかは定かでないが、あまりにも遅すぎるソレはそれでも少なからずの効果はあったようで、ベクスターが「デク」と揶揄したMhwたちは、その場に立ち尽くしていた(宇宙空間なので正しいかどうかはさておき)状態から我を取り戻したかのように動き出した。それはまるで、撃ち落されたハチの巣から無数に飛び出すハチかのようにも見えた。
「なんだ、ちゃんとパイロット乗ってたのか。安心したぜ」
ベクスターの感じる安心は他でもない、StarGazerの殲滅に他ならない。それは無人のMhwを撃破することではなく、むしろ搭乗しているパイロットに対する行いだ。
Guivreは敵のただ中に居る。懐に入られた相手に対しては、よほどの自信でもない限り、同士討ちを警戒することになる。ベクスターから見た場合、基本的には攻撃手段を斬撃系に絞ることができる。ソレこそがベクスターの狙いだ。さらに言えば、射撃系の攻撃を封じることで、攻撃を仕掛けて来るMhwの数を制限できる。
「言っとくが、まだオマエたちにターンは回さねぇぞ?って言うかハッキリ言って、ずっと俺のターンだ」
斬りかかってきたLyuutのサーベルを、手にしているハンドガンのバレル底部で受け止める。ハンドガンのバレル長などそれほど長いものではない。あってせいぜい、一般的なビームサーベルの最も太い部分の3倍程度だろう。Guivreの持つハンドガンは専用のモノであり、その部分にビームを形成することができる。それは攻撃手段というより、今やって見せているように、ハンドガンで接近戦を制するための防御的意味合いのものだろう。想定された使用方法だとは言え、相手の斬撃を受けるための補正プログラムがあるとは言え、躊躇もなくそれができるベクスターはその技量よりも胆力を称賛すべきなのかもしれない。
斬りかかるビームサーベルをハンドガンのビーム形成部で受け止め、残された方のハンドガンを相手コクピットにすっと向けると引き金を引く。ほとんど〝ゼロ距離射撃〟であるため外しようもなく、StarGazerMhwパイロットの命を奪っていく。これがビームライフルであったなら、こうまで接近した状態での取り回しはできなかっただろう。使用武器がハンドガンでありながら、近接格闘戦かのような機体の動きを見せている。
サーベルを片方で受け、もう片方で敵Mhwコクピットを接射する。このとき、他のMhwから攻撃を受けないよう、切り結んだ敵機を他のMhwからの盾として活用することを忘れてはいない。もちろん2機から斬りかかられれば両方のハンドガンで一度受け、蹴りなどで間合いを取る。それ以上に複数の敵機から斬りかかられれば、ムリをせずその場から離脱する。
極めて狭いスペース内での立ち回りだった。最初の位置を中心とした球状の空間を自身の間合いとして円を描くような機動を繰り返すと、まるで明かりに群がるムシのようにStarGazerのMhwがソコへ吸い込まれていくようだった。
コクピットを的確に打ち抜いていくからだろう。撃破したMhwは1つ残らず爆散することはない。これもハンドガンだからこそ成せる技だろう。そうしてそこかしこに新しく生まれるデブリですら、ベクスターは巧みに利用している。ときに敵機からの攻撃に対する盾とし、場合によっては蹴りつけて敵機にぶつける。〝無双〟とはこのGuivreの今の様を言うのだろう。
「へぇ・・・飾りかと思っていましたが、強いのですね・・・こちらはメドがつきましたので、私のチームがそちらへ合流します」
「いや、飾りの要素は少なからずあるだろう。まぁ、ソレはいい。コッチへの合流は了解した。防衛ラインの左右に展開して端から殲滅しろ。流れ弾はオレに当てても気にしなくていい。避けれんのならオレの技量不足なだけだ」
さすがにまとまった数の相手を1機で殲滅するのは骨が折れる(できないとは言わない)と感じたのだろう。シーラの提案をすんなりと受け入れた。目に見えるStarGazerを全て自分で殲滅する必要もなければ、自身がソレにこだわっているわけでもない。1人でも多くのStarGazerを殲滅できるのならば、それが大量殺戮兵器だったとしても是だと考えているのだから、彼女たちの力を借りることになんの躊躇いもない。
シーラからしても、ベクスターがこれほどパイロットとして完成した技量を持っているとは考えていなかった。事前に知らされていた情報の限りではあったが、そもそもベクスターはそれほどMhwでの実戦経験がある方ではない。確かに〝あの〟ADaMaS製Mhwを受領した人物ではあったが、総合的に判断すれば自身の方がパイロットとしての技量はあると考えていた。
Mhwパイロットの技量は、その経験によって大きく左右されると言う。それが正しいのならば、ベクスターが経験したモノは総時間こそ短いものの、彼に何かを変えさせるだけの事象があったということだ。それは〝覚醒を促した〟と言い換えてもいいのかもしれない。
ワイアーンがシーラに望んでいることは多々あるが、メイドとしての役割以上に求められているものがMhwパイロットなのだろう。そういう意味では、ワイアーンがベクスターを部隊長に指名したことを少し羨ましくも思う。
「了解。死なれても困りますが、気にはしませんので必死になって避けてください・・・2人は右から防衛ラインを崩せ。私は左から侵入する」
9人のメイドたちはそれぞれに似たようなMhwパイロットとしての実力を持っていたが、シーラだけは他の8人と比べてもさらに高い技量を有していた。彼女たちにとっては自身の高揚や称賛といったモノに興味はなく、目的完遂のために何が最善かを選ぶ。効率を第一に考えている。3人編成となった時点で、そこからさらに分けるのなら、シーラが単独となることに誰も異論は挟まないらしく、シーラの合図とともに綺麗に2つに分かれて散開していく。
防衛ラインとは言ってもそれほど長い帯状の配置を取っているわけではない。さらに言えば、ベクスターの単機突入で展開しているMhwが中央に寄りつつあった。左右に展開したBelze-Buthはおよそ防衛ラインの最端に位置しているMhwに射撃を命中させ、撃破、あるいは行動不能状態へと追い込んでいく。それはGuivreの侵入とその後の混乱によって造作もなく淡々と実行されていく。
左右から削り取られていく防衛ラインは、その内側からもGuivreによって蹂躙され続け、本来の目的であるはずの〝防衛〟は意味を成していなかった。Uranosに残っている兵士たちの目には、防衛ラインの向こう側に存在しているはずのMhw部隊を確認することもできない。胸中に広がるのは「そんなバカな・・・」という狼狽にも似た感情だった。
宇宙に漂うデブリの数は多い。ここ20年ほどでその数は飛躍的に増えた。その大多数はMhwが占め、体積的には同等程度に戦艦の残骸がある。地表とは違い、戦争の爪痕というものが宇宙では目に見えにくい。実際にはデブリと化したMhwや戦艦の残骸がそうなのだろうが、それが例えば、人々の生活に影響を及ぼすようなことは稀だ。極偶然的に、デブリ群が航行する旅客船などを襲う程度でしかない。爪痕は確かに存在するが、実害が少ないことでそれを実感するに至らず、結果的に戦争の爪痕が見えにくいモノとなっていた。
「ワイアーン大将、Uranos掃討作戦、完了しました。こちらの損害は実弾以外にありません」
「フフ・・・ソレは損害とは言わんよ、ベクスターくん。いや、壮観なものを見せてもらった。我々はこのまま周辺空域の探索後、Uranosの拠点化を進める。StarGazerを滅ぼすのに、後方に集結している軍が進駐するにはいい場所だろうて」
「了解しました。補給と休息も兼ねて一度帰投します」
「うむ、そうしたまえ」
モニター越しにワイアーンと顔を突き合せた後、手元で通信を切ったベクスターの眼前には、ただ広く無限と思える宇宙が広がっている。見えてはいないが、その視線の先にはStarGazerの本拠地があることを、ベクスターは知っている。そのStarGazerに向かって決意的なものが口から出たと思っていたベクスターは、自分の声を聴いて驚いた。
「ルアンク、どこに隠れている?早くオレの前に姿を現せ・・・」
その声と表情の裏側には、かつての友に向けたものはなく、明確な敵意があった。




