第十四部 第12話 更なる悪夢
「相手はコッチの5倍は居るぞ?3機編成でチームを組め。間違っても孤立するんじゃねーぞ?」
ベクスターの正面に広がる全周囲モニター越しに、先行する9機のBelze-Buthの背部スラスターから伸びる青い光が美しく見える。さらにその向こうには、無数の光が編隊を組んでいるように輝いている。軍事要塞Uranosから発進したMhwが放つ光だ。
「了解しました。しかしそれだと、アナタが孤立することになりますが?」
モニターにワイプで映し出されたシーラは、ヘルメットのバイザーを上げた状態だ。その端整な顔が髪に邪魔されることなく主張している。特に表情を感じないからだろうか?ベクスターから見て綺麗な顔立ちだとは認識しているが、そのことに対して何も感情が湧いてこない。そう言えばオピューリアに対して〝可愛らしい〟顔立ちだと思っていたことを思い出すが、それが個人の感想だったのか、一般的な認識だったのかを思い出せない。
「こちらを気にする必要は無い・・・と言うか、戦闘が始まったら気にする余裕も無いだろう?何せ相手の数が数だ」
「・・・?ありますよ?けど、そう言うのなら気にしません。アナタの指示には従うように仰せつかっていますので」
「それでいい・・・行けっ!」
「了解。2番機、3番機は私と、4,5,6番、7,8,9番でそれぞれ組め・・・全機、展開」
抑揚の無い声で淡々と指示を出したシーラを先頭に、9機が指示どおりの編成を保って前方敵部隊に対して展開していく。その様子を後方から見ているベクスターには、9機の動きに乱れも無く、それは理想的な侵攻に見えた。彼女たちの実力を知っているとは言え、これが初陣であるはずの彼女たちに「流石だな」と感嘆を覚えた。
前方で同時に13の火球が上がった。驚くべきことに同時だった。しかも展開している9機よりも4つ多いということは、複数を同時撃破した僚機がいるということだ。
モニターに次々と火球が映し出されていく。9機のマーカーの動きを見れば、正しく指示どおりに3機編隊で動いていることが分かる。各編成の動きを事細かに見てはいないが、よほど上手く3機で連携がとれているか、あるいは個々の戦力が連携を必要としないほど圧倒的か・・・おそらくは後者であり、そこにはMhwの性能も加味されるべきだろう。
Belze-Buthは高出力を誇る大型Mhwだ。そして大型にもかかわらず、機動力が高い。だが、このMhw最大の特徴は有線式SWだ。NEXTたちが専門的に扱うソレと違い、有線式としたことでその扱いが簡易なものになっている反面、従来のSWほどの広域性はない。装備している種類は2種類あり、背部バックパックに内蔵されているビーム偏光リフレクターが2つと、両前腕そのものだ。これらを駆使すれば、相手からすれば思いもしない方向からの攻撃が飛び交うことになる。感覚的には複数のMhwに取り囲まれているように感じるだろう。もちろん、両腕を〝飛ばした〟後でも本体腰部に内蔵された粒子砲や、そもそも飛ばした後を想定して装備されているサブアームは肩アーマーを展開することで、本体の攻撃力低下を最小限にしている。
SWはNEXTもしくは、Acquiredでなければ扱えない。それをNEXTでない者でも扱えるようにしたモノがこのBelze-Buthに実装されている有線式SWだ。専用のヘルメットで増幅させた脳波を、有線で確実にSWに伝達することでNEXTでない者であってもSWの操作を可能にしている。もっとも、彼女たちはAcquiredであるが。
仕組みを口で言うのは簡単だ。だが、実際の操作となると「はいそうですか」というワケにはいかない。NEXTでない者でも扱えるというのは、操作すること自体はできるという意味であり、実戦において実践するとなれば、言ってみれば二重、三重の同時並列処理を常に強いられるということであり、それはそう簡単なモノではない。要するに、だからと言って誰でも扱えるシロモノではないということだ。
実際ベクスターの目に映る光景は、暗闇とは異なる黒い空間の中で光っては消える閃光だけで十分に鮮やかなものだとわかる。Belze-Buthは1機もロストしていないどころか、もしかすると被弾すらないのではと思わせるほど一方的に見える。
「だからってただの指揮官やるつもりはねぇしな。ヤツらにはワルい・・・とはちっとも思わねぇし、こちらからも更なる悪夢をプレゼントだ」
ベクスターはレバーを前に押した。Guivre背部のスラスターが「フィィィィン」という唸りを上げると、そこから青白い火柱が噴出し、Guivreを一気に加速させた。
GuivreもBelze-Buthと同型だ。だがベクスター用にカスタムされているようで、頭部形状がsksのようにも見える。機動性に重点を置いた機体なのだろう、互いに最高速というわけではないだろうが、明らかにGuivreの方が速いように見える。
Belze-Buthが展開している戦域を飛び越え、さらに奥、よりUranosに近い位置で展開している敵部隊に突っ込んでいく。意味合い的には〝第二防衛ライン〟といったところだろう。展開しているMhwを見れば、Lyuutの宇宙空間仕様やRay-Nardが多数混在している。StarGazer本拠地へと至る入り口に位置する(宇宙空間で入口というのもヘンではあるが)Uranosだけあって、配備されているMhwも高性能機体ばかりのようだ。
第二防衛ラインに展開しているMhwのパイロットからも、Belze-Buthの9機は悪夢に見えていただろう。有線と言っても目立つものではないのだから、なんならNEXT部隊だと認識している可能性もある。そんな最中で1機だけが突出して突っ込んでくるのだから、その1機がただのMhwではないと身構えさせるに十分ではあったが、それでも相手はたった1機だ。Ray-Nard数機がGuivreに対応するべく、手にしたビームライフルの銃口を向けた瞬間、その姿はMhwという人型から火球へと変わった。
その攻撃はSWによるものではない。それは短調なビームでありビームピストルから射出されたものだ。Guivreにはその機動性を活かすべく、Belze-Buthにはない取り回ししやすいソレが装備されていた。手首のわずかな稼働だけで的確にMhwのコクピットをとらえ打ち抜いていく。瞬く間に10機ほどのRay-Nardを失ったことに気付いたパイロットたちは、その恐怖をもたらしたMhwが自分たちMhw軍のただ中に位置していることを、目でそうだと分かっていても事実として頭が処理できていないようで、Guivreに視線を向けてはいるものの特に何か攻撃行動を起こそうというMhwの気配はない。
「おいおい、デクかよ?それとも同士討ちを気にしてんのか?・・・どっちにしても、弾数の続く限りは撃破するぜ?」
Guivreは左手にもう1つビームピストルを握った。二丁拳銃だ。そしてそれぞれのグリップを握っている手の親指が、銃身横にあるレバーを「カチンっ」と操作した。
「いくぜ?」
Guivreから見て左右に展開しているUranos防衛部隊Mhwに対し、両腕を広げるようにして銃口を向けたかと思うと、人差し指によって引かれたトリガーが元の位置に戻ることは無かった。銃口からは短調なビームが連射的に射出され続けている。どうやらレバー操作によってピストルはマシンガンへとその性質を変えたらしい。
Guivreを中心として、そこから放射状に広がっていく光の線が、それぞれの行く先で大きな火球を生み出していた。




