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第十四部 above(宙へ)
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第十四部 第11話 彼女たちの性能

 「それでは、仕上がり具合を見せてもらいましょうか」

何も無い宙を進む3隻の戦艦のうち、1つがその動きを止めた。その船のブリッジに居るワイアーンは〝ニタリ〟という表現が適切だと思える笑みを浮かべながらそうつぶやくと、シートの肘かけにあるボタンを操作した。正面のスクリーンに浮かび上がったのは、メイド服ではないがソレをイメージしたのではと思わせるようなパイロットスーツに身を包んだ何人かの眉目秀麗な女性と、その前に立つ1人の男、ベクスター・ネイマルだった。ベクスターのパイロットスーツはさすがに彼女たちのものとは異なっている。

 「ベクスターくん、初陣だ。相手は軍事要塞Uranos(ウラノス)だが、どうかね?」

「どうも何も・・・彼女たちの性能はよくご存じでしょう?ま、自分も足を引っ張らない程度には奮戦してきますよ」

モニターの中のベクスターはそう言いながらも、言葉に発した「彼女たち」の方には一瞥もくれていない。

 彼女たちの性能とベクスターが呼んだモノは、これまでの数日でよく理解している。あくまでシミュレーターでのことで、よく「実践では」という言葉を耳にするが、仮にそうであったとしても、それを差し引いて余りあるだけの実力を目の当たりにしてきた。Uranosの配備Mhwともなれば、機種はともかく100機は下らないだろう物量差は明白だが、それを杞憂する必要も無いとベクスターは知っている。

「彼女たちはある意味、コレが本職だからね。だが、彼女たちも指揮官が無能だと感じればその指示を無視するのだから、キミの指揮には期待しているよ」

「了解です・・・全員Mhwに搭乗。予定ポイント到達と同時に艦砲射撃がある。その後、順次発進し敵機を殲滅しろ。以降の指示は適時で出す」

「了解」

やはり振り返ることなく出された出撃命令に静かに答えた9人の女性が、それぞれ脇にヘルメットを抱えたまま、画面の左側へ流れていくところで映像が途絶えた。映像が途絶える直前に画面に向かって腕を伸ばしてきたベクスターの姿があった。

 「さてと、ダージリンの用意を。我が精鋭部隊の雄姿を見ながらたしなみたい」

ワイアーンの下に居た9人の侍女たちは、普通の人間として生まれてきた。ただしそれは〝人間という種〟として生まれてきたという意味であって、普通の家庭に生まれたという意味ではない。

 コロニーに住む人々も平等とは程遠い。1つのコロニー内にあっても貧富の差はある。そして長い年月の中で、コロニーそのものにも貧富の差が生じた。彼女たちが生まれたコロニーは、その最も貧しい者たちが暮らすコロニー、〝Sector13(セクターサーティーン)〟だった。

 Sector13は、StarGazer(スターゲイザー)の本拠地があるSector2と同じコロニー群に存在する。そこは数あるコロニー群にあって、地球から最も遠い距離にある。当然、そのコロニー群の中には商業用のコロニーもあれば、家畜や農業専用のコロニー、果ては行楽を目的としたコロニーも存在するが、それらは〝人が住む〟コロニーという認識ではない。Sector13はソレと同じ認識のコロニーだった。

 それでもそこに生きる人間は存在する。その中で対となる者たちも当然あり、その結果、新しい命が生まれる。ところが、その対となった2人に自分たち以外を養うだけの余裕などない者が大半であり、全員ではないとしても、少なくない数の新しい命は、対となった2人にとって〝将来への投資〟となった。

彼女たち9人はそれぞれ別の対となった2人から生まれた。その対となった者たち18人が幸運だと感じたのは、その9人が成長するにつれて美しい容姿をしていたことだった。結果的に18人は〝投資に成功した〟と言えるだけのモノをワイアーンから得た(ただし、実際にソレを手にできたのは12人である)。

 ワイアーンはNoah官僚だ。地球上でも特に裕福な部類に入る。そしてSector13を食い物にしているであろう組織があったとして、その組織の交易相手がコロニーだけだと誰が断言できるだろうか?口にすることも憚られるような生業をしていると容易に想像できる者たちが、戦争に対してどちらかの軍に与するとも思えない。事実、彼女たち9人はワイアーンの手に渡った。

 グリット・ワイアーンという男は、1人の男としてはごく普通と言える男だ。一般的に女性に好意を寄せ、成人男子が抱える欲求を人並みに持つ。彼を普通と違えたのは、その地位であり、富であった。

 彼女たち9人はSector13に生まれた者としては幸運だった。時折薬剤の投与や何かの機器に繋がれることこそあったが、ワイアーンの庇護下で不自由なく生活を送ることができた。これは同じような境遇となった者とは雲泥の差だと言っていい。そうした者の半数ほどは成人を迎えることができなく、運よく成人に達したとしても、およそ人の生活とはかけ離れた境遇になる場合がほとんどだ。後者の場合、成人を迎えるよりも圧倒的に早く、自我というものは崩壊している。

 彼女たちは今現在も自我を保ったままだ。どちらかと言えば一般的よりも遥かに裕福な環境で生活を送っている。日々仕事があり、対価も得ている。その使い方にも何ら制限は無い。そして何より、〝見ず知らず〟だったり〝複数〟だったりの男性から女性としての尊厳を汚されるようなことも無い。それどころか、周囲の男性からは尊厳を尊重されていた。

 彼女たちに課せられたことはたった1つ、〝ワイアーンに対する絶対服従〟のみだ。ワイアーンからの〝指示〟は何があろうと、どんなコトであろうと絶対に従う。ただそれだけだ。彼女たちは幼少から自分たちのような存在が辿る将来を知っていた。だからこそ、彼女たちはワイアーンに感謝し、自ら進んでワイアーンの指示に従おうとした。彼女たちにとってワイアーンは親であると同時にパートナーでもあった。彼に従うことは彼女たちにとって自身の存在意義となった。

彼女たちは自らの意思で自分たちの存在意義を見出した。実際に彼女たちにとってはそうなのだろう。それでも、そうなるようにコントロールしたのはワイアーンに他ならない。それこそがワイアーンの最も秀でた才能だった。この男の導きによって、自らで選択したと思わせられながら、その実、ワイアーンの望む方向に進んだ者の数は多い。彼がStarGazer大将にまで昇った裏には、彼をそこにまで押し上げようと〝自ら〟の意思で動いた者たちの何と多いことかは誰も認識していないことだった。

「さてと・・・私の子たちはどれほどの性能を見せてくれるかな?あの女の目を搔い潜るのはホネが折れた・・・その投資分をしっかり回収しないとな」

誰にともなく呟くワイアーンの視線の先で、先行する2つの戦艦による艦砲射撃の光が見えた。それはまるで、彼のこれまでの苦労と投資が花開くことを祝ってくれているかのように思える。

 砲撃が途絶えた後にそれぞれの艦から5つの光の筋が艦砲射撃の光を追うかのように走った。Wivre(ウィーブル)の10機が出撃した光だ。ほどなくしてUranosの表面に火球が上がる様子が目に映り、すぐさま望遠カメラがとらえた映像をメインモニターに映し出している。よく見ればUranosのMhw出撃口の付近でもいくつかの火球が上がっている。どうやら先行する二隻の砲撃手も優秀らしい。その火球はこちらの艦影を捉えたStarGazerが出撃させたMhwのものだった。さらに1つのMhw出撃口の奥から、大きな火柱が噴出した。砲撃の1つが出撃口から入り込み、内部に達したのだろう。

「ほぅ・・・コレはコレで美しい。なかなかに優秀だ。だが、本来の楽しみは残してもらわないとな。さぁ、Mhwが出てきましたよ?」

残されたUranosのMhw出撃口から、続けざまにMhwの発進する光が見える。そして数的不利が一目で分かる戦場をかけるWivreのパイロットたちは、ベクスターを除いてTartaros(タルタロス)の介入を受けた者たちであった。

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