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第十四部 above(宙へ)
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第十四部 第6話 巣立つべき

 「そうか・・・ヤツらの居所は依然、分からぬままか・・・」

バナルディ・エウレストンは背後に立つスタングレイ・モスの報告を受けそう呟いた。視線は窓の外に広がる宇宙に向けられたままだ。

「可能であれば、ですが、反物質は手にしておきたいところではありますな」

「残っていれば、の話だろう?ま、A2と言ったか?ヤツらが持っているだろうとは思うがな」

 Valahlla(ヴァルハラ)とA2の戦闘は彼らの旗艦〝Heimdallr(ヘイムダル)〟でも観測されていたが、映像もそれほど鮮明なモノではなく、戦闘後に擱座したPluriel(プルリエル)に近付くMhw(ミュー)があったことは認識出来ても、何をしていたのかまでは判明しなかった。後で地上部隊が現地に向かったが、そこに反物質につながりそうな何かは見つからなかった。

 「ヤツら・・・敵となりますかな?」

「さぁな。だが、キサマはそうなる可能性が高いと考えているのだろう?顔がそう言っておるわ」

 振り向いてもいないエウレストンが、自分の表情など分かるのか?と訝しんだのもつかの間、座ったままのエウレストンから視線を上げると、窓にハッキリと映る自分と目が合った。その窓に映る世界で少し視線を落とすと、やはり窓に映るエウレストンと目が合った。

 「出てましたか・・・まぁ、そうですな。力で奪うのですから、彼らも当然、抵抗するでしょう」

「うん?それは前提・・・いや、結果論か。反物質な・・・アレを得て何とする?」

見ればエウレストンからの窓越しの視線は、その右目だけが閉じられている。「それは私のセリフです」と言いたい気分もあったが、さてと自分ならと考えてみるのも面白い。

 反物質についての情報は少ない。しいて言うのなら、ADaMaS(アダマス)のウテナが精製に成功したということと、物質と対消滅を起こすということぐらいではないだろうか。ValahllaとA2の戦いで見た限りでは、対弾性能(と言っていいのかは少々疑問だが)としても極めて優秀なようだ。軍事利用するとなれば、それだけでも十分に有益なモノだろう。

 「・・・扱える者がいなければ意味がありませんな。そうであるなら、争いの火種になりますからなぁ・・・いっそ霧散させてしまった方がよほどいい」

なるほど一理ある。アレを正しく扱えるのはウテナしか居ないだろう。例えば()()()()()()()とすれば、扱える者は他にもディミトリーがそうだった。だがこの2人は2人とも失われている。そうなれば他に扱うことのできる可能性がある人物として思い当たるのは、ミリアーク女史を除けばADaMaSの技術者ぐらいなものだろう。

 「確かにな・・・思い当たる人物も居るには居るが、誰もかれも、協力的とは言えまい。フム・・・いいだろう、モス。入手は可能ならで構わん。ソレを前提とせず、廃棄を前提とした作戦指示に切り替えろ。協力的でない技術者集団など、殲滅して構わん」

それまではモスを(窓越しにだが)見上げるように見ていた視線も、表情ごと厳しいものへと一変し、モスや自分の映る鏡と化した窓の向こうに広がる宙の彼方を見据えている。まるでA2がそこに居ると分かっているかのような凄味を眼光に宿している。いつの間にかひじ掛けに両肘をそれぞれ立てたまま、口元を隠すかのように両手の指が絡んでいた。

 「殲滅、ですか・・・容易くは無いでしょうな。まぁ、やり方はあります」

「うむ、ソレは任せる。ところで、Noah’s-Ark(ノアズアーク)の動きはどうなっている?」

おそらく話が変わったことの合図だったのだろう。エウレストンはゆっくりとした動作で椅子事振り返った。気付くとそれまで絡んでいたはずの手はひじ掛けにそれぞれ置かれている。ターンの合間に動いたであろうが、見ていたはずのモスにもいつ、どう動いたのかと訝しまなければならないほどにスムーズな動作だった。

 「主力が宙に上がっているようですな。大方、彼らを追っているのでしょうが、宇宙を知らないヤツらに見つけられるとは思えませんな」

「そうよな・・・宇宙は広大だ。ワシらとてその全てを把握するなどおこがましいと言うのにな・・・まぁ、どこかの暗礁宙域にでも潜んでいるのだろうがな」

StarGazer(スターゲイザー)は最初から宇宙を生活の場としている。各コロニー間の往来など、この宙での行動は広く取られているとは言え、地球圏であってすら、その全容を把握することは不可能だ。宇宙は動く。それは地上のプレートが動くことよりもはるかに速い。そしてソレを増長するかのように、宙で戦闘が行われる度、規模こそ違えど〝残骸〟が生まれ、新たな暗礁宙域を形成する。要するに、このただでさえ広大な宇宙空間には、身を隠す場所が無数に存在し、新たに生み出され続けている上に、ソレらは移動する可能性があるということだ。

 本来、それほどに無数の暗礁宙域が生まれているということは、それだけの戦闘があったという証拠であり、気付く者はそこで多くの命が失われたことに思い至る。だが、20年という長い歳月は人にその事実を薄れさせるに十分だった。

 「理想はNoah’s-ArkとA2がツブしあってくれることですが・・・こちらから追い立てて引っ張り出す必要がありましょうな」

「モスよ・・・人類はな、もう地球から巣立つべきなのだ。広く、外の世界に目を向けなければならん。それを促すのも先人たる宙に住む我々の役目なのだ」

バナルディ・エウレストンもまた、人類の行く末を憂う1人だ。ただ自分が宇宙に生まれた者であり、最愛の人を失ったという事実が多少歪めてはいるだろうが、人類の平和を願っていることに変わりはないらしい。ただその視点が、宇宙に住む人からのモノであるという固執があるだけだ。

 〝平和を願う〟というのは、人類が持つ共通の認識だろう。ただそれだけが共通であり究極の願いならば、おそらく人は争わない。残念ながら人類は個々によって思い描く平和が異なる。それは平和の在り方そのものだったり、平和へ至る過程だったりが異なる。そしてそれこそが争いの火種になる。

 例えば地球に生息する種族において、単一の種族内であっても争いは存在する。だがそれが、殺傷にまで及ぶケースは数限られているだろう。ソレが人類ほど多い種族は他に見ない。もしかしたら人類という種族は単一ではなく、多岐に渡る種族の相称に過ぎないのかもしれないとさえ思う。少なくともエウレストンにとって人類は、宇宙に住む人類と地球に住む人類に大別された別の種族だった。

 「それならば地表に隕石でも落としましょうか?〝核の冬〟でも引き起こせば、否応なく人類は宇宙に上がるかと」

「馬鹿者。それでは地球上に生息する他の生物の命まで奪う。地球は人類以外の手に委ね、自然の行くままに任せるが良かろう。時が来れば、開発中のアレを地球に降ろせ。それで地球は綺麗に成る」

 モスは顎に手をやった。サングラスで表情が読み取りづらいが、仕草からは何かを思案しているようにも見える。

「事前通告無しでよろしいので?」

「好きにせい・・・共栄圏など構築するつもりは無いからな」

「共栄圏ですか・・・人類にはムリでしょうな。必ずどこかで争いが起きます」

「争いを忘れた人類などと世迷い事よ」

 戦争から逃れられない人類が愚かなのではない。人という地球上の生物の1つだったモノが、知恵という特性を得たときおそらく、すでに人類は地球の生態系から外れた生き物へと変わってしまったのだろう。それは違う見方をすれば、人類はすでに地球という惑星に生きる生物ではなくなったということだ。

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