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第十三部 parent(親)
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第十三部 第13話 Time(時間)

 「ウテナがヘタレポンコツは確定としても、結局反物質ってどうなのよ?」

ウテナならもしかしたら甘んじてその称号を受け入れたかもしれないなと思いつつも、開発チームを代表するようにセシルがミシェルの質問に答えた。

 「局長がヘタレポンコツなのはイイんですけど、回収した反物質は安定しています。正直、私たちじゃ認識もできないんですけど、時間拡張も生きてると」

セシルの言う「認識できない」は正しい。反物質の対消滅はこの時間拡張がもたらす結果だが、時間が拡張されているのかどうかを確認する術が無い。ただ、回収した反物質から放出した反物質は、物質と対消滅を起こしたことが確認できている。

 「ただですね~・・・ちょっと私、局長にだいぶ毒されてきたのかな~と思うんですけど、もしかしたらですよ?この時間ってそもそも人だけが認識してるって可能性、ありません?」

夫のミハエルですらも、「ナニ言ってんだ?」という表情がありありと浮かび上がっている。「ウテナに毒された」と自ら発言しているあたり、本人にもトンデモなく突飛なことを口にしている自覚があるのだろう。

 「・・・ソレ、あるかもね。もしかしたら、人間だけとか、それこそ地球だけや太陽系だけなんて縛りで、時間が認識されているって可能性もあるのか・・・」

時間という概念を明確に保有しているのは、確かに(現時点では)人間だけだ。地球上に住む生物や、何なら地球そのものも同じ時間軸に有りそうだが、そんな常識は人間が一方的に押し付けているものに過ぎない。

 例えば生物の一生を基準に考えた場合どうだろうか。人間の持つ時間軸からすれば、人間より短命の生物もあればその逆もある。だがもし、一生という尺度の方が基準で同じであったとしたなら、その間で過ぎ去る時間の速度は違うということになる。これを全宇宙規模で考えた場合、そもそも時間軸を持たないコトが普通である可能性すらあることになる。

 「人間だけが神を持つという言葉を親から受け継いだ少年がどうなったか知ってます?」

それまで一言も発することの無かったベルルーイが不意に言葉を発した。その言葉に含まれていた少年の名は〝ジナーク・バリスン〟と言う。現在の彼は行方不明となっている。偶然にもsks(スケィス)系の試作Mhw(ミュー)に搭乗することになった彼は、戦闘の中で〝時間の終着点〟に到達したという話があった。誰も確かめようの無かったその逸話は、Noah’s-Ark(ノアズアーク)の一部だけが今も記憶しているに過ぎない。

 「時空の向こう側へ旅立った・・・だったかしら?なるほどね・・・人間が時間に干渉することは出来ない。そのくせ、時間は私たちを縛るのだから、その存在は人間からしたら神様以外の何者でもないわよね」

「ああ・・・その神は人間だけが持つ。だから人間以外は時間に縛られてないってことになるのね・・・まったく・・・ひどく現実的なファンタジーだわね」

ミシェルとローズが互いに顔を見合わせながら、それでいてその場のみんなに聞かせるように心情を吐露していく。その声音は半ば呆れた様子でもあり、冗談事のようにも聞こえた。

 「よーするにアレか?そのトンデモないシロモノを持ってるオレたちは、他のヤツらから目の敵にされるってコトだよなぁ?・・・だったら話はカンタンじゃねーか。横取りしよーとしてくるヤツら全員ぶっ飛ばして、フォンタジーが現実だって人類に突きつけりゃいいだけだろーよ?オレたちが変わるってこたぁねーよ」

どこまでを理解しての発言かはさて置き、アキラの言葉はその場の全員に響いたようだ。呆れた様子も困惑した顔も、そして難しい雰囲気も全てを一蹴し、全員の思考に〝フリーズ〟という現象を引き起こさせた。

 1人ずつ僅かな時間差はあれど、1人、また1人と口元に笑みが見える。その表情に引っ張られるように、誰が話をするでもなく雰囲気が明るいものへと変化しているのが実感として分かるようだった。

「よく言った!隊長!!」

「たいちょーにしては的を得ているフシギ・・・」

「まぁ、隊長らしいって言えばまったくそのとおりなんだけどね」

やはり反応まで早かったのは元pentagram(ペンタグラム)の3人だ。今となっては編成も異なっているものの、やはりアキラを指して「隊長」という呼称に変わりはないらしい。3人に引っ張られるように周囲で上がり始めた声はやがて、1つの意志に統一されるかのように集約を始めた。

 「Noah’s-ArkとStarGazer(スターゲイザー)は当然狙ってくるわよ?なんせ、Plurielを見てる」

「読めないのはあのオンナだけど、放置してくれるようなコトはないでしょうね」

「そりゃあそうだろ。ただ、どう関わって来るかは読めないね」

 Noah’s-ArkもStarGazerも、それぞれの目的はあるのかもしれない。少なくとも戦争が始まった当初、互いに大儀や信念があったはずだ。もしそれが今尚あるのならば、Plurielが見せた〝力〟はその糧と成る。

 BABEL(バベル)がもしもこの戦争をコントロールしようとするのならば、Plurielが示した〝力〟は過ぎたシロモノであり、同時に、世界をコントロールする者が持つに相応しいと主張するだろう。力が〝過ぎた〟モノかどうかは使い手によって決まるというのに、だ。

 「ねぇね?あのミリアークっての、もう表に出てこないっての、アリ?」

それまで珍しく押し黙っていたマドカが、これまた珍しく神妙な面持ちのまま、顎の辺りに手を当て床を見つめたままポツリと、それでもみんなの耳に届くであろうタイミングを見計らって呟いた。

 「マドカ?・・・あぁ、なるほどね。ソレ、有るかもしれないわね」

「あの女はお兄ちゃんに執着してた。たぶん、隣に堂々と立てる人を求めてたんだと思う。その相手と認めたお兄ちゃんと〝世界〟ってボードでチェスでもしてたんだろうけど、状況を知ったら・・・ううん、もう知ってそうだけど・・・」

マドカの様子からその考えを察したのはローズだった。自他共に認める姉としての気質が彼女にそうさせたのだろう。そっとマドカに近付き、その肩に優しく手を添え寄り添い立った。マドカにその先を言葉にさせることを拒んでいるようでもある。

 「きっと今の状況はあのオンナの望む状態じゃないわね。最悪・・・ん?チガウわね・・・運が良ければ、世界に興味が無くなるかもしれない」

誰もがウテナの結末を直接的に表現することを避けている。特にマドカ、アンにはソレをさせまいと周囲が配慮することは自然の流れだ。

「けどね、マドカちゃん・・・ううん、みんな。あのオンナとは戦うことになるって私のカンが言ってる。むしろ、見切りをつけるかのように〝支配〟を加速させて来る気がするの」

その結果として待ち受けるのは、コントロールされた戦争の継続による人類の〝調整〟だ。それもまた、人類が生きていくための手段なのかもしれないが、受け入れることができるほど、人間は物分かりがいいわけではない。

 「抗うんでしょ?ローズ?」

「そうね、姉さん。もしもっと真っ当な方法だったとしても、あのオンナの思惑には従えない・・・だってキライだもの」

ローズの表情が全てを表しているようだった。ミリアークに対する嫌悪感はどうやら本物のようだ。そんなローズの様子を確認したコールマンは、覚悟とも諦めとも分からないため息を一つ吐いた。

 「何にせよ、A2の目的は決まったからね。感情でブレちゃいけない。それに向かって突き進む。そして立ち塞がる者があるなら、全力でこれを排除する」

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