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第十三部 parent(親)
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第十三部 第9話 strength(強さ)

 「しゃーねーな。別れは言わねーぞ?」

ナナクルは視線を正面のモニターに向けた。そこにはいつものウテナが映っている。

「当たり前だ」

ウテナもモニターでナナクルを見ているのだろう。ただしその視線はナナクルに向かず、わずかに下へ逸れていた。

「俺たちには勿体ないぐらい・・・いい人生だな」

「ああ、いい人生だ・・・ナナクル、頼んだ」

「任せろ。キッチリ仕留めてやる」

短い会話を交わし、Failwaht(フェイルウォート)の手はウテナの乗るタンクの頭部から離れた。すぅっとその場を後退する最中、モニターの正面にはウテナの姿をとらえ続けている。

「ハッ・・・我ながら女々しいな・・・さーてと、仕事するとしようかね」

Failwahtの腰部から上半身が先に左回転を始め、つられるように下半身が方向転換する。モニターからウテナの姿が消え、代わって正面に映し出されたのはknee-socks(ニーソックス)だったが、ナナクルの目にはその主砲だけが一際大きく見えた。

 「全機、ヤツとの距離を維持。ヤツを他に逃がさないよう、包囲は解かないでくれ。次の一手は僕とナナクルの連携でうかがってみる」

展開しているA2各機から「了解」の返事がある中、何かを察したのだろうか、三姫のパイロット3人の声は聞こえなかった。

 ウテナは彼女たち3人が、類稀なるNEXT(ネクスト)だということを知っている。数日前にArtesia(アルティシア)でナナクルと交わした〝約束〟が聞こえたわけではないだろうが、今この瞬間であっても、ウテナとナナクルの2人の胸中を垣間見たとしても不思議は無い。3人の沈黙を破ったのは、驚いたことにアンだった。

「ウテナさん・・・いってらっしゃい」

2つの言葉の間に沈黙があった。ウテナへ声を掛けようとしたものの、その後をどう続ければいいのかを悩んだ。アンにはウテナが何をしようとしているのかまで解らなくとも、居なくなる可能性が高いということは理解できた。もちろんそんな結果は望まない。だからとて、戻って来ることを願う言葉を口にすれば、それは誰にとっても〝呪い〟になってしまう。アンが選んだ言葉は、結果的に送り出す言葉だった。

「ああ・・・行ってくる」

ウテナもまた、アンに返す言葉に空白があった。アンが望むのも、自分の願望としても、言いたかった言葉は他にある。そうでありたいと願うことで、そうなるように努力することで、それでも叶わない可能性が高いことを承知しているのなら、それは〝気休め〟と呼ばれるウソでしかない。ウテナの言葉に生じた空白はその葛藤が生み出したものだった。

「ウテナ、良かったのか?アイツ次第だろうけど、まだ時間はあるぞ?」

「いや、いい。覚悟の無い優しさは偽善でしかないからね」

〝優しいウソ〟という言葉を聞いたことがある。だがそれは、優しかろうが何だろうが嘘であることに違いはない。その嘘を真実に変えるほどの力があるのならまだ分かるが、それは嘘の程度によるだろう。人は少なからず優しさを他者に求める。それは悪い事ではない。だが求める側でなく、与える側には、優しくすることに責任が伴う。優しさを与えられた相手は、与えてくれた相手に少なからず依存する。頼るようになる。そうなったとき、与える側は与えた優しさを貫く必要がある。それを途中で覆せば、その瞬間〝裏切り〟と認識され、どのような理由があろうと他者を苦しめる。

 それはウテナが生きるうえで〝良し〟としないことだ。〝覚悟の無い優しさは偽善でしかない〟という言葉は、ウテナの核を成す言葉でもあった。そしてその言葉の意味を、ADaMaS(アダマス)の主要メンバーは知っていた。

「そうだったな。ワルい」

「いいさ、ナナクル。大丈夫だ、A2に集ったみんなは〝強い〟」

「ああ、そうだな・・・よし、knee-socksに着いた。上がったら知らせるよ」

ナナクルがそう告げるとFailwahtのコクピットハッチが開き、自身の身体を負い目に引っ張り戻されないよう勢いよく飛び出させた。そのままの勢いで足早にハンガーから姿を消す。

 Knee-socksのMhw(ミュー)ハンガーからブリッジに上がるまではエレベーター1つでそれほどの時間は必要としない。それでも時に、エレベーターの中という空間は人に思慮する時間を自然と与える。

 ナナクルは今、ブリッジに向かっている。そこにはknee-socksの主砲トリガーがある。そのトリガーを引くことが最終的な目的だということは明白だ。そして同時に、何を撃たなければならないのかも、トリガーを引くという単純なコトと同じように明白なことだ。

 最終的に〝撃つ〟のはPluriel(プルリエル)のコクピットだ。だがその射線上にはウテナの存在があり、〝狙う〟のはと問われればウテナの方だ。射線を一直線上にするのはウテナがその大部分を担う。ナナクルに託されたのはタイミングであり、定める狙いはウテナの乗るタンクそのものだ。理由がどうであれ、自らの意志で友を撃たなければならないことに変わりはない。

 出来得る限り、ウテナの生存率を高めることに抜かりは無い。だが、十中八九、パーセンテージで言えば99%(あるいはさらに.9を付けてもいいかもしれない)、ウテナが助かる見込みは無いだろう。

 Mhwを撃破するとき、Mhwそのものに可能な限り損壊を出さずに撃破するにはどうするのがいいか?ナナクルは技術屋ではないが、ADaMaSの一員であることも手伝って、それぐらいの知識なら持ち合わせている。答えは簡単。バックパックに当たらないようにだけ注意しコクピットを貫く。正面や背後からが一般的だが、実は構造上、縦方向でも同じだ。Mhw構造を熟知しているウテナなら、まず間違いなく頭からPlurielに突っ込むはずだ。

 タンク底部から頭頂部にかけて最大限に径を絞った主砲を貫通させる。そうすることで、仮にPlurielが反物質の翼12枚で防御しようとも、機体内部に留まる粒子がPlurielにまで到達する(という計算?いや、ウテナのカンだろうか)。

 おそらく、ウテナのカンは正しい。Plurielを止めることはできるだろう。だが、どれだけ絞っても戦艦の主砲だ。例えば強力な威力を有するThe()kuynbout(クインバウト)のビームライフルよりもビーム径は大きくなる。それがコクピットを通過するというのだ。仮にまるで自身がモニターだと言うほどにコクピット内径に張り付いたとしても、通過するその熱量がウテナの身を蒸発させてしまうことは容易に想像できる。

 ならば機体を捨て、着弾のタイミングに合わせてコクピットから脱出すればどうだろうか?しかしあの黒い翼の展開速度は異常と言っていい。Plurielが攻撃できないのはウテナ自身であって、ウテナの乗る機体は消滅してくれていいものなのだから、それまで浸食を躊躇っていた翼は、あっという間に機体そのものを、内包するビームごと飲み込んでしまうだろう。

 覚悟はしたつもりだ。実際、いざトリガーを引くその瞬間に揺らぐことは否めないが、そうならないための覚悟だ。タイミングは恐ろしいほどシビアなモノになる。Plurielを倒すことが最優先である以上、ウテナの身を案じる隙は微塵も無い。

 果たして人がそんな覚悟、自らの身が焼かれるでなく、溶けていくことを覚悟することなど出来るのだろうか?それは自分だったならと置き換えた時に恐怖するからこその生じる疑問だろう。ナナクルの知るウテナなら、それが出来ると思うかと問われたとき、迷うことなく「yes」と答える。

 ナナクルはふと思った。今自らに芽生えている〝覚悟〟は、ウテナはもとより、A2のみんなに向けた〝優しさ〟を裏付けするための覚悟なのだろうか。

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