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第十三部 parent(親)
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第十三部 第8話 promise(約束)

 「ウテナ!ちょっと付き合え」

それは数日前の出来事だ。Thigh-high(サイハイ)Mhw(ミュー)の整備にあたっていたウテナを連れ出し、knee-high(ニーハイ)にあるバー〝Artesia(アルティシア)〟へ誘った。

 カウンターに座る2人以外に客は1人も居ない。それもそのはずで、Artesiaの入口にはclause(クローズ)の看板がぶら下がっていた。2人の前にはそれぞれ、自らが好むアルコールがグラスに注がれている。ナナクルはそのグラスを持ち上げ、肘をカウンターに着いた高さでゆっくりと1口飲むと、静かにグラスの中を液体が揺蕩う様を見つめたまま切り出した。

 「悪いな、ウテナ。オマエ、ディミトリー・・・いや、Pluriel(プルリエル)をなんとかする策、考えついてるのか?」

「ん?ああ。1つだけだけどね・・・あ、いや、正確には2つ、だな」

「ふーん・・・1つは正攻法。んでもうイッコが裏ワザってとこか」

「察しがいいな」

「何年オマエとつるんでると思ってんだよ?それとも何か?〝親友〟だと思ってるのは俺だけってか?」

「アホ言え。僕の人生でナナクル以上の〝ダチ〟なんて想像もできないね」

「おいおい、キモチわりぃな」

「オマエが先に言い出したんだろ」

「・・・そりゃそーだ。で?ナニやらせようってんだよ?オマエの裏ワザに俺が絡んでないってのはちょーっと考えにくいんだが?」

「つくづく察しが良くて助かる。まぁ、結論から言うと、僕ごとヤツを撃ち抜いてほしい」

「ふーん。オマエそれ・・・いつ俺に切り出すつもりだったんだよ?」

「・・・偶然だが、今日、だな。ナナクルが誘って来なけりゃ、僕が行くつもりだったんだよ。だから今日はここ、貸し切りだったろ?」

「やっぱりコレ、オマエの仕業だったか。根回しが良いな。お陰で気兼ねなく話せる・・・いいぜ?詳しく聞かせろよ」

「あくまで正攻法が通じなかった場合だけど、ヤツの反物質を突破する方法が無いってのはいいよな?」

「オマエの説明聞いてりゃ、その結論になるわ。攻撃手段ってどんな方法であれ物質だろうからな」

「そういうこと。あの機体なら反物質で自分を丸ごと包んでしまえるからね。そうなったら本当にどうしようもない。と言うか、そうなる公算が高い」

「んん?まてまて・・・するってーとナニか?反物質に突っ込んだオマエが消え去る前にオマエをぶち抜けってことか?それは失敗のリスクが高いだろ?」

「何も考えずに突っ込んだらそりゃそうさ。ちゃんと順番に説明するから、まぁ聞けよ。予測だけれど、まず第一に、アイツには僕を消すことはできない。アレの存在は永続的だけど、アイツの在り方はそうはいかないからね」

「なんだよ、難しいな。どういうことだ?」

「中身はそんな難しい話じゃないさ。そうだね・・・なら聞くけどさ、反物質そのものはどこにある?」

「え?そりゃぁ・・・ん?どこだ・・・あ・・・オマエの作ったT字型の装置の中か!」

「うん、そうだね。じゃあ、T字型の装置っていったい何さ?」

「何ってそりゃ・・・機械?」

「正解。ウチが造ってるMhwも機械なワケだけど、なら僕たちは造ることしかしないのかい?僕らのモットー、アフターサービスはどこ行った?」

「・・・ああ!ナルホドな。反物質そのものは理論的には永続的に存在できるが、実際にはあの装置の中でなけりゃ大気との対消滅で消えちまう。だからあの装置があるが、機械である以上は劣化するな」

「ああ。つまり、装置を維持させるために僕を消すことはできない。アレは僕にしかメンテナンスできない。それこそミリアークだってムリだろうね」

「・・・確証は?」

「予測だって言ったろ?あるわけナイじゃないか。確証じゃ検証の末に得るもんだ。どうやって試すってんだよ。けど、僕流で言えば確信はあるよ」

それまで雰囲気に反して真面目な面持ちだったウテナの表情がニヤリと歪んだ。

「よーするにだ・・・オマエが機体ごと反物質に突っ込むとヤツはオマエを消せない。オマエの機体が反物質に触れている間は、機体の空間分だけ反物質に穴が開くってことだな?だからビームを消滅させられないよう、そのオマエの中を通すってことでいいか?」

「合ってるけど、難易度は跳ね上がるよ?なんせ、反物質の防壁が1枚だけとは限らないからね」

「おいおい、ソレが複数あったら・・・最初の1枚にオマエが接触した瞬間にオマエに着弾、複数の壁を突っ込む速度に合わせてオマエの機体内に弾丸を留めとくってことか?」

「そーなるね。僕は機体の限界速度で突っ込む必要があるし、ナナクルには恐ろしいほど精密なタイミングが要求される」

「マジかぁ・・・自信ねぇな」

「いーや、ナナクルのタイミングは天才的だよ。だからこそ、普段の戦闘でならFailwaht(フェイルウォート)のガトバズが活きるんだし」

「どーいうことよ?」

「気付いてないのか。オマエ、ガトバズ使う時って微細なトリガーコントロールで弾速調整してるよ?そうできるように造ったのは僕だけど、そんなコトできるヤツを僕は他に知らないし、それができるオマエは間違いなくNEXT(ネクスト)だよ」

「そんなモンか?俺は人の心の声なんて聞こえないぜ?」

「NEXTはソレだけが全てじゃないよ。言ってみれば、玄人のその先に辿り着いた瞬間、その人はNEXTになる・・・って言ったところで、僕らにとってNEXTは特別じゃないからね」

「そりゃまぁ、NEXTかどーかなんて、さほど気にしちゃいないだろ・・・まぁ、やるからには出来る限り全力出すけどよ?・・・1つ確認していいか?」

「・・・確認するまでも無いだろ。狙うのはどっちもコクピットだ。ソコじゃないと意味が無い。それも、口径を絞り切った状態でなけりゃ、機体そのものが爆散して終わる。まぁ、運が良けりゃ、生き残れるさ」

「・・・カンベンしろよ・・・いや、スマン。もしかしたら、ここはありがとうと言うべきなのかもしれんな」

「そーだな・・・こんなコト、オマエじゃなけりゃ頼めないからな」

「キッチり、コクピットを貫いてやるよ。ビームは限界まで絞るから、できるだけ端っこにヘバりついてろ。運が良けりゃ、火傷で済む」

「ばーか。んな至近距離をビームが通過すりゃ、いろいろ溶けるわ・・・ナナクル、後を頼むよ?」

「後って・・・オマエを撃つ俺にA2を引っ張れって言うのか?まったく・・・ソレも俺かよ・・・」

ナナクルの表情に苦笑いが浮かび上がった。

「ところで、アレもコクピットでいいのか?」

「ああ。分かりやすく言うと、Mhwが肉体で反物質が脳なんだよ。で、ディミトリーが神経だと思えばいい」

「あー・・・そういうコトか。神経のディミトリーをぶっ飛ばせば、アレは沈黙せざるを得ないってワケね」

「そういうコト。僕がもしもの場合でも、クルーガン、ヒュートを筆頭にアイツらは育ってる。それこそ個人の得意分野なら僕と同等だから、ソッチは任せていいよ」

「ああ、知ってるよ・・・なぁ、ウテナ」

「ん?」

「俺たちここまで、いい人生だったよな」

「そうだね。人に恵まれた人生はいいものだよ」

 気付けばウテナの前に置かれているグラスの中にあった氷は溶け、ナナクルが手にしたグラスの下には、時間をかけて作られた小さな水溜まりが出来ていた。

「俺たちの人生に」

ナナクルはウテナの方を向くでもなく、ただそっと目を閉じ、手にしたグラスを掲げた。ウテナもまた、ナナクルのその動きに呼応するように、まるで二人が合わせ鏡だったかのように、液体だけが揺蕩うグラスを持ち上げ掲げた。

「ああ、僕たちの人生に」

2人は初めてグラスの中に注がれたアルコールを口にした。

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