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第十三部 parent(親)
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第十三部 第7話 Lucifer(堕天使)

 「フォレスタ?アナタなんでココに居るのよ?」

コールマンが実際に隣に居るということが幾分かローズの緊張をほぐしたようだが、それでも視線は目の前の黒いカーテンから離せない。

「なんでとはまた・・・そりゃ惚れた女性が命を懸けてるんです。ココに私が居る理由にそれ以上のモノなんてありはしませんよ」

 ローズはその場所に到達して以降初めて、死のカーテンから目を離した。もしかしたら瞬きをしたのも同じく初めてかもしれない。ローズ自身が左側に視線を向けると、パイロットであるローズの視線移動に反応してblue-rose(ブルーローズ)の頭部も左へ向きを変えていく。どうやら視線の動きを感知してメインカメラの向きを調整する機能があるらしい。

 「ちょっとフォレスタ?何を唐突に・・・どーせならもうちょっと雰囲気のある状況で言ってくれると良かったんですけど?」

「それは告白の答えと受け取っても?」

「そうね・・・いいわよ」

直前まで死のカーテンに呼吸すらままならないほどの緊張感があったとは思えない。それどころか、今尚ソレは眼前にある。にもかかわらず、どうやら2機の間やその周辺にはバラが咲き誇っている様だ。

 おそらく、2人とも一度離れる前に互いに意識していたのだろうし、再会したときには、やはりそれぞれに当初の想いを再確認したのだろう。そして結論的に、その思いは今尚変わっていないことを知った。ローズの言うとおり、これが戦場でなかったならもっとステキな場面だったろうが、その片方の存在そのものが消えてしまうかもしれない状況だったことが、ある意味でこのタイミングを選択させたのだろう。だからと言って、A2の面々がスルーできる内容ではないことも確かだ。もしもコレがknee-high(ニーハイ)の食堂あたりで繰り広げられた会話だったとしたら、みんなの反応は容易に想像できるのだが、生憎ここは戦場で作戦行動の真最中だ。誰もが「コレは今晩のネタになる」と思わずには居られない。

 「ローズに危険は迫らせない。構わないからヤってしまえ」

「ええ。私がケジメを付けさせてもらうわ」

ローズの集中はビームウィップ先端の操作に切り替わった。ビームウィップ先端には、刺突出来るように短いビーム刃が生成される。一見すると〝針〟のようでもあるソレが、突き進む障害となる砂を掻き分け進む。

 Pluriel(プルリエル)への本当の攻撃手段は、反物質を展開できない(だろう)地中にビームウィップを潜行させ、Plurielの足元からその刃を突き上げることだった。コレを成功させるために必要だった絶対条件は、ソレを成すためのビームウィップの長さだ。コレを確保するためにローズの乗るblue-roseは限界まで反物質の翼に近付く必要があった。

 ただ闇雲にblue-roseが近付けば、それは自殺行為に等しい。Plurielが翼を広げるだけでblue-roseの存在をこの世界から消滅させることができる。それをさせないために、翼を動かすことが出来ない状況を作り出すために全方位砲撃が必要だった。さらに。Plurielの意識がblue-roseに向かないよう、knee-socks(ニーソックス)の主砲を撃った。そしてそれは今も続いている。

 「気が付かない。とでも思ったか?」

ドラゴンに似たPlurielの長い首のうち、半分ぐらいから先が少しずつ傾き、その顔の正面をblue-roseに向けた。Mhw(ミュー)としては長い額の下に本来あるべきフェイスは今そこには無い。例えるならヘルメットに該当する部分を残してフェイスが回転し、首は後頭部から連なっている。ヘルメットを基準に見れば、顔は真下を向いていることになり、Mhw形態時に顔だった箇所には、粒子砲の発射口がこちらに向いている。今となればドラゴンの顔に見える頭部の口だと認識していたはずのソコがblue-roseに向いた時、その先に居たローズには、まるで1つ目の怪物のように思えた。

 決して怯えるようなコトは無かったが、自然と再び喉がゴクリと音を立てた瞬間、ローズの意識下にあったビームウィップの先端が、コンソールに表示された〝ERROR(エラー)〟の文字と共に消失した。反射的に死のカーテンに視線を移したが、隣に立つコールマンのMhw〝一式〟が反応していないことでも解るように、相変わらず眼前にある。カーテンを地中にまで伸ばしたのかと思いもしたが、Plurielを囲むソレが地面と接している(というのもヘンだが)箇所は無いように思う。

 「ローズ、何が起きた?今のヤツの言葉は何だ?」

「ウィップが切断されたわ・・・でも、どうやって・・・」

Blue-roseはその場に立上り、地中に突き刺していたビームウィップを引き抜き、潜行させていたワイヤーを巻き上げると、それは本来あるべき先端を失っていた。

 気が付くとknee-socksの主砲はその力を使い果たしたようで、すでに光の筋はどこにも見当たらない。いつそうなったのか気付かなかったが、Mhwからの射撃、砲撃も全てが終了していた。本来なら、爆炎や砂塵が舞うのだろうが、相手が反物質だったからなのだろう、その場はまるで何も起きていないかのような静けさがあった。

 「翼が両翼一対だけだと誰が言った?その出力をオマエたちが侮ったとするなら、それは代償を伴うミスだ」

それまで四足歩行であるかのように四肢を地に付けていたPlurielの上体が動き出し、Mhwであったときに背部バックパックだった大きな脚で直立しようとしているのが見て解る。

 「ローズ、退きますよ。距離を取るんです」

「分かったわ・・・」

Blue-roseと一式がその場を離脱し始めたころ、完全に2脚で直立したドラゴンが、正に背部から生えているその翼を広げると、一番外側にそれまで身体全体を覆っていた両翼のさらに内側に、その半分ほどの大きさを有する翼がいくつかある。全ての翼を合計すると、大小合わせて12枚を数えた。

 「なるほど・・・アレの1つが鋭利に地中を進んで、ローズのビームウィップを切断したということですか」

「そのとおりだよ。どうかな?この12枚の姿は。まるでルシファーのようだとは思わないかな?」

ルシファーは堕天使の名前だ。その存在はかつて全天使の長であったが、神と対立し敵対者となった。また、サタンとも同一視される存在だ。

 「全機、防衛ラインまで後退。悪魔払いは僕がやる」

この作戦に防衛ラインというものは存在しない。Plurielが牙を剥いたとするならば、防衛手段が皆無だからだ。ウテナの言うそれは、Plurielからの距離の話であり、事前に取り決めてあったその距離を全機が開けた。

 「ウテナ。まだ策はあるのか?」

まだその位置からは動かないPlurielを横目に、ナナクルのFailwaht(フェイルウォート)が、その代名詞である武装を解除した姿であるMahal(マハル)でウテナに近付いた。Mahalであっても外観は13D製Lyuut(リュート)であり、重量級のMhwだが、その移動手段はホバーであり、足場の悪い砂漠であってもスムーズな動きを見せている。

 ウテナの乗るタンクの傍らにまでたどり着いたMahalは、タンクとの高低差があったことからその頭部に手を置き、ウテナとの直接接触回線を開いた。

「策?ナニ言ってんだよ、ナナクル。いよいよ最終局面だよ」

「・・・やっぱりか・・・やるのか?」

Mahalのコクピット内でモニターに映るウテナを、まるで機体を透過して見ているような雰囲気をナナクルは感じた。

「ああ、やる」

ただ短く、ウテナはそう答えた。

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