第十三部 第5話 siege(包囲)
「ほぅ・・・カーズとテイクンを退けたか」
その戦場に残ったMhwは、A2に所属するMhwを除けばPlurielを残すだけとなっていた。
「ナナクル!こっちの被害は?犠牲は出てるのか!?」
どうやらPlurielは通信をオープンにしたままらしく、ウテナの乗るタンクのコクピット内にディミトリーの声が聞こえてくる。声そのものはディミトリーのものと何も変わらないことが、返ってウテナの冷静さを奪っていくようにも感じられる。
「大丈夫だ、ウテナ、落ち着け。イザナギと孔雀王はロストしたが、犠牲は出てない。シズカゴゼンとRe:Dがそれぞれを帰還させに離脱してるが、すぐに戻る。それよりソッチはどんなよ?」
一瞬、「ロスト」という言葉にドキリとなったが、「犠牲はない」の言葉がウテナの中に浸み込んでいく。すでにPlurielによって消された魂には申し訳ないが、今この戦場にA2以外の人間が存在しないことに感謝すら覚えた。
「コッチ?ある意味じゃぁ作戦失敗だな。相手は1人だけど〝全面戦争開始〟ってトコじゃないかな」
「なるほど、予想どおりってコトだな?このまま続行でいいんか?」
「いい。ってか、むしろ頼む」
ナナクルはコンソールを手早く操作し、通信をA2内でフルオープンにした。
「全機っ!パターンXだ。集中力切らすなよ?距離を保て!」
戦場に残ったA2のMhwは、ウテナのタンク、三姫の他、Valhalla部隊分断を担ったFailwaht、blue-rose、AKAKAGE、golgoの4機、そしてテイクンと対峙していたThekuynboutとコノハナサクヤの2機だ。これら10機がPlurielを取り囲むように展開していく。
「包囲か?ソレでどうなる?」
「アラ、会話できるの?全方位をその翼でカバーしきれるのか、教えてくれないかしら?」
A2の10機のうち、blue-roseには射撃系の専用武装は無い。コノハナサクヤもガトリングはすでに撃ち尽くし、投棄された後だったが、それぞれの手にはブルバップ・マシンガンが握られていた。360度完全包囲からの一斉射だ。
「全機!ミシェルが居るんだからケチんないでよ?全弾撃ち尽くすつもりでぶっ放せぇっ!」
Plurielを中心に包囲してはいるが、それぞれ対角に僚機が居ないよう、高低差も含めた絶妙な位置取りが取られている。これはすでに想定されていた陣形だったため、セシルがPlurielを中心とした配置になった瞬間、その大まかな位置取りを事前にプログラムしていた(そもそもフレンドリーファイア抑制プログラムは常設されている)。
ローズの掛け声が終わるよりも早く、10機のMhwが持つ射撃兵装が一斉に火を噴いた。マシンガン系の銃弾はもとより、Failwahtからはバズーカ弾頭が降り注ぎ、Thekuynboutからは高威力のビームライフルが連射されている。ウテナに至っては対拠点攻撃用の徹甲弾だ。
種類豊富な弾丸の雨は、それでもPlurielを中心とした一定距離で全て、もともと何も飛んできていないと言わんばかりにその存在が消えていく。Plurielはそれぞれの翼をさらに拡張させ、自機そのものをドーム状に覆っていた。
「実体験はどんな仮説よりも説得力があるだろう?どんな攻撃をしてこようと、反物質を突破することはできんっ!」
「ミシェル!!今だっ!!!」
「主砲照射っ!!」
それはミシェルの乗る旗艦〝knee-socks〟に装備されている戦艦の全長を遥かに超える主砲だった。そのあまりにも巨大な兵装は威力も規格外なシロモノであったため、一般的な戦艦の主砲とは違い、製造者であるウテナにして「出来上がったらデカすぎたからそのまんま外付けした」と言うとおり、戦艦から切り離しても稼働させることができる(やる意味はまったくナイが)。
ミシェルの声と同時に長大な砲身の奥深くで黄色い光が灯りだす。それは僅かな点ほどの大きさでしかなかったが、見る間に砲身内に広がり、砲身内をその光で埋め尽くしていく。やがて砲口にたどり着いたその光が僅かに膨らんだかと思うと、砲身径に比べて明らかに小さい光の筋がPluriel目掛けて走った。
ミシェルは事前にビーム径を絞るように指示していた。当然、絞れば絞るほど貫通力が高まり、逆に開放すれば照射面積が大きくなる。だが、ミシェルの狙いは〝貫通力〟ではない。反物質相手に貫通は意味を成さない。ミシェルが意図したのは〝照射時間の延長〟だった。
反物質の対消滅は絶対的なものだが、ヤーズ・エイトでの落下衛星消滅のときに放たれたソレはかなりの大きさだった。いくら反物質であったとしても、消滅させようという対象に応じた質量(反物質に質量というのもヘンな気がするが)が必要だったという予測だ。この予測を基に、反物質の翼を突破する方法を試したこの主砲は、永続的に反物質の翼に高威力のビームを当て続けることで、翼を形成する反物質の放出そのものが追い付かなくなることを期待していた。
「あくまで〝期待〟なところがツラいトコロよねー」
「全機、一斉射を止めるなっ!1か所集中されたら防ぎきられるぞっ!!」
一度knee-socksに僚機を帰還させていたRe:Dとシズカゴゼンも射撃部隊に加わった。あのRe:Dもその手にはビームマシンガンが握られている。
それにしても、knee-socksの主砲照射時間が長い。すでにそれが照射され続けているレーザーだという認識から外れ、金色に光輝く棒が両者の間を繋いでいるかのような錯覚すら覚える。
Plurielを取り囲む包囲網からの弾幕も、戦場でお目にかかることが無いほどだ。これまで銃弾の雨あられと揶揄されていた状況が恥ずかしいとさえ感じるほど、大小どころかその種類すらも様々な〝弾〟がPluriel目掛けて空間を覆いつくしている。
A2の中で唯一、上空にその存在を維持することができるThekuynboutからは、それは恐ろしい光景が見えていた。ただでさえ見たことが無いほどの銃弾が、たった1機目掛けて放たれているにもかかわらず、まるでPlurielを取り囲む一定の空間だけ球状に、まるで別次元空間かのように、その内部は静かに見える。上空から自身が放つビームライフルも、何かに当たることもなくただ〝すぅ〟っとそのエネルギーの塊が姿を消すばかりだ。
「こんな光景を拝む日が来るなんてね・・・成す術無しってのはこのことを言うんだろうね」
もしもあの翼が物理的なモノだったとしたら、Plurielはおびただしい量の粉塵に取り囲まれていただろう。そのことはたぶん、A2にとって誤算の1つに数えていい。包囲するA2所属機体の中で1機だけが他と異なる動きを見せだした。1つのMhwに近付いていく機影がある。
A2包囲網を形成するMhwの内、単機で最大の砲撃数を誇っているのはナナクルの駆るFailwahtだ。そしてその機体に近付く機影の正体はローズの駆るblue-roseだと見ることができる。
「なんてこった・・・信頼?にしてもあんな芸当ってできるモンなのかよ」
その光景は上空であったが故に見ることができた。Thekuynboutに乗るルアンクからは、Failwahtの弾幕が一瞬途切れたのが見えた。すぐさま砲撃が再開されたが、並んで飛ぶ弾丸の合間、その一瞬途切れた箇所にblue-roseを挟んでいる。ガトリングバズーカの弾速を遅くしているのだろう。砲撃のバズーカ弾頭とblue-roseが同じ側でPlurielに向かっているのが見えた。




