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第十三部 parent(親)
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第十三部 第3話 friend(友人)

 「あくまで私の前に立ち塞がるのか・・・ウテナ」

Pluriel(プルリエル)とは、存在そのものが人間ではないだけで、その在り方は人間と何ら変わりはない。ヒトと同じように目的という欲望を抱え、それを達する過程で存在するだろうリスクを考える。Plurielが思い至ったリスクはたった1つ。本体を存続させるためには装置が必要で、自身の存在は永遠と等しいが、装置はそうではないことだ。機械にはメンテナンスやリペアが必要不可欠という事実が横たわる。

 そのリスクを回避する唯一確実な手段は〝創造主〟であるウテナを確保することだった。

「ああ、そうなるね」

「こちらが言うのもなんだが、勝つ見込みはあるのか?私に達することのできる攻撃手段があると?」

Plurielの問いにウテナは、あろうことか僚機でないPlurielを目の前にして両手をレバーから離した。その両手は胸の前をすれ違い、二の腕と身体の隙間に滑り込むようにして腕組みをしたかと思うと、目を閉じ首を傾げた。その行為は戦場であれば自殺行為に等しい。

「う~ん・・・どうなんだろうな?やってみないと何とも言えないんじゃないかなぁ?なんせ僕はアンタの創造主だからな」

スッと目を開いたウテナの表情は、不思議とどこか楽しそうにも見える。

 ディミトリーの記憶にあるウテナも、ADaMaSのガーデンで出会ったウテナも、どちらも駆け引きが得意という印象は受けない。そんなウテナが「やってみないと分からない」と言うのであれば、彼らは可能性を所持していて、それはおそらく、ウテナの後ろに控えている3機のMhw(ミュー)だ。装甲が透明だという時点で普通ではないと分かる。

 「私とまともに戦えるのは反物質を持つ者だけだぞ?」

「そうか?そうとも限らん。と僕は思ってるんだが?」

Plurielの反物質による攻撃を止める手立ては確かにある。対象と対消滅する反物質の特性を逆手に取ればいい。放たれる反物質に対し、ことごとく物質を当て続ければ、出来る出来ないは別として理論的に可能だ。だが現実を考えた場合、反物質の翼を突破して機体にダメージを与える方法となれば、コレを成す手段が思いつかない。もしかすると反物質同士なら対消滅が起こらず、まるで互いに何も無かったかのようにすり抜けるだけなのかもしれない。もしもそうなら、すり抜けた反物質が次にぶつかるのは(空気は別として)Plurielの機体そのものになるのだから、攻撃として成立する。だがやはり、反物質が他に存在するとはどうしても思えない。

 そもそも反物質という存在は、ウテナたちのような人種に言わせれば〝科学的〟なのだろうが、おおよその人間にとってみれば〝オカルト的〟存在でしかないだろう。そうした視点から見れば、同類はNEXT-Level(ネクストレベル)だ。後ろの3機に乗るパイロットがNEXTだろうことは疑っていない。そう言えばNEXTと相性の良い物質があったと記憶している。Brain(ブレイン)-Device(デバイス)と言う名の金属だったはずだ。

 B-D製の弾丸?B-D製の剣?それはウテナならあり得る話だ。実際のところ、B-Dは誰にでも扱え、柔軟で加工しやすく、伝導率なども非常に高い。特に電気信号をロス無く伝道させることから、世の中に存在するほとんどの電化製品の〝配線〟に使用されている。だが、扱いやすいこの金属を精製することは極めて困難であり、そもそもB-Dを精製できる企業は限られている。もっとも多くの供給率を占めるのはIHCだが、ADaMaSはIHCに次ぐ供給量を誇っている。理由は簡単、ミリアークとウテナがそれぞれに居るからだ。

 B-Dについては、まだまだ未知の領域だと言われている。ウテナがNEXT-LeveとBrain-Deviceの複合的作用で対反物質用のトンデモ性能を引き出したとしても、そもそも反物質などというもの生み出すような男なら驚きはしない。

 「後ろの3機・・・その妙な装甲はBrain-Deviceだな?ウテナ・・・今度はナニを見つけた?」

「素材はアタリだけどナニ言ってんだ?何か新しい発見的なのを期待してるのかもしれんが、そんな都合の良いモンはナイぞ?」

ウテナにしてハッタリともブラフとも思えない。だからと言って、無策で戦いを挑むような男でもないはずで、この男の本質は、天然で強かというオソロシイものだとディミトリーの記憶が告げている。警戒するに越したことはないだろう。

 ふと周囲の状況、Valhalla(ヴァルハラ)としての戦況に目を向けると、大部分は殲滅されているらしい。さすがにカーズとテイクンの2人は別格のようだが、それでも多対一を強いられて苦戦はしているようだ。もしかすると2人とも敗北し、彼ら全機がここに集結する可能性もある。だがそうなることも可能性としては織り込み済みだ。いくら数が増えようと、基本的にPlurielが敗北することは無い。

 「惜しいが、始めようか」

「大人しくしてくれるつもりは無いか?」

「ああ、無い。キサマは悪いヤツでないのだろうが、邪魔をするなら等しく敵だ。私は私の目的を優先する。キサマもそうしろ」

戦場で命を落とした者の魂は、全てPlurielが吸収する。今となってはその魂を取捨することもできる。ここからの目的は、ウテナの吸収だ。そうすることで彼の全てを私が引き継ぐことができる。ディミトリーの身体を使って自らメンテナンスを行えば良い。それは以前から考えていた結論の1つだが、最終手段でもあった。

 それが出来ることは随分前から気付いていた。だがそうしなかったのは、魂と表現したものの正体は電気信号であり、ウテナのような男の場合、流れ込んでくる電気信号が、求める技術的な部分だとは確信が無かったからだ。人は実に様々な思考を常時展開している。それは本人が意図せずに展開されていることもある。これまで流れ込んできた多くの遺志が、その個人の全てだったことなど、誰が証明できる?唯一確実に全てだと言えるのは、今尚共に居るディミトリーだけだ。

 ウテナは共に歩むことを拒んだ。それはそれで仕方の無い事だ。仮に目的の違う2者が居たとして、その過程で共通することがあり、さらに目的そのものが反しないのならば共闘することはできる。だが、ウテナとPlurielはそうでは無かっただけのことだ。おそらく、この戦いは避けることができないものとして存在する、ヒトが〝運命〟と呼ぶモノなのだろう。

 「ふっ・・・いや、全て戯言か・・・私のような存在でも、そう感じる相手が居るのだな」

「え?何か言ったか?」

「いや、キサマが気にするコトじゃない」

答えはもっと単純なモノでいい。たった1つのシンプルな答えだ。Plurielはウテナのことを〝気に入っていた〟という答え。

「そうかい?じゃあ、始めるか・・・残念だよ、僕はオマエのこと、気に入ってたんだけどな」

「ハハハ・・・まさかキサマもとはね。これでスッキリした。では・・・行くぞ?」

Plurielは自ら発した言葉がひどく人間的だなと思い、同時に驚いていた。

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