第十三部 第2話 future(未来)
「人類は例外なく全て宇宙に出るべきだとは思わないか?そうすることが唯一、ヒト自らが〝母なる惑星〟と呼ぶ地球を救う手立てであり、人類が大好きな〝平等〟であるはずだ」
つくづく正しい。まさに正論だ。Plurielのこの提案に異を唱えられる者はほとんどいないだろう。だがソレを実行に移す者がどれほど居るのかと問われれば、半数に達すればいい方ではないだろうか。
「そりゃぁムリだろうよ。全員ってワケにはイカんさ。誰もが〝そうだ〟と賛同し、誰もが〝自分たち以外〟と考えるのがオチだよ」
「だろうな。だから私は強制的に地球から人類を排除しようと言うのだ。誰かが悪魔にでもなってその役割を引き受けない限り、地球の未来が変わることは無い。その役割を担う者が、人間では無い私だというのは結果的に好都合だろう?」
なるほど、Plurielはどこかのタイミングで人類に対し、自身の正体を公にするつもりがあるらしい。
Plurielの考えは極めてシンプルだ。自身を人類に対する〝敵対者〟と位置付けし、その脅威を人類に知らしめる。それは地球上で展開されている軍部を壊滅させることで容易に達成できるだろう。もしもその戦闘が放映でもされれば猶更だ。
次の段階としてはこう言えばいい。
「死にたくなければ地球を出ろ」
そう言われれば、人類が成せる手段は2つしかない。Plurielを倒すか、地球を捨てるかだ。その決断を迫るに、Plurielの姿と反物質は、これ以上の適任は無いと言える存在だろう。
おそらく個人によってその手段は異なるだろう。闘いを挑む者も居れば、宇宙に出る者も居ることだろう。そして、闘いに勝利する者は1人も居ない結末を迎えることになる。人類が持てる全ての攻撃手段を無にし、どんな防御力であっても無効化する攻撃力を持つPlurielが相手なら、その結果は仕方の無いことだ。オマケに、パイロットに睡眠の必要は無く、エネルギーが枯渇することも無いとなれば、これこそ正に〝つけ入るスキが無い〟というコトに他ならない。
ならば何故今の〝対話〟という状況が生まれているのだろうか。Plurielの理想を実現するためにと考えればこの対話は必要ないモノのはずだが、そうではないということは、Plurielにも〝懸念〟があることを示している。人は圧倒的な結果や状況に圧されると、根本を見失いがちになる生き物なのだろう。ウテナの考える勝機はソコにあった。
「僕もオマエが排除しようとしている人間だよ?」
「知っている。だが、キサマだけは特別だ。キサマが〝YES〟と答えるのなら、全員とはいかないが地球に残ることを許してやるが?」
「いや、結構だ。と言うか、その提案は意味を成さないよ。僕の描く将来で、僕はこの地球に居残るつもりはないからね」
ウテナはコクピットの中でニヤリと口元を歪めた。両手は操作レバーに掛けたままピクリとも動いていない。おそらく、全人類の中でPlurielの弱点に気付いているのは2人だけで、その弱点は正しいらしいが、どうやら弱点と言うほどの即効性は皆無らしい。
Plurielそのものに弱点は無い。反物質はある意味で完璧な存在だ。だが、反物質は物質と対消滅するのならば、地球上に存在し続けることは不可能なのだ。事実、MhwとしてのPlurielが展開している翼も、放出口から絶えず放出を続けている。将来的には分からないとしても、現時点でPlurielが存在し続けられる場所は、ウテナが造りだしたあの〝T字型装置〟の中だけである。そしてソレは広義で言えば〝機械〟に他ならない。
Plurielが設計図どおりに誕生したのならば、その装置はPlurielの腰部にある。その箇所を直接攻撃することは反物質の翼がある以上困難だ。だが、稼働し続けている以上、装置が物質である以上〝損耗〟は起こる。その蓄積は歪みを発生させ、やがて不具合の原因となり、〝故障〟という現象が引き起こされる。この時、Pluriel以外のMhwであればあくまで部分的な故障であり、一時的な稼働に支障のない場合もある。そして修理することでそれは解消される。だが、T字型装置にソレが生じた場合、内部にある反物質を維持することが不可能となり、あくまで物質である装置は内部の反物質と対消滅する。おそらく、機体そのものも消滅することになるだろう。
Plurielにとって唯一致命的なこの損耗を回避する手立ては、Valhallaには無い。Valhallaの外に目を向けてみても、確実にコレを回避できる人物はウテナただ1人、その可能性を有している者が居るとすれば、それはミリアークぐらいなものだろう。
「キサマもそうか・・・しかし、ならば私の前に立ち塞がる理由は何だ?」
「オマエが道を誤ったからさ。ま、オマエの存在はともかく、思考が人間に近かったのなら、〝立ち塞がる〟んじゃなく〝共に歩く〟ところだったんだけどな」
いつから予感していたのだろうかと思い返せば、それはたぶん最初からだ。最初は〝可能性の1つ〟程度でしかなかった。だが時間の流れと共に他の可能性が消えていき、どこかで確信に変わった。それがどんなタイミングで起こった変化だったのかは覚えていない。根本的で決定的な違いが今ハッキリと解かる。
Plurielが考える根底にあるのは〝地球〟だ。そうなった原因は〝ソコにしか存在できない〟からだ。そしてPlurielという存在の核と成ったのは非科学的な言い方だが〝戦死者の魂〟であり、端的に言ってしまえば、〝殺された〟という負の感情がそこにある。〝恨み〟と言っても差し支えないその感情が、生きている人間、つまりは〝加害者〟との共生を是とするわけもなく、「出ていくのなら良し、そうでないのなら消す」と帰結したのは当然の結果なのかもしれない。
ウテナが考える根底にあるのは〝人類〟だ。決して人類を救おうなどと考えたわけではなかっただろうが、自分の欲望に正直となり、それを満たす可能性を探した結果、辿り着いた答えだった。言い方が悪いと周囲から言われるかもしれないが、〝外宇宙〟という欲望を満たすために、地球環境、戦争、そしてPlurielの存在は都合が良かった。Plurielが人類の敵となるのならコレを討伐し、外宇宙への扉を手に入れる。そして戦争を止めることで扉を守り、人類が生きる新たな惑星を探すために、その扉を開く。そして人類から希望を託されてウテナはその扉をくぐることができる。
「ちょーっとお兄ちゃん?取り込み中のトコ悪いんだけどさ、もうちょっと自分に素直になったらどーよ?」
「そうですよー?私たち3人とも強NEXTって忘れてませんかー?駄々洩れですよー」
「局長?自分を悪人っぽく見せようたって私たちには通じません。確かに人類全体ってほどじゃないでしょうけど、もう言っちゃえばいいんですよ」
マドカ、ウル、アンが順番にウテナとPlurielの間に割り込んで来る。そう言われて気付くことがウテナにはあった。
思考が自らを言い聞かせるように働いているらしい。
「・・・ああ、そうだね。スマンね、Pluriel・・・僕は地球だとか人類だとかを救えるほど勇者じゃぁナイんだ・・・僕は手の届く範囲・・・仲間が笑って過ごせる未来を作りたくてオマエと闘うんだ」




