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NEXT  作者: system
第十二部 confrontation(対決)
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第十二部 終話 untouchable(アンタッチャブル)

 「3人とも?まずは僕が行く。できるかは分からないけど、話してみるよ」

目の前には反物質の羽根で明らかに〝ドラゴン〟に見えるPluriel(プルリエル)が、4人の到来を待ち構えているように見える。実際、Plurielの反物質による攻撃ならばすでに三姫たちはその射程内だろうが、撃ってこないところをみると、〝待ち構えている〟というのは正しいのかもしれない。

 「大丈夫なの?見た目で言ったら瞬殺されちゃわない?」

実の兄に対する言葉としてはいささか辛辣過ぎる気もするが、その戦場にあるMhw(ミュー)の姿だけを見れば確かにそう見える。RPGで言うならば、ラスボスのドラゴンと3人の姫とパーティを組んだ勇者なのだが、その勇者は脚の代わりにキャタピラで移動するタンクだ。とてもではないが、勇者と呼べるような風貌ではない。

 「アンちゃん辛辣~。ってか、なんでタンクなん?」

「あ~・・・戦火の絆でさ、お兄ちゃんタンカーなんよ・・・まぁ、実機までそうするとは予想のナナメ上だったけどさ・・・」

「でもでも、あのタンクってカワイイですよね・・・カッコよくはまるで無いケド・・・」

 これから相手をしようとするのはあのPlurielだ。姿形も一般的なMhwと比べて明らかに禍々しいが、何より無尽蔵に生成される反物質が形を成す漆黒の翼は、その禍々しさをより際立たせている。そんな恐怖の対象足り得る相手を前にしてこの会話だ。ウテナからすれば「コレが世代の差というものか」と思わずに居られない。だからと言って彼女たちを心配する必要も無いコトはよく分かっている。彼女たちの乗る三姫は、現状、あれ以上のMhwは生み出せないと確信しているMhwだ。彼女たちならば、その性能を最大限に引き出せるし、誰よりも有効に活用することができる。

 「正直言って、Plurielに戦って勝つ方法は無いよ。僕たちは闘う以外で勝つ方法を見付けなきゃなんないんだ」

「ダヨネー。あのプルプル相手じゃ、私たちの力通用しないもんね」

マドカの言うとおりだ。彼女たちに限らず、NEXT(ネクスト)が戦場で恩恵を受けることの1つに〝意思疎通〟がある。コレによって相手の狙いや移動方向が解かったりするのだが、それは相手の意識が流れ込んで来るから出来ることであって、その意識がいくつあるのか定かでないPlurielが相手の場合、余計な混乱に苛まれることになるのだろう。ただ、そんなPlurielに対して〝プルプル〟とかワケの分からない呼称で共通認識されているあたり、さすがは三姫と言うべきだろうか。

 「けどさー?アレって話して通じる相手なん?通じんかったらヤバない?」

これまたウルの言うとおりだ。もしも今のPlurielが話の通じない相手だったとしたら、それは太古に生息していた肉食大型恐竜の目の前に、「やぁやぁ、どーも」と自ら進んで歩み寄っているようなものだ。食事が自らの意志で進み出てきたとなればそれはもう、「いただきます」となるしかない。

 「ま、話にならなかったら、反物質で瞬間消滅だろうな・・・けど、そのつもりならもうやってるだろ?」

ソレはもしかすると、自分だけが感じているコトなのかもしれないとウテナは思う。Plurielは自分と対話するために、カーズとテイクンをあのように配置したのではないか?Plurielとウテナの対峙する場面で、他者の存在を拒むための配置だったように思える。奇妙なことに、その思惑はウテナのソレと同じだった。展開前に軍施設もろともこちらを狙った攻撃は、しかし躱されるだろうことを前提としていたようにすら思える。

 今少しずつその姿が大きくなっていくPlurielから見て、やはりその姿を少しずつ大きくしながら近付くウテナは、〝待っている〟のならば思惑どおりなのだろうが、お目当ての相手に付き従うように存在する三姫についてはどう捉えているのだろうか。この三姫が特殊な機体だということは、見た目だけでも判断できるはずだ。

 いくら三姫と言えど、Plurielとやり合えばまともな戦闘にすらならないだろう。反物質の攻撃を防ぐ手立ては無く、反物質による防御を突破する手立てもまた無い。反物質はそれほどに唯一無二の絶対的な存在だ。出来ることなら、彼女たちをPlurielとは闘わせたくない。ウテナは出撃前にブリーフィングルームで彼女たち3人と交わした会話を思い出していた。


 「3人とも?僕たちはPlurielに向かうけど、手出しはするなよ?」

ウテナの発した言葉に、3人ともが理解に及ばない表情をしている。

「お兄ちゃんが1人で闘うってワケ・・・でもなさそうね・・・いや、イイけど、どーすんの?」

「うーん、マドカちゃんの言うコトもあるんだけど、それ以前にあのPluriel・・・って言うか反物質?勝てる見込みってあるんです?」

A2のメンツには、改めて反物質の概要を話してある。詳しいことを説明しなかったとしても、その脅威は〝対消滅〟を語るだけで十分だ。

 「僕の設計した機体だからね。反物質を展開した状態だったら勝ち目はナイよ」

「ふーん・・・局長は戦闘して勝つんじゃなくて、対話で抑えるコトを考えてるのね?」

アンの予測がNEXT-Leve(ネクストレベル)によるモノなのか、それともウテナを理解しようとする彼女の努力によるモノなのかは分からないが、ウテナの意図しているコトはだいたい正しい。

「そうだね・・・問題はソレが出来る状況か?ってコトだけど、ソコは出たとこ勝負だね。で、難しい状況だったら少なくともみんなの合流を待つから、いいね?」

「りょーかい・・・ねぇ、お兄ちゃん?私たち3人がガチでバトっても勝ち目ってホントにないの?」

マドカは言葉の合間でアンとウルの顔をすっと見た。それぞれの表情に真剣な眼差しが色濃く映っている。問われたウテナから見える景色としては、3人ともが決意を裏に潜めた眼差しを向けてくることなど過去に記憶が無い。ならばその決意を受け止めるのが、彼女たちをココへ連れて来た1人の人間としての役目だろう。

 「未知数ってトコだね。三姫の装甲はBrain(ブレイン)-Device(デバイス)が加工されたモノだ。でBDはNEXTと相性がいい。けれど、どういった反応を示すか、その全てはとてもじゃないけど把握しきれないんだ・・・自分で言うのもナンだけど、この僕でも、だ。分からないコトがある以上、未知数としか答えきれない、ね」

3人の真っ直ぐな視線を正面から受けていると、ふいに3人が美人であることに気付いた。この3人が街を歩いていたとするのなら、場所によっては10m毎にナンパされても可笑しくはないななどと、この戦闘開始直前に考えている自分が可笑しく思えてくる。

 やはり今の世の中は歪んでいる。この3人はA2に所属し、戦争に直接関わる立ち位置に居ると言っていい。だが、そうではない女性たち(女性に限った話でもないが)はどうか?一昔前ならば、戦争は限られた場所で起こっていた。不幸にもその場所を生きる場としていた者は否応なく巻き込まれたが、多くは関わることなく日常を過ごしてきた。ナンパされることを喜ぶことも、面倒だと感じることもできた。そういった視点から世界に目を向けると、Mhwの出現によって戦場が広がったことで、誰もが無関心では居られなくなった。

 誰もが〝死〟に怯え、やがて〝麻痺〟し、それが〝日常〟へとすり替わっていく。そうなってしまえば人は、〝歪み〟に気付くことができなくなる。それは人生において不幸なことだ。

  今ウテナの目の前に居る3人は、人生のほとんどを戦争という時代で過ごしている。ウルに至っては、生まれたときすでに世界は戦争の中にあった。そうではない時代を彼女たちに生きてほしいと願うのは、ウテナにとって自然なことだった。

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