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第十二部 confrontation(対決)
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第十二部 第10話 最後の言葉

 「クッソ!このヤロぅ!」

ザイクン・ネップードは狂犬でカーズ・ヤクトと並んで双璧と言われたパイロットだ。前腕ごと斬り落とされたシールドを咄嗟に蹴りつけ、シズカゴゼンに向かって加速させた。

「ぶっ!!」

ザイクンに向かって追撃しようとしていたシズカゴゼンは、その蹴りつけられたシールドとまともにぶつかり合うこととなった。その衝撃はコクピット内にも伝わり、追撃の高揚から自然と体が前のめりになっていたリッカを激しく揺さぶった。

 実際のところ、ザイクンのパイロットとしての技量は驚くほど高い。格闘戦となれば、それに特化したような性質を持つカーズに及ばないが、根本的な〝Mhw(ミュー)操縦〟という意味ならば、その技量はカーズ・ヤクトを上回る。シールドとシズカゴゼンの衝突で得たわずかな時間は、ザイクンにとって状況打破に十分な時間を作った。

 「左腕の代償は高いぜぇっ!!」

残された右腕に握られているFreikugelの銃口が、シズカゴゼンの方へとその向きを変えていく。


 ソレはどこから始まったのだろうか。シズカゴゼンが鎖を使い、サーベルを振り上げたあたりだろうか?2機のRay-Nard(レイナード)を斬り裂いた直後のルアンクの目には、そこからの2機の様子がスローモーションで動いているように見えた。その2機以外全ての動きが変わらない中でのその感覚は、ルアンクにある種の〝酔い〟のような感覚を覚えさせた。

 ルアンクはザイクンの実力をよく知っている。だからこそ、斬り落とされた腕ごと蹴り付けた瞬間、意識せずともThe(ジ・)kuynbout(クインバウト)を2機に向かって突撃させた。可能な限りの最大推力でだ。不思議なことに、その2機に近付くにつれて自らの速度が遅くなっていくような感覚があった。

 何故そうしたのかが一瞬分からなかった。〝銃口がリッカを捉える〟ことを悟ったのは、Thekuynboutを2機に向けた後だ。理論的に考えれば順序が逆なのだろうが、そのことが〝間に合うか間に合わないか〟を明確に隔てるだろうことを、ルアンクは経験として知っていた。

「間にあぇぇえええっ!!!」

自分で意識するヒマもなく、ルアンクはその言葉を叫んでいた。

 ソレはどこから始まったのだろうか。リッカの曲芸サーベルがアイツの腕を斬り飛ばしたあたりか?Ray-Nard2機を墜としたアイの目には、そこからの2機の様子がスローモーションのように見えた。

 アイはリッカの実力がよく解かっている。かつて黒王ごとジライヤを撃ち抜いた銃口が動き始めるのを目にしたときにはすでに、撃墜したRay-Nardが手にしていたライフルを拾い上げようとしていた。その視界にライフルに伸びる手が映ったとき、なぜ拾ったのかが一瞬解からなかった。〝リッカを失う〟ことを悟ったのは、ライフルを拾い上げて狙いを定めた後だ。これが〝間に合うか間に合わないか〟を明確に隔てるだろうことを、アイは直感的に知った。

「あぁたれぇぇええええっ!!!」

アイは自分がそう叫んでいることに驚いた。

 ソレはどこから始まったのだろうか。もしかしたら最初からところどころでそうだったのかもしれない。ザイクンと対峙していたポーネルの目には、Freikugelがこれからどう動き、どう魔弾が発射されるのかが見えた。

 ポーネルは自身のNEXT-Leve(ネクストレベル)を理解している。コレは〝未来視〟などという超常ではない。1秒よりも短い時間毎に、そこから起こり得る現象を予測し、性格や技量など様々な要因を基に予測を取捨している。ポーネルは自分の〝成すべきこと〟を悟っていた。自らの意志で残りのSWを全て射出し、コノハナサクヤとThekuynboutに向かわせる。数が足りないコトも理解している。

「孔雀王が引き受けると言った!!!」

孔雀王は出せる最速で、その身をシズカゴゼンの前に差し出した。

 ソレはいつものことだ。なにもMhwに限ったコトじゃない。ザイクンにはその状況に応じて〝何が出来るのか〟が解かり、〝どうすれば勝てるのか〟が見えていた。このコトに疑問を持ったことは無い。ソレが見えないときは負けるときだ。オンラインゲーム大会でB/Bに負けるときがそうだった。だが今は違う。ソレが見えている。

 Ray-Nard(レイナード)が全て撃破されたことは知っていた。それぞれが相手していた2機が自由を得る前に墜としておく必要がある。左腕を斬り落としてくれたシズカゴゼンとの間には、数発の魔弾を放つだけの〝間〟以上の時間を得た。

 B/Bだと名乗るヤツの放つSWが残り少なくなっている。この状況ならば、最低でも1機、うまくすれば4機全てを葬れる。ゲームやアニメで見たことがあるヤツだ。今から放つこれをあえて名付けよう。

「マルチショットぉぉおおおっ!!!」

 まるで自身の右腕を体に巻き付けるようにすると同時に、機体そのものも左方向に回転させながら、魔弾のトリガーを引き続ける。自身を中心とした360度全ての方向に魔弾が放たれていく。コクピット内ではその全ての魔弾を操るべく、ザイクンの指全てがこれまでに見たことも無い速さで動いている。

 全ての事象には〝順番〟がある。そして〝同時〟もまたそういう〝順番〟だ。その光景全てを目にすることができた者が居たとするなら、それらは全て同時に起こったように見えただろう。

 すさまじいスピードで飛ぶThekuynboutの周辺でSWと魔弾が弾け合い、コノハナサクヤの指がライフルのトリガーを引く瞬間、その周囲で同じようにSWと魔弾が弾け飛ぶ。ライフルから放たれた1発の弾丸は、それら爆散の隙間を縫うように、それでも一直線に軌道を描く。

 Thekuynboutがザイクンに辿り着くよりも早く、コノハナサクヤの持つライフルから放たれた弾丸が速度を0にするよりも早く、そして魔弾がシズカゴゼンを貫くよりも早く、孔雀王はその体でシズカゴゼンの視界全てを奪った。

 孔雀王の身体を貫こうと体内に侵入した魔弾は、それが孔雀王の性能によるものなのか、ポーネルの能力によるものなのかを知るよりも早く、その動きを停止させた。孔雀王の身体には合計で7か所、魔弾が侵入した痕が残っていた。

 孔雀王に穴が開いたよりも早かったかもしれないし、そうではなかったかもしれないが、コノハナサクヤの放った弾丸が、一周回って元の位置に戻って来たかのようなFreikugelを撃ち抜いた。そして、それと同時だったのかもしれないし、そうではなかったかもしれないが、Thekuynboutの翼がFreikugelを持つ右腕を斬り飛ばしていた。

 唯一、確実に全ての後だったのは、シズカゴゼンの最後の一撃だった。

「ポー・・・ネル・・・さん?・・・うわぁぁああああああっ!!!」

孔雀王の機体に開いた穴を間近で見たリッカは、最初ソレが何なのか分らなかった。きっと分かりたくはなかったソレの正体が、否が応でも事実としてリッカに迫ったとき、リッカのシズカゴゼンはその両手にサーベルを握り直し、両腕を失ったザイクンの機体に斬りかかり、1つであったソレを3つに分けた。

 狙ってそうしたのかどうかはリッカにも解からなかったが、サーベルが描いた〝線〟はコクピットそのものを両断していない。切り裂かれた瞬間、まだザイクンの命は在った。しかしそれが幾ばくも持たないことは、その機体が物語っていた。

 「んだよぉ・・・やり直しかよぉ・・・って言うかさ・・・リセットボタン、どこだよ?」

その言葉はザイクンの最後の言葉となった。幸いなのか不幸なのか、その言葉を耳にした者は誰も居ない。彼の言う〝リセット〟が、彼にとってどれほどホンキだったのかを知ることは誰にもできないし、知る必要も無い。誰にも届かなかった最後の言葉というものが持つ意味だ。そしてそれは同時に、悲しい言葉でもあった。

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