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NEXT  作者: system
第十二部 confrontation(対決)
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第十二部 第8話 変種

 「ウザいよ、じじい・・・いいさ、ココじゃゲームのようには行かないって教えてやるよっ!」

すでにザイクンの持ち味であった〝冷静〟は失われていることを自ら証明する言動だった。戦場をゲームのように捉えるコトで〝冷静〟を得ていた者が言うセリフではない。

 周囲ではまだOrion(オリオン)の3機とRay-Nard(レイナード)5機の戦闘が続いているが、どうやらそちらのコトはすでに部外者だとでも考えているらしい。乱発させた数発の魔弾は、その全てが孔雀王だけをターゲットとしていた。

 いずれの魔弾も孔雀王に辿り着くことは無い。その全てが、途中で軌道をどのように変えようと関係なく空中で爆ぜる。ザイクンは頭で思考し、指先で専用パッドを操作し、瞬間的速さで魔弾の軌道修正を行っている。しかし、ポーネルのNEXT-Level(ネクストレベル)はその速度を上回っていた。ザイクンの思考に従って魔弾を迎撃していく。

「私に魔弾は通用しませんよ?ソコで躍起になるから勝てないのです」

「その上から目線、気に入らないねっ!」

ザイクン・ネップードはNEXTではない。素質はありつつも、NEXT-Levelの開花には至っていない。しかし彼にはもう1つ、特異な体質があった。

「あんまり僕を舐めてもらっちゃ困るよ?このFreikugel(フライクーゲル)は僕の専用機なんだぜ?」

そう言って放たれた魔弾は、だが真っ直ぐに孔雀王に向かっていく。やはり孔雀王からも迎撃用のSW(ソゥ)が射出され、これまでと同様、ポーネルの言うように魔弾が通じないことを証明しようしたその瞬間、魔弾の軌道が変わった。

 軌道が変化することはポーネルにも解かった。だが直前すぎた。SWの防壁をすり抜けた魔弾は、孔雀王の右肩を捉えた。大型の肩を貫通した魔弾は、その勢いを失い地に落ちた。

「ほぅ・・・コレはなかなか。ふむ、誘爆はなさそうですね・・・さて、どうしたものか」

 Freikugelの魔弾はそもそも飛翔中の弾丸を操作している。コレ自体、そのパイロットがとてつもないコトをしているワケだが、その方法は、両手の操縦桿を覆うようにして配置されているパネルを操作することで行われている。角が弧を描いているコの字型をしたパネルは、操縦桿の全てを覆うように配置されており、操縦桿に存在するトリガー系ボタンは当然、コの字の内側に配置されているパネル操作面もパイロットから見ることはできない。

 身近なことで置き換えてみよう。誰もが一度ぐらいはやったことのあるゲームの場合、プレイヤーは画面を見ながらコントローラーを操作する。ボタンの配置を覚えているからだ。もう少しレベルを上げた例えをするならば、パソコンのブラインドタッチを想像してほしい。あれだけのキー数がありながら、手元を見ず、画面だけを見てスラスラと入力できる者を目にしたことがあるのではないだろうか。ザイクンはコレをさらに高レベルでやってのけているのだが、本人の技量の他にもう1つ、それを成す秘密がある。

 ザイクンの両手は所謂〝奇形〟だった。それは先天的なモノだ。彼の両指は全て、人間の関節とは異なる動きをする。彼は手の甲を内側にして握ることができる。通常の方向はもちろん、逆方向にも同じように曲がる関節を持ち、さらに驚くことに、通常の関節可動範囲には遠いが、左右にも各関節が動く。

 その手は異形でしかなかった。実際問題として〝便利〟であり、そのことで〝不都合〟は無かった。しかしそれは〝主観〟であり〝客観〟すれば子供心を傷つけるに充分な表現が用いられる日常が彼にはあった。ザイクンの手を形容した言葉の多くが彼を襲い、その精神を歪めるに十分な力を宿していた。

 彼が1人の人間として成長するのに訪れた〝転機〟がある。彼の場合それが早く訪れたのは幸いだった。彼は〝ゲーム〟と出会った。その種類にはよるが、彼の指は操作が複雑になればなるほどその真価を発揮し、やがてそれは自信となり、いつしか絶対のモノとなった。

 荒み始めた少年の心を真っ直ぐに戻したところまではいい。だが、それまで虐げられていたという事実の反動が、彼には悪い方に働いてしまった。そのことに気付いたとき誰もが、〝虐げられる側〟のことを考えられる人であってほしかったと願ったが、それはすでに機を逸していた。〝反動〟はただ素直に、彼を虐げる側に連れ去った。それが今のザイクン・ネップードという男を作り、Freikugelと出会った。

 Freikugelの設計者はウテナだ。それはpluriel(プルリエル)にもLaevateinn(レーヴァティン)にも同じことが言える。だが、Freikugelだけはザイクンの意向とルシオンによって独自に開発された箇所がある。それが魔弾操作のためのコンソールだった。ザイクンの指の稼働に合わせて的確に配置された操作パネルは、ゲームの世界で〝チート〟と呼ばれる存在かのように思えた。

 本来〝チート〟とは〝不正行為〟を指す。製作者の意図しない方法によって有利を得ることを言い、手にしたものは優越に溺れるが、他からは忌み嫌われる。それはつまり、ゲームという世界における〝公平性〟を崩すことに他ならない。

 戦争に公平性は必要だろうか?答えは「No」だ。例えば直接的に戦争に関与しない者からすれば、どちらかが一方的であることで終結が早まるのだから、むしろ歓迎されることなのかもしれない。

 〝狂犬〟時代、ザイクンはカーズと共にあることで、戦争における〝チート〟を求めた。もともとの素養もあったのだろう、Freikugelでなくとも彼は強さを手に入れた。やがて〝勝てる自分〟に酔ったザイクンは他者を弱者とし、それは彼の中でゲームの〝ザコキャラ〟と同じになった。

 ザイクンが他者の命を奪うという行為に何の感情も抱かないようになったのはいつの頃だろう。あるいは最初からだったのかもしれない。戦争がMhw(ミュー)主体へと移り変わって以降、ザイクンのように人の死に無頓着な者は増えた。それは戦争という場所で人の死が身近なものでは無くなったからだ。戦争では人が死ぬ。それも数多く。誰しもの身近なところに死があるにも関わらず、ソレが身近なモノと感じられない原因はMhwにある。一昔前なら、Mhwなどという存在はアニメや映画、あるいはゲームの中の存在だった。それが現実世界で当たり前のように現れ〝破壊〟という現象の中に〝死〟が隠れた。ただでさえ戦争における人の死は感覚が麻痺する傾向にある中で、それは兵士から死を遠避けるに十分だった。

 もちろんザイクンもこれに該当する兵士の1人だ。さらに、彼が配属された〝狂犬〟という部隊は強い部隊だったことが拍車をかけた。部隊内での戦死者が出ない、あるいは出たとしてもそれを惜しむ風潮が皆無であった。やがて彼にとって勝利することは〝前提〟として存在するようになり、それが前提として存在することが彼にとって重要となった。

「ホラ見ろ!僕の魔弾は外れない。アンタがB/Bだからって、ソレがどーした!ココで死ぬのは魔弾に貫かれるアンタだっ!!」

「貴方は強い。ソレは間違いない。ですが、敵にも強者が居ることを認められない貴方の心は弱い。貴方は自分が弱いことを知る必要があるのですよ!」

Freikugelは孔雀王に向けたライフルのトリガーを引き、孔雀王は呼応するようにSWを射出する。飛来する3発の魔弾のうち2発はSWが墜としたが、やはり1発だけがSWをかいくぐる。しかし今回は孔雀王も、あるいはポーネルも黙っていなかった。手にしていたビームサーベルで魔弾を斬り払ってみせる。弾丸とは言えビームサーベルの熱量があれば、瞬時に溶解させることは(当たりさえすれば)容易い。

 「じじいのスピードじゃぁ追いつけないだろ?さぁ、何発までなら受けられる?」

Freikugelのコクピット内で、ザイクンの指が奇怪な動きを繰り返していた。

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