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第十二部 confrontation(対決)
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第十二部 第5話 魔王と勇者一行

 「くっそ!フザけ」

カーズ・ヤクトという男が狂気に駆られた男だということを改めて思い知る。Astaroth(アスタロト)の刃が貫いた箇所は、確かにコクピットではない。しかし、その損傷が時間を置かずに機体の誘爆を招くだろうことは、彼ら3人であれば容易に想像できるはずだ。それでも、カーズはコクピットから身を乗り出し、〝脱出〟を図る素振りもなく、Re:D(レッド)を見上げて罵ろうとしていた。少なくとも、フロイトとアキラにはそう見えた。

 外からは見えない内部で、どこかが散らした火花は、付近に流れ出していたオイルを炎に変えた。それは瞬く間に広がり、連鎖的な爆発を引き起こすと、カーズに言葉の全てを吐き出させることなく、そこで聞こえていた全ての音を〝爆発音〟に変えた。それはまだ〝ゾーン〟に入ったままの彼らにとって、恐ろしく長い映像に思えた。やがて、カーズの姿は赤い炎と黒い煙に消えた。

 「お疲れ。オレのこたぁいいから、フロイトは他に回ってやってくれ」

「すまない。いや、ありがとう・・・か?ベル?アキラの回収を頼む。他の状況は?」

膝を着いていたRe:Dを立ち上がらせ、コンソールで機体各所の損耗状況をチェックする。

「すぐに向かわせるわ。アキラさん、少しだけガマンしてね。他の様子は・・・」

今回のA2は、大きく4つの部隊に分かれている。Jabberwock(ジャバウォック)Orion(オリオン)、そして三姫にローズ、ナナクルたちだが、ベルルーイにも他の状況を把握するだけの余裕は無かったらしい。丁度背中合わせでOrionの指揮を執るオピューリアが何か話しているが、内容までは聞き取れなかった。

 カーズ・ヤクトとザイクン・ネップードは両翼で連動した動きをしていたらしい。ザイクンもまた、10数機のMhwを引き連れてカーズとは逆側に展開していた。正面にはOrionの3機が見えている。

ザイクンの乗るFreikugel(フライクーゲル)のコクピット内にアラートが響き渡る。

「うわぁお!タゲられた?」

アラートと共に方向を示す三角が正面モニターに表示されている。ザイクンがそちらの方へ視線を向けると、いくつかの弾頭が飛翔しているの解かるが、それほど脅威は感じられない。一瞬、狙撃で迎撃しようかと考えがよぎったが、どうやらFreikugelが狙われているのはその弾頭群ではない別の何かだと気付き、他の僚機に任せることにした。

 「・・・狙撃・・・かな?」

ザイクンの警戒はアタリだった。突如発生した一条の光が、まるで長大なビームサーベルだと言わんばかりに伸びる。アラートの正体はコレかと思ったが、予想に反してその光の筋は後方に向かって射線を変えていく。

 「あらら、これは完全に僕をあの4機とぶち当てるつもりなのね。1人に4人がかりとか・・・これじゃRPGのラスボスじゃね?」

Laevateinn(レーヴァティン)と同じように部隊から1機だけ切り離されたザイクンだったが、それが彼にとって弱気を生むようなものではない。ただし、だからと言ってカーズのように高揚することもない。彼は全てをゲームのように捉え、どう攻略するかを楽しむ。それが彼の最大の強みであり、つまりは〝冷静〟を保つ結果となっていた。

 「ま、弾幕系だと思えばどってことないか。こういうときに数は減らさないと・・・ねっ」

異動しながらライフルを構えたFreikugelがその名が示す〝魔弾〟を放つ。照準を合わせずに放てる魔弾は、相手にアラート発砲を許さない。これは1つの有利でもある。

「よりどりみどり・・・ってね」

 決して目で追えるような弾速ではないが、明後日の方向へ撃ち出される弾丸が、それでも弧を描くようにOrionに向かって行く。ザイクンが最初にターゲットとしたのは、どうやらThe()kuynbout(クインバウト)のようだ。

 「動かないのかよ?バッカじゃねぇの?・・・えっ?!」

さらに急速に曲がりながら、3発の銃弾がThekuynboutに狙いを定めた直後、Thekuynboutの周囲で小規模の爆発が3つ起こった。その爆発を引き起こしたのは、言うまでも無くFreikugelの放った弾丸だ。弾丸は砲弾と違い、狙って狙撃できる類のモノではない。だからと言って、Mhwであるジライヤを、装備する〝黒王〟ごと貫いて余りある貫通力をもった魔弾なのだから、何かを障害物のように使用して防ぐことも不可能なはずだ。

 3発の魔弾消失を知ったザイクンは、カーズと異なりその場で停止した。普通のMhwらしく、シールドを正面に構え、Orionにライフルの銃口を向ける。

「な~にしやがった?気に入らないねぇ・・・。まったく・・・まずは〝暴く〟とっからかよ」

Orionに動く気配は無い。正に「撃ってこい」と言わんばかりだ。魔弾に対処する術があると考えていいし、実際、3発の魔弾は撃ち落されている。

「態度が気に入らないなぁ・・・後でほえ面かくなよ?」

Freikugelは再び3発の魔弾を撃ち込んだ。ただし、そのうちの1発だけは通常弾だ。

 3発のうち魔弾である2発だけが急速に弧を描き始める。そしてその直後、2発分だけの小爆発が起こった。残った通常弾はそのまま何もない空間に消えていく。

「へぇ・・・爆発の直前にスパークっぽいの、あったね。なるほどナルホド」

 ザイクン・ネップードという青年が強者である理由はここにある。彼の目的はただ一つ。〝勝つ〟ことだけだ。もちろん、そこに至るまでの過程も楽しんではいるようだが、そこはカーズと異なり、楽しむことよりも勝利が優先される。

 勝敗が存在する物事に対して〝勝利を優先する〟というのは極当たり前のように感じるだろう。だがこれは、言い方を変えると〝容認できない〟ことへと様変わりする。つまり、一般的に〝卑怯〟と言われる方法を用いることだ。「何をしてでも勝つ」と言ってもいい。

 「魔弾がドレか分かるのか・・・あの4人の中にNEXTが居るね・・・SW(ソゥ)の使い手・・・なかなか強敵だね。攻略しがいがあるなぁ」

まるで電気のようなスパークの直後に、魔弾は消失した。弾け飛んだと表現する方が正しいだろう。魔弾には、その軌道を変えるための極小スラスターが存在する。その噴射口からスパークが入り込み、内部から破裂させているのだろうと予測できる。しかし原理が理解できたとして、そんなコトが果たして可能なのだろうか?旧世紀ですでに弾道ミサイルの自動迎撃システムは存在していた。ADaMaS(アダマス)ならそれを昇華させたモノを開発したとしても驚かないが、さすがにライフルの弾丸相手は現実味が薄い。目の前で起こった事実と可能性をすり合わせれば、辿り着く答えが〝NEXT〟だということは自然なことだ。

 4機の内、Thekuynboutは知っている。青いLENFLO(レンフロ)型の2機は以前撃ち抜いたヤツの仲間だったはずだ。もう1機の方はRay-Nard(レイナード)型だが、あの頭飾りは見たことが無い。普通に考えればRay-Nard型のヤツがNEXTだ。

 「アイツの頭・・・クジャクみたいなヤツだなぁ。このままじゃ、ムリゲーかよぅ。こっちも揃えるかねぇ」

Freikugelはクルリと振り返り、分断された味方部隊の方へライフルを構えた。撃ち出された弾丸は、しかし今度は直線の軌道を描き、彼らに向かって飛来する弾頭群のいくつかを撃ち落していく。

「この程度の芸当なら、魔弾を使うまでもないね」

砲弾の雨がまるで傘を差したかのように部分的に止んだ。その一時を逃すことなく、5機ほどがFreikugelの方へと抜けてくる。戦況を正確に把握した的確な判断だった。

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