第二部 第4話 problem children
「オマエらぁっ!!ちょっと全員コッチ来いっ!!そして、正座ぁぁあああ!!!!」
不安はあるって言ったわよ?でもさ、不安がどーのこーの以前の話じゃないの、これ。え?なんであたしがそんなにキレてるのかって?そりゃあキレるわよ。
今日は午後からpentagramとして初めての実戦だったわけよ。各自機体の操作習熟や、部隊編成、連携、戦術訓練はしっかりと終えた後よ、もちろん。
作戦内容も、それほど大掛かりなものじゃないわ。だって、初陣だもの。中規模戦闘が行われてるから、その補佐的任務よ。まさに遊撃隊って感じかしら。特異な動きをする部隊があれば、それを補足し、叩く。ただそれだけの事なのよ。仮に実戦闘となっても、pentagramの機体構成から考えれば、ほとんど無傷で完勝できるはずなのよ。
出撃前に不安があったのはウルのことだけだったわ。だってあの子、ちょっと前まで学生さんだもん。それが半年も経たずに実戦、つまり命のやり取りをするんだから、気持ちの持ちようや、心に受けるダメージによっては、二度と戦場に出れなくなってしまう。戦えなくなることは悪いことじゃないわ。戦争なんて、加わらないに越したことはないもの。でもね?戦闘行動に参加したことで、日常生活や将来に対してまで、深いダメージを負ってしまうケースはたくさんある。ソレをケアする専門医が居るぐらいですから。
私はウルにそうなってほしくはなかった。だってあの子、カワイイもの。戦争になんて加わらなくても、素敵な人と出会って、幸せな人生を送れると思うわ。でもあの子は軍人を選んだ。その決断の経緯や理由なんて私は知らない。でも、あの子の決断を、悔いのないものにしてあげる手伝いなら、私にもできる。な~んてしおらしい事考えてたのよ?
「いいこと、ウル?あなたのカンゼオン、最大の武器は何?」
「索敵範囲です。次いで、ジャミング能力・・・でしたよね?」
「そうね、いい子だわ。カンゼオンは誰よりも先に敵機を補足できる。相手が戦艦だろうと、戦艦の索敵にこっちがひっかる前に向こうを捉えられる」
「はい。ジャミングはそれからでも十分間に合う。でしたよね」
カンゼオンに搭載されているレーダーは驚くほど広域だし、それ以上にジャミングシステムは最強と言っていいほどの能力がある。相手を補足してから、ジャミングを最大出力で仕掛ければ、それでもう勝確定。ほとんどの機能を奪ってしまうんだから、相手は腕一本上げることすらできずに、こちらの前衛に落される。欠点はジャミングの範囲が自機を起点に扇状であることと、出力度合によっては、カンゼオンが一時行動不能になることね。
「いいわ。出撃するわよ。ウル、レーダーに細心の注意を払いなさい。全機!タワーからオーダーよ。戦闘行動に介入し、別動隊の有無を確認。補足次第、これを殲滅します」
タワーっていうのはコールマン准将のことね。私たちpentagramは准将の指揮下だから、准将の指令を受けて行動する。そして、オーダーに対応した作戦立案、各機への指示が私の仕事ね。
「全機、コールマンだ。あまり気負い過ぎるな。アイ君の指示をよく聞きなさい」
「全機、順次発進。出撃後直ちにフォーメーション形成し、北上する」
このときは全員から「了解」の返答があったわ。でもね・・・この時が最後だったわ。
しばらくすると、ウルから報告が入ったの。こういう規模の戦闘があった場合、別動隊がいることが多いのよね。でもこの別動隊、経験上、ちょっと様子が違う気がしたのよ。
「アイさん!5機のMhwを北北西に確認しました。あ!待ってください。その後ろに大型の機影・・・陸戦艦ですかね?1です!」
「全機停止!陸戦艦?遊撃隊じゃないわね・・・ナニかしら・・・ウル、ジャミングの準備して。他は現状維持で待機」
私の指示は間違ってないと思うの。って言うか、事前のシミュレーションどおりよ?でもさ・・・誰からも返事、無かったのよね~。んで、代わりに聞こえてきたのよ・・・。
「キタキタキタァァアア!ちょっと行って殲滅してくるぁ!」
ちょっと反応できなかったわよ・・・実際にメインカメラが映し出す映像にね、スラスター全開でルンタッタしながら走ってくアホが映ってるのよ。実際に私の目がソレを見てるんだけどさ・・・私の脳みそちゃん、理解できなかったみたい。なにが起こってるの?って感じかしら。
「ちょっ!コラ!待ってください隊長!待って、戻って・・・おーい」
私のMhw操縦技術って凄いわね。ちょっと想像してみてよ。こういうとき、人だったら右手か左手かどっちか片方を前方に伸ばさない?まるで届くわけないのに相手を掴もうとするみたいにね。自分でもビックリしたけど、私のコノハナサクヤ、ちゃんと右腕伸ばしてたわ・・・。いや、操縦したの私だけどさ。
「えー?ちょっとズるくないですかぁ?私も混ぜてくださぁ~い」
「コラ!リッカまで何言ってんのよ!?」
「フッフッフ・・・オレの黒王が血を吸いたくてウズウズしてるぜぇ・・・」
「タクヒ!!マテ!!そこでお座りっ!!」
「けど、オレの黒王はも~っとスゴいんだぞ~?」
んなことを突然口調変えて陽気に言われてもさ・・・確認してないけど、たぶんその時のコノハナサクヤ、両肘に手を置いて見るからにガックリしてたと思うわよ?
リッカもタクヒもさっさとアホ隊長の後追っかけてったわよ。
「アイさ~ん。このボタンって何ですかね~?」
えっと、この期に及んで、この子は何を言ってるのかしら?ボタン?私にアナタの目線で見てるものが見えるわけないじゃない。
「押してみよ~っと♪」
ん?今語尾に音符が見えたような気がするわね・・・って、何を押すって?
「ウル!アンタ分かっててやってるでしょ!カンゼオンが右手の対艦砲構えてるぢゃないのっ!」
「ポチっとな~」
ええ、ええ、うちの子は皆様の期待は裏切りません。猫かぶりってきっとウルのことを言うのよね。え?それで私はどうしたのかって?そんなの決まってるじゃない。叫んだわよ。
「いやぁぁぁああああああっ!」
そして同時に、心で泣いたわよ。あと、やっぱり准将を恨んだわね。
結局、アホ(隊長)、バカ(リッカ)、トンマ(タクヒ)の3人で、陸戦艦から追加で出てきたMhw合わせて13機撃破。もちろん敵艦はウルのポチっとなで轟沈よ。そりゃあね?結果だけ見れば完勝だわよ。帰還中のみんなも盛り上がってたわよ・・・私以外。いや、まぁ、結果が結果だから、言うことは言うけれど、穏便に済ませようかな~とは思ってたのよ?けど、ゴメン、顔見たらムリだったよ・・・だって、後ろめたいからでしょうけど、私と目、合わせないんだモン。で、今に至るってワケね。
ではまず、アホ隊長から。
「オイ・・・次やったらイザナギのエモノ、へし折るからな」
「ひぇ・・・」
はい、次はリッカね。
「アンタ、結構いい体してるわよね・・・次は皆の前でアンタ剥くから」
「うぅ・・・ゴメンナサイ」
さて、タクヒの番ね。
「次、〝オレの〟黒王って言ってごらん・・・ソレ、潰す」
「ひぃぃいい」
後はウルね。
「ウル・・・3日前から胸、大きくなったわよね?それって私とリッカと3人でお風呂入ってからよね?・・・ぺちゃ子、今後1回でも言うこときかなかったら、盛るの不可にするわね」
「ぺちゃ・・・うぅ」
さて、これで明日からは平和になるかしら?