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第十二部 confrontation(対決)
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第十二部 第3話 感情の住処

 「だから言ったろ?・・・〝同格〟だって」

フロイトの額から、汗が一滴流れ落ちた。それはRe:D(レッド)とイザナギの2機がかりでも崩せないLaevateinn(レーヴァティン)に抱いた〝畏怖〟が生み出したものかもしれない。Mhw(ミュー)の性能に差は無いに等しい。だからこそ、カーズ・ヤクトという男の実力がここまでのものだったことは想定外だ。おそらく、勝機があるとすればイザナギの方だと感じずに居られない。

 「人を雑魚呼ばわりしたんだ・・・土下座してもらうぜ?」

アキラの額から、汗が一滴流れ落ちた。過去、これほどまでに神経を集中させた戦闘があった記憶が無い。一瞬の油断が招くだろう〝死〟が常にまとわりつくような感覚が、その汗を滲み出させたのかもしれない。初めて感じる緊張感が、なぜか自分に心地いい。だが、この〝死合い〟に決着を着けるのはRe:Dだと感じていた。

 「オマエらの動き・・・後ろで〝統制〟してるヤツが居るな?」

カーズの額から、汗が一滴流れ落ちた。2対1だと思っていたがどうやら3対1だったらしい。そのことに対する焦りが内心にあるのかと思ってみるが、どうやら焦りではないらしい。熱のせいではない汗が出るほどに、今この戦場に〝自分の死〟を感じている。そして、そう感じることに喜びさえする。自分でも気付かないうちに、カーズは舌なめずりしていた。

 「うそぉ!?私のことにまで気付いちゃうの?」

ベルルーイの額から、汗が一滴流れ落ちた。3機の位置取り、互いの距離、方向、気象状況になんなら足元の砂がどう流れているかまでも2人に伝えていた。Jabberwock(ジャバウォック)の連携は、ベルルーイの介入無しには成り立たなかっただろうが、その存在が表に出ることはない。それでもその存在に気付いたカーズは、NEXT(ネクスト)なのかと疑いたくなるほどだ。

 「大丈夫だ、ベル。バレたところで何かが変わるわけじゃない。ここでコイツを墜とすことに変わりはないよ」

「言ってくれるじゃねぇか、おっさん!ナルホドな、後ろに居るのはオンナか。おっさんのかい?いいねぇ!ビンビンくるぜ!!でもまぁ、安心しな・・・オマエらまとめて返り討ちにしてやるぜぃ」

ついに実刀を抜いたLaevateinnが、カーズの声と共に躍動を始める。カーズが先にターゲットに選んだのはイザナギの方だった。やはりパイロットへの負荷を無視するかのような瞬発力で斬りかかるが、それだけで後れを取るイザナギとアキラではない。

 「アキラさん!避けずに受けて!ヴォルフは+20で衝突の瞬間狙って!」

Laevateinnの突撃スピードに押し切られないよう、Vampire(ヴァンピア)で斬撃を受ける瞬間、上半身だけを後方に退き威力を相殺する。クッションダンパーの役割を上半身で担った時に刹那の〝静止〟が生まれた。そのタイミングを逃さずRe:Dが飛び込んでいる。その静止が生まれることが分かっていなければできない芸当だ。いつの間にか、バックパックに残っていたもう1本のソードを手にしている。こちらはショートソードであり、取り回しに小回りが利くシロモノだ。

 「アキラさん離脱・・・今っ!!」

イザナギがスラスターを使って後退する瞬間、カーズの技量を侮ることも無いアキラは、LaevateinnのRe:Dに対するアクションが遅れるよう、右手を蹴り弾いた。

「のヤロぅ!」

Re:Dが横なぎに振り払ったのはショートソードの方だ。対するカーズは、弾かれた右手に呼応し、あえてRe:Dに背を向けたかと思うと、まるで走高跳のように飛び上がり、背を反らせ、Re:Dの斬撃を躱して見せた。

 「アキラさん!フォロー!!ヴォルフ!背中ぁっ!!」

 カーズの場合、ただ躱すだけでは終わらない。もしもこれが本当に走高跳なら、Laevateinnは背中からマットの上に沈み込んでいくのだろうが、カーズの操縦によってLaevateinnはそのまま回転を続け、その下を過ぎ去ろうとするRe:Dの背中目掛けて、天地が逆さまになった状態のままで斬りかかった。

 ベルの声に反応したフロイトは、Laevateinnの動きが見えていないにもかかわらず、振り抜いたショートソードの勢いをそのままに、腕を自身に巻き付けるかのようにして背面に回し、Laevateinnの斬撃を受け止めた。

 ベルルーイの指示を受けたもう1人のアキラはと言えば、指示どおりにフォローに動くではなく、Re:Dの腕の慣性が死んでいないと見るや、その衝突の瞬間に発生するであろう〝隙〟を狙いすましたタイミングでVampire(ヴァンピア)による追撃を繰り出す。フロイトの乗機がまだAttisだったとき、互いに死力を尽くした相手だ。その技量に対する〝信頼〟は揺るぎない。

「おいおい・・・捉えたって思ったんだがなぁ・・・」

「アホ言え!こんな楽しいコト、そんなに早く終わらせるのは勿体無いだろが」

Laevateinnは咄嗟に前腕のビーム刃を形成し、片腕一本でVampireを受け止めている。驚くことに、スラスターの噴射量を絶妙にコントロールすることで、機体を宙に浮かせた状態を保っている。

 「もっとオレを楽しませてくれよっ!」

3機が普通では考えられないような接近状態にある中、Laevateinnがわずかに胴体の向きを変えると、スラスターの噴射で機体を横回転させると同時に2機を蹴り飛ばした。離脱にあたって追撃を受けないようにするためには完璧な解答だ。

 「楽しみ・・・ねぇ。」

「ヴォルフ?ダメよ。貴方は違う。引っ張られないで」

フロイトの内側では葛藤があった。目の前で躍動するLaevateinnと、その内に在るカーズの言動が自分の胸に突き刺さるようだ。この感情が〝楽しい〟というものと同一なのかは疑問だが、それでも〝高揚〟している自分が解かってしまう。きっとベルルーイに言わせれば、その高揚もカーズに引っ張られた結果なのだろうと、自分を落ち着かせようと必死だ。

 今行われている戦争は、そもそも〝戦争〟なのだろうか?戦争を嫌い、終わらせるために戦い続けていたはずの自分が、戦争に含まれるだろう今の行動に高揚を覚えている。そうではないと否定したくともできない自分に苛立ちを覚えた。

 「ヴォルフ・・・ソレでいいんだよ・・・ったく、らしくもない。感情の在りかなんて自分でどうにかなるモンでもねぇだろ?今の感情がどうかなんざ知ったことか。目の前に居るイカれヤローをぶっ潰す。それだけがこの戦闘にオレたちが居るイミだぜ?」

 感情というものは人間にとって厄介だ。同じ事象であってもソレに対する感情というものは、その時の環境に左右される。自分の立ち位置や優劣の情勢、ヘタをすればその日の天気や直前に食べたものであっても、人の感情を左右してしまう。

 「間違うなよ。オレたちに必要なものは〝目的〟と〝結果〟だけだが、そこに感情があったっていいんだ。オレたちはもう、軍人じゃない」

その瞬間、路頭に迷いそうにすらなっていたフロイトの歩む道にかかっていた霧が、それが存在したことがウソだったかのように消えた。自分の歩む道の足元も、続いていく先も見通すことができる。フロイトの足元から伸びる道の向こうに、光が見えた気がした。

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