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第十二部 confrontation(対決)
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第十二部 第2話 闘神

 「はえぇっ!けど・・・バーカ!気付いてたっつーのっ!」

アキラはLaevateinn(レーヴァティン)の視界から見たとき、射出された爪に隠れるようにしてLaevateinnへ急接近していた。足場が砂漠であることを考えれば、いくら射出されたのがAstaroth(アスタロト)の爪だからと言って、ソレと同等の速度で機体を飛び込ませるというのは常軌を逸している。

 カーズにしてみてもその〝速度〟は驚異的だと感じつつ、視界の端で、それまで存在していたイザナギの姿が消えていることはかすかに気付いていた。突進してきたイザナギが、直前でさらに沈み込んだことでカーズの視界から一瞬姿を消したが、イザナギの持つ武器の形状から、イザナギの持つ特性やVampire(ヴァンピア)の斬撃を直感的に理解していた。それはカーズが戦場以前から身につけていた〝センス〟によるものだ。

 地面に直立しているにも関わらず、ほぼ〝真下〟と表現できそうな角度から、まるでアッパーカットのようにVampireを振りぬくイザナギだが、LaevateinnはAstarothを躱した状態からさらに上体を逸らせるようにそれを躱すと同時に、両肩のATBを使って、次の瞬間にはイザナギから距離をとった。

 「なんちゅうバランス感覚してやがんだ!さっすが兄弟機!・・・フロイトっ!」

「応よっ!」

Jabberwock(ジャバウォック)による超近接波状攻撃だ。Re:D(レッド)は両肩上にある、まるで肩と一体化しているかのようなスラスターポッドを胴体側基部で回転させ、前進するための上乗せ推力として本来の背部スラスターと合わせて全開でLaevateinnとの距離を詰める。

 「テメェはさっきエモノを投げて寄越してたろうがっ!」

「だっかっらっ!Re:Dはウテナが生まれ変わらせたんだよっ!」

Re:Dの背部バックパックは中央の基部と左右のスラスターポッドで形成されている。このポッドそれぞれからスタビライザーのようなモノが後方斜め下に向かって伸びているが、不思議なことに左右で長さが違う。一見すると、Astarothとのバランサー的役割を担っていそうでもあるが、コレの正体はソードである。

 まるで陸上リレーの選手が、バトンパスを受け取るときのように、Re:Dの右腕が後方へ斜めに伸ばされたかと思うと、その手にバックパックから射出されたソードの柄が握られた。Mhw(ミュー)は人型であるものの、人体構造と同じである必要はない。肩関節をそのまま回転させることで上段からソードを斬り下ろした。

 ところで、Mhwとは違いパイロットは人間だ。Mhwの動きを自然と人間の動きに重ねて見てしまうものだ。よほど肩関節の柔らかい者でもない限り、Re:Dのようにソードを握った状態から、ソレが一回転して上から来ることは想像できない。

 「ウテナだぁ!?あのクソ技術者!オレぁ、アイツにも借りがあんだよっ!」

それでもカーズの格闘センスは、今ここに居る3人の中でずぬけているのは間違いない。Re:Dの肩を基準に、腕が後方へ回転を始めるとほぼ同時(実際には直後だ)に、Re:Dの次の攻撃が見えている。そしてソードという武器はカタナよりも幅が広い。振り下ろされるソードの描く軌跡を、横方向へと向きを変えることは得意でない。

 Laevateinnは上体を捻ることで各スラスターの向きを変え、ソードの描く軌跡の左側へ、わずかに機体位置をずらした。そして、ここまで抜刀できずにいたカーズは、いよいよ、実刀の柄に右手をかけた。

 「オレのLaevateinnはシートからして特別性なんだよっ!とった!ぶった斬れろぉぉおおっ!!」

Re:Dの振り下ろされたソードが、Laevateinnの腰を過ぎた瞬間、居合斬りかのような抜刀をLaevateinnが見せた。その姿は最早Mhwとして人の姿には映らず、人そのものだと認識させるかのような優雅さすらあった。

 「斬られてやらんっ!」

フロイトはコクピット内で、身体をシートごと後ろに反らせつつ、上半身右側をわずかに沈めた。本来コクピット内のシートは完全に固定されているものだが、Re:Dのソレは座面と背面が分割されており、その2つは合わせ目の中央一か所だけで接続されている。そしてその接続部分はフレキシブルに稼働する。

 コクピット内のフロイトの動きに合わせるように、Re:Dの上半身が反り返り、同じように右肩から半身が沈んだ。Laevateinnの振り抜かれた刀身が、Re:Dのボディを掠めるように空を斬る。そのまま後ろに倒れるかと思われたRe:Dだったが、バックパックに1本残されたソードが地面に突き刺さり(と言っても地面は砂だが)、上体を支えるような状態のまま、スラスターでその場を離脱した。

 「テメェ!いつの間に!!」

Re:Dの離脱した場所を埋めるかのように、入れ違いで飛び込んで来たのは、もちろんイザナギだ。Re:DとLaevateinnのわずかな時間での鍔迫り合いの隙に、Re:Dの背後を回り込んでいた。その進入角度は、Laevateinnの振り抜いた実刀によってがら空きの空間となっている。

 「今度は逃がさねぇっ!」

イザナギが再び地面スレスレからVampireを上方へ振り抜く。しかし今度は、完全な上方ではなくむしろ前方、Laevateinnに向かってと言った方がいい。これならば後退されたとしても、追従でその牙が届きそうだ。

 「おぅりゃぁぁあああっ!!」

人は突如目の前に脅威が現れたとき、恐怖で竦む。しかし稀に、恐怖に打ち勝ち行動を起こせる者が居る。しかし大体の場合、その一歩は〝後退〟であることが多い。1秒にも満たない時間かもしれないが、脅威との〝距離〟を得ることで〝思考〟するための時間を得るためだ。本人たちにそんな知識はもちろん無いが、フロイトにせよアキラにせよ、彼らは人間の行動心理、原理を感覚的に理解していた。

 この2人を同時に相手取るカーズ・ヤクトという男は〝大体の場合〟に収まらない。フロイトと同じように、コクピット内でシートごと身体を捻らせ、同時にATBの方向を操作し、イザナギの突進を身を翻すように躱しながらその場から緊急離脱してみせた。まるで現実では起こり得ない映画さながらのアクションシーンを見ているかのようだ。これをMhwで行うという事実は、そのときにかかるパイロットへの身体的負荷は想像を絶するだろうことを教えてくれた。

 一時の〝間〟が訪れた。周囲にあるハズの砲撃音や銃撃音は、まるでこの3機には関係がないことかのように、それぞれのパイロットの耳には届かない。3機が互いに崩れた体制を立て直す機械音が辺りに響き、風が砂を運ぶ音が聞こえるかのような集中が彼らにはあった。

 「さっき「兄弟機」って言ってたなぁ・・・そうかい、オマエらのも同じかよ」

「ああ・・・Odin(オーディン)-Frame(フレーム)採用型ってヤツだよ」

Odin-Frame。北欧神話に登場する〝闘神〟の名を冠したこの骨格は、コクピットのシートとMhwの上半身が連動している。さらにモニター側からパイロットの顔を認識し、その視線情報を得ることで、Mhwの頭部と連動した動きをする。そしてこれらの動きを支える〝balancer(バランサー)-system(システム)〟までもが含まれた一式の名称だ。

 Odin-Frameを初めて実装した機体はAttisだった。そこから昇華させたものをイザナギが搭載し、そこから得た情報を平準化させたものを、ウテナはLaevateinnの設計図に落とし込んでいた。ただしこのOdinーFrameは扱いが繊細かつ極めて複雑であったため、ごく限られたMhwにしか搭載することはできず、それはパイロットの技量によってのみ、制御することができた。ウテナがAttisの改修をするときに広げていた図面左上には、〝Laevateinn〟の文字があった。

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