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第十一部 annihilation(消滅)
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第十一部 第5話 癒える傷、消せないイタミ

 「初陣は完敗・・・犠牲も出してしまった・・・申し訳ない」

コールマンは集まっている全員に向かって深々と頭を下げた。みんなから表情が見える間は何とか耐えたが、みんなからその表情が見えない今、嚙み切れるのではないかと思うほどに唇を噛み締めている。そんな様子から動こうとしないコールマンにウテナが静かに歩み寄り、その下がったままの肩に手を置く。

「ジェイクは死んだ。その責任は誰にもないだろうね。けれど、責めを負うとすれば僕だ。カンゼオンへの搭乗は僕が指示した・・・大丈夫だ。僕も解かっている。だからこそ、誰も異論は認めないよ」

自分の責任だと言えば、誰彼構わず「いや、僕の」「私の」と言い出すことは解かっている。だがそんなことを言い合って何になる?誰もが、ウテナの言いたいこと、自分たちが応じることが解かっている。

「いいわね、みんな・・・ジェイクのことは残念だし、悲しいことだわ。けれど、私たちは進まなきゃならないの。今回はカンゼオンに乗る者が死んだ。それが誰なのかを決めたのはウテナだったっていうだけのことよ・・・」

ミシェルはみんなの一番後ろに居た。それでも、ミシェルの声に誰も振り向くことはなかった。

 全員が自分の内側で闘っていた。その内容は個人によって様々だ。誰を責めることもなく、自分に何かできたのではないかと自問し続ける様子が解かる。まだ戦争に麻痺していない彼らにとって、〝仲間の死〟というものがこうもカンタンに、そして突然に訪れるものだということを突き付けられているようだ。そしてその刃は、いつでも自分の喉元にあることを実感せずに居られない。

 「コレが戦争を終わらせなけりゃいけない理由だよ。そして戦争を始めてはいけない理由でもある。こんなコトを言うのもナンだが、できる者はまだ慣れていない者を助けてやってくれ。そして、明日からまた進もう」

謝罪から顔を上げたコールマンはそう言葉を続けた。その場に居た軍属だった者は幾分かマシだった。それでも、みないくつかのグループに分かれてその部屋を後にしていく。そして後に残ったのは、ウテナ、ナナクル、ローズ、そしてミシェルとコールマンだった。

 「まぁ、こういうことも想定してたつもりだったけど、さすがに堪えるな」

「そうね・・・ジェイクが死んだっていう事実は解かってるのに、実感がないような感じがするわ・・・」

ナナクルもローズも、ショックは受けているようだが、冷静でもあるようだ。

 「みんなスマナイ。ちょっと行ってくる。できるかどうかは分からないけど、みんなと少し話をしてみるよ」

「それじゃあ私たちは今後のこともあるから、Artesia(アルティシア)に居るわよ?」

ArtesiaはADaMaSの敷地内にあったバーだが、店ごとknee-high(ニー・ハイ)に移転している。

「解かった。時間が間に合えば顔を出すよ」

 ウテナ・ヒジリキという男は、決してそういった人の感情に関わることを得意とはしていない。それどころか、ハッキリと苦手だろう。それでも彼を動かすのは、ADaMaSが〝この戦争を始めたのは自分たち〟だという思いがあったからだ。それは自分でも驚いたが、どうやら〝自責の念〟といった類のものではなかった。純粋にソレが事実だと認識していた。

 4人と別れてからどれぐらいの時間が経っただろうか。いったい何人と話をしたのだろうか。幸い(と言うべきかどうかは悩むが)誰もウテナを責めるような言動はなかった。それでもウテナにしては珍しく、1人1人と話をした。その様子はこれまでのウテナでは考えられない姿だ。そんなウテナの姿もまた、みんなの気持ちを和らげることに貢献していたようだ。誰かが気付いたワケではなかったが、徐々にA2の雰囲気が元に戻りつつあった。

 Knee-highには、有事でなければ解放された公園のような場所が後方に設けられている。自分でもどうしてそこに来たのかは覚えていなかったが、そこに居ることに気が付いたのは時計を見上げた瞬間だった。時間は深夜1時を迎えようとしている。

 「ウテナ局長」

意味も分からずザワザワとする気持ちを自然と落ち着けるような、そんな不思議な音色を奏でる声だった。声のする方を振り向くと、ずいぶんと優しい笑顔が月夜に照らされている。その主はアン・ハートレイだった。

「アン・・・どうした?こんな遅くに・・・眠れない?」

出来る限り、普段を装ったつもりだったが、果たしてアンにそれが通じるものかと考え始め、そしてすぐに考えることを止めた。

「みんなはもうすっかり夢の中ですけどね~。私は・・・そうですねぇ、局長のコトが気になって、後をつけて来た。みたいな?」

屈託のないその笑顔が、作り物ではないと自然と解かる。そんな笑顔だ。

 緊張が解けたとでもいうのだろうか?ふと身体のアチコチが痛いことに気付く。無理もない。さほど運動をする方ではない(運動神経はイイ方だが)のに、レヴァタンで暴れまわったのだ。悪くてムチ打ちのようなモノ、そうでなければ筋肉痛のようなモノだろう。さすがに流血は無いと思っていた身体だったが、ふと見れば左手の甲からいくつか出血しているようだ。そしてどうやらその傷はまだ新しいらしい。

「ダメですよ~。局長の手は大事なんですから。それに、殴られた壁も可哀そうですよ?」

自分自身に憤っていたのは確かだ。そんな感情が知らずとどこかの壁でも殴らせたのだろうか。言葉からすればアンは来る途中、その()()()()()でも目にしたのかもしれない。

「あぁ・・・僕もそんなコトするんだな・・・」

自分らしくもないと自らの拳を見てみるが、どうにも視界がぼやけて見える。それが〝涙〟のせいだと気付くと同時に、頬を伝うそれを感じた。

 頬を伝う涙の温もりを感じたのと同時だったろうか?それともその直後だったろうか。見えていた視界を影が覆ったかと思うと、人が発する温もりと同時に、人体、それも女性特有の柔らかさに包まれていた。それが解かった瞬間、別に我慢していたつもりはなかった涙が溢れ出すのが解かった。

 「局長?傷は時間が経てば癒えます。けれど、イタミは自分独りで消せないことが多いんですよ?知らなかったでしょ」

自分を包み込む力が強まったように感じられる。そのとき初めて、どうやら女性の胸に抱かれて泣いているらしいことに気付くが、どうにも涙は止まる様子がないらしい。

 2人はそのまま、芝生に沈み込むかのように座り込み、それでもアンはウテナを離さなかった。ウテナは号泣していたが、不思議と声はくぐもり、押し殺すような声しか出なかった。

「局長?泣いていいんです。そして誰かに癒してもらえば良いんですよ。それが今回、私だったってコトです。ま、私は役得だと思ってますけどね~」

アンの少し冗談めかした口調がウテナの心を少しずつ解きほぐしていくようだった。その様子は声に現れ、例えば他の者がソレを耳にしたとして、ハッキリと嗚咽だと、そして口惜しさを現す言葉だと認識できるようになっていった。


 そんな2人を影から見守る者たちの姿が居た。

「いいのか?ミシェル?」

「え?いいに決まってるじゃない。アレは私の役目じゃないわよ?」

「・・・えっ?ミシェル姉さん?・・・アレ?」

「ナニ勘違いしてるのよ・・・ホラ、ウテナはアンに任せて、私たちは消えるわよ」

そのミシェルの言葉は、それまでと違うイミでナナクルとローズの睡眠を奪っていった。

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