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第十一部 annihilation(消滅)
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第十一部 第3話 開戦

 「ちょっと!お兄ちゃん!」

ウテナの乗ったタンク型のMhw(ミュー)は、まだカタパルトの入り口だという辺りで、すでに肩のキャノンが火を吹いた。耳がどうかしそうなほどの轟音がハンガー内に響き渡り、そのMhwが信じられないほどの速度でカタパルトを自走していく音が聞き取れない。カタパルトの先端付近で、底部にあるスラスターを全開にしたのだろう。驚くほどの助走を得ていたウテナは、まるで走り幅跳びかの要領で空中に飛び出した。

 これが本当に走り幅跳びだったら明らかに反則だ。空中に飛び出した後も、各所のスラスターを全開にしたまま、対象に向かってあっという間に距離を詰めていく。相手もknee-socks(ニーソックス)に向かって進んでいたのだから、互いの距離が0になるまでにそれほど時間は必要としない。

 ウテナの乗るタンク型Mhwの左腕は、5指のある手ではなく、挟むように物を保持するタイプの大型マニュピレーターだ。それを大きく振りかぶると、敵機の直前で、それまでとは逆方向にスラスターを噴射させつつ、弧を描くように振りぬいた。

 「アッブねぇな!なんなんだよっアレ!タンクが空飛んで突っ込んできた、で、合ってっか?」

「・・・合ってますねぇ」

「あんのヤロぅ・・・アタマ、イカレてんのか?」

ウテナが降りぬいたマニュピレーターは、カーズ・ヤクトのLeavateinn(レーヴァティン)が乗るSFSの底部をえぐり取っていた。SFSから離脱したカーズが横を見ると、ザイクン・ネップードのFreikugel(フライクーゲル)が乗っていたSFSからも煙が上がっている。

 「アイツ、ヤバいっすよ!散弾だったからまだ良かったけど、砲撃の着弾とあのツッコミ、ほぼ同時ですよっ!・・・あ~、SFSはダメかな?放棄しますね」

タンクの放つ砲撃は大きな弧を描く弾道だ。仰角を上げれば着弾までの時間はさらに長くなるが、その分飛距離が短くなる。ウテナは艦に被害を与えない角度で砲撃し、コレの着弾に合わせて間髪入れず殴りかかれる速度で飛び出したことになる。いくら仰角を調整しようと、タンクが自らの砲撃着弾と着弾地点で落ち合うなどと不可能だ。つまり通常のタンク型Mhwでは到底出し得ない速度だったということだ。

 「おいザイクンっ!アイツ面白れぇからオレがヤる!オマエは後続と一緒に、これから出てくるだろうヤツらの相手してろよ?」

「え~・・・まぁ、いっすけど。出てくんのがあの時の天使だったら萌えるんだけどなぁ」

「お~、ソレな。ソッチも楽しそーだが、オレは先にアイツだ!まさかこのまま落っこちて終いってこたぁねぇだろ?」

 すでにSFSを失っている以上、いくら高速機動が可能なスラスターを装備していたとしても、ソレ専用に開発されてでもない限り、空に留まれるMhwは無い。LeavateinnもFreikugelもその例に盛れず、重力に掴まっている。自由落下の速度を四肢とスラスターで調整しながら地上に降り立つ直前、スラスターを全開噴射させ、着地の衝撃を和らげた。中のパイロットには特に何の影響も無いだろうキレイな着地だ。

 「どこいった、アノヤロー・・・居ねぇな!」

「カーズさん!上っ!」

見上げればそこには、今まさに炸裂する直前の砲弾が空で爆ぜ、空を覆いつくすのかと言わんばかりの散弾が広がった。

「っんだと!コノヤローぅっ!」

2機はそれぞれ、装備しているシールドでその散弾を防いだ。大地に降り注ぐ散弾が、辺り一面を粉塵で見えなくする。

「ウソでしょ!?コッチの着地までの短時間で砲撃距離の間合いを取ったっての?速すぎでしょ」

「あの飛び込み速度だ。そーとーな助走速度がなきゃムリだったろうからな・・・こんぐらいの速度出せたとしても驚きゃしねぇよ。にしてもあのヤロぅ・・・オレたち2機とも逃がさねぇつもりか?ナメやがって・・・」

粉塵の只中の2機に周囲の状況を把握する術は無い。視界は煙に奪われ、音は降り注ぐ散弾がかき消す。レーダーに関してはジャミング用粒子の事前散布によって、ほとんどその役割を果たしていない。

 カーズからすれば、それはタンクのパイロットも同じ条件のはずだった。ただカーズの想像や予測を上回っていたのは、相対しているMhwを造り上げたのがウテナであり、パイロットもまたウテナだという事実を知らなかったことだ。

 ウテナは知っていた。その2機を図面で知っている。その動きを映像で見ている。パイロットについても、新しい仲間から聞かされている。それでもウテナにとって誤算だったのは、〝知っている〟ということと〝経験した〟ことには大きな〝差〟があるということを実感したことが無かったことだった。

 「そぅらキタぁぁあっ!!」

カーズは粉塵の中で、まるで幻かのように一瞬だけ揺らいで見えたピンクの光を見逃さなかった。それはウテナの乗る機体が発したモノアイの光だ。そしてカーズは、一瞬見えた相手の機体形状を把握していた。左右の腕を比較したとき、左腕だけが異様に大きかったことを見逃していない。打撃が来るのはその左腕だ。ただし、それが解かっているからとてまともにその左腕と打ち合えば、打ち負けることになるのは明白。ならば、ソレを受け流し、相手の体制が崩れたところへ斬撃をくれてやればいい。

「テメェみてぇなアタマのイカレたヤツぁよ!テメーの散弾くらうのも構わず来るって思ってたぜ!ま!キライじゃねぇけどなぁっ!」

 ウテナは砲撃の仰角を最大にして、ほぼ真上に向かって砲撃していた。そして自身は、2機の着地点を予測したうえで、最も近くの遮蔽物に隠れていた。驚くべきことに、この打ち出された砲弾の仰角は、方針基部の設計ではあり得ない角度で打ち出されている。ウテナはキャタピラの特性を活かし、遮蔽物の側面に半ば乗り上げるような体制のまま砲撃していた。ほぼ直上に打ち上げられた砲弾はさく裂し、散弾となって大地に雨のごとく降り落ちる。そしてカーズの読みどおりではあったが、ウテナは相手の情報を遮断した状況を作り出し、本来タンク型Mhwではあり得ない近接格闘戦をしかけていた。

 「やるね・・・けど、僕は慎重派でね・・・ココは次弾の着弾位置だっ!」

この状況の中で、渾身の一撃を外す可能性は無い。あるとすれば躱されることだが、その確率は極めて低い。ウテナはそう予測していた。極めて低いということは、〝ゼロ〟ではないということだ。そしてそれは、ウテナが好む言葉でもあった。

 カーズが見たものはモノアイが放つ光のわずかな揺らぎだ。彼はこの瞬間のMhwの姿を見たワケではない。もしも見えていたのなら、結果に至る過程は違ったのかもしれない。もしも機体の姿が見えていたのなら、この降り注ぐ散弾の中、シールドを持たないタンクが一発も被弾することなく近付いて来たことに驚いていただろう。ウテナは砲撃時の機体をわずかに、そして巧みに操作し、着弾地帯における一筋の道を生み出していた。それはつまり、ウテナという男のタンクスキルは、着弾点も着弾のタイミングもすべて自在に操れるということを示している。ウテナは目測に絶対の自信を持っていた。

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