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第十部 Preparation(準備)
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第十部 第12話 向かう先、望む先

 「結局のところ、僕たちは正義の味方でもなけりゃ、運命に縛られた存在でもない」

〝正義の味方〟なんて存在では居られない。正義はそれぞれの立ち位置で変わってしまう。〝運命〟なんてものは存在しない。それは結局、〝結果〟を個人の都合に合わせて言い聞かせているだけだ。

 僕たちはAbsolute(アブソリュート)Area(エリア)(A2)という組織だ。それ以上でも以下でもなければ、それ以外でもない。そんな僕たちは、いったい何を目的とした集まりなんだろうか?

 みんなと話しをした。その時僕は外宇宙の話をした。それは僕が望む先だ。別に人類全体の生末がどうのなんて大層なことを考えているワケじゃない。技術者としてでもなく、ただ一個人として、外宇宙を見てみたいだけだ。それは正直に言って、ただ一個人の〝夢〟に過ぎない。

 反物質がなければ、それは果たし得ない夢だったはずだ。けれど反物質のことを知ったとき、僕は望む先へ向かう手段を見つけてしまった。たぶん反物質を創る前から、僕はその可能性に気付いていた。反物質が存在し得る条件とその仕組みの正体を考えた時、その可能性に気付いていたと思う。だから反物質の依頼を受けたんだと、今なら思う。そうなら、そんな僕のエゴで生み出した反物質が起こす災いを黙って見過ごすことができるほど、僕は〝悪〟じゃない。けれど、たぶん僕は〝悪魔〟なんだと思う。だって、僕は1人で立ち向かう強さも勇気も無かったから、みんなが納得して参戦できる理由を作ったんだ。自分の目的を果たすために他者に〝犠牲〟を強いるなんて、悪魔の所業と言わずに何というのか、僕は他の例えるべき存在を知らない。

 宇宙は広い。それがどこまで広がっているものなのか、そもそもどこかにその最果てがあるのかも分からないほどに広い。宇宙が生まれて138億年が過ぎたと言われている。宙を見上げれば星がある。この光はその離れている距離の分だけ昔に発せられた光だ。ならば138億光年離れた場所にある星の光が見えたとして、それが最果てだと言う科学者も居る。だがそれは地球を中心にした場合の距離だ。その星から見て、地球の方向とは逆側に〝何も無い〟ということは無いだろう。まだ人類が誰も知らないその場所に何があるのか?そこに人類とは違う生命は居るのか?居るのなら、それが住む惑星は?それを中心としたならば、同じように宇宙は広がっているんじゃないか?

 考えてみてほしい。そこは誰も知らない場所なんだ。太陽系の常識が常識でない可能性だって十分にあるだろ?惑星が丸じゃないかもしれない。そもそも惑星に住んでいるのではなく、宇宙そのものを生活の場としている生命があるかもしれない。酸素を必要としない生命や、食事をしない生命も居るかもしれない。もしかしたら、広い宇宙の中で、太陽系だけが異質な可能性だってある。ならその可能性の1つとして、人類が移住できる惑星が、無限かもしれないほどに広い中にあっても不思議じゃない。

 実際、今人類が持ち得ている技術力でも、人類が移住できる可能性のある惑星は見つかっている。ただそれを確認する術が無いだけだったんだ。けれど、僕は確認する術があることに気付いた。全ては反物質というものの概念を()()考えたとき、僕の不可能だと諦めていた夢が可能性を秘めたんだ。

 その時に思ったんだ。人類は地球だけで生きることが許されないほどに増えて困っている。それを何とかしようと宇宙に人工の大地を作ったけど、そこに住むことになった人々はそれに満足できなかった。地球に残った人々も、宇宙に住む人々との関係性に満足できなかった。それは、互いに干渉しあえる距離しか両者間に無かったからじゃないのか?と。

 もう分かるだろ?外宇宙に人類が移住可能な惑星を見つける。その航行の方法には反物質の持つ〝時間拡張〟と名付けた性質を使う。現状、いや、おそらく今後も、反物質を扱いきれるのはADaMaS(アダマス)だけだ。僕たちがそれを管理すれば、人類は互いに干渉できないほどの距離でそれぞれの人類を歩き始めるだろう。もしかしたら、地球という惑星での経験を活かした、より良い惑星となるかもしれない。そうなれば、少なからず今起こっている争いは終わるんじゃないか?そして人類は次のステージ、「NEXT-Level(ネクストレベル)」に辿り着くんじゃないのか?

 確かにその可能性はある。それも高い確率で。そう誰もが考えるだろう?これが僕が自分の〝望む先〟に行くための〝ついで〟で生み出したみんなの闘う理由だ。それを自らの道と定めたみんなの〝望む先〟が狙いどおり1つになった。そこに辿り着くため、まず最も重要なコトは〝反物質を手に入れること〟だ。そのために僕たちが〝向かう先〟は〝戦場〟だ。

 今戦場にはA2を含めて5つの勢力がある。Noah’s-Ark(ノアズアーク)StarGazer(スターゲイザー)、ミリアークたちに、そして一般大衆を取り込んだディミトリーたちだ。彼らと比較して僕たちA2が最も劣ることは何か?それは政治力だ。代わりに僕たちは、5つの中で最強と成り得る武力の片鱗がある。それはMhw(ミュー)のことじゃない。NEXT-Levelだ。

 妹が強いNEXTだということは解かってる。マドカは他のNEXTを感じることができる。その強さも。現状でたぶん、マドカ以上のNEXTは存在していないだろう。けれど、マドカと同等の強さを持つNEXTが2人居る。アンとウルだ。この事実は、アンに関してはすでに知られている。そしてミリアークならば、ウルにもたどり着くはずだ。そしてその事実は、遅かれ早かれ、誰もが知ることになる。その3人が、今こうして1つところに集まり、志を同じくしている。

 たぶん、これまた遅かれ早かれ、A2は他の4つの勢力から敵視される。4つの勢力が手を組むことは無いだろうけど、武力を使った実力行使でも、さっき言った政治力を使っても、多方面でA2を排除しに動き出すだろう。4つのうち2つ程度なら、まずはA2をツブすためにと同盟することもあり得るかもしれない。それこそ政治力だ。

 ともあれ、一度に4つの勢力を相手にするのは得策じゃない。理想は4つが互いにツブし合ってくれることだけど、そんなうまい話はなかなか無いだろう。だから、1つずつ相手する。

 4つの勢力はいずれも武力を有している。その武力の代表はMhwだ。そしてここに集まったみんなは、ADaMaS製Mhwのパイロットであり、それに精通した者たちだ。その力を借りない手は無いし、借りなければ、僕は戦場に向かうことすらできない。

 僕はみんながそれぞれに抱えている感情を人質に取っていると言っていい。きっとみなんな、少し離れたところにある〝望む先〟を見ているんだろうが、その手前にある〝向かう先〟にあるのは〝私怨〟や〝私情〟だ。

 置いて来てしまった誰かを助けたい。失った友の仇を討ちたい。信じた者に問いたい。そんな個人の抱える感情が向かう先にある。けれど、それだけのために力を振るうのだとすれば、他者に対して後ろめたい。そんな全員にも、僕の示す〝望む先〟は好都合なはずだ。

 僕はたぶん、それら全てが解かったうえで、みんなを誘導しているんだと思う。本当は悩むべき個人の感情を逆手に、本人が、それが〝救い〟であり〝懺悔〟でもあると思えるものを示し、戦場へ向かわせる。

 そんな僕は、誰がどう見ても〝悪魔〟だろう?

 「ウテナ?アナタってバカ?・・・知ってたけど」

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