第十部 第7話 かくしてAttisは消え去った
「へぇ~・・・確かにAttisだって判るんだが、まったくベツモンだよな・・・」
俺の機体〝Attis〟は基地からの脱出時にかなりの損傷を受けた。そりゃもう、無事だったから良かったものの、ベルの命が危険になるほどの損傷だったわけだ。正直、スクラップだろうなって思ってたんだが、ウテナって男はフツーじゃなかった。
「う~ん。とりあえず残ってる装甲、全部剥がすか。それで損傷個所ももう少し詳しく解かるだろうし・・・うん、フロイトさん。コイツは元どおりに直しておくよ」
この時俺は、ウテナ局長の言葉を額面どおりに受け取ってたんだ。自分で言うのもなんだが、Attisはすでに名の知れた機体だったし、俺自身も体に馴染んだ機体だったからな。〝元どおり〟って言ってくれたことは素直に嬉しかった。
それからの俺は、ベルのところとAttisのところに居ることがほとんどな日々を送っていた。ベルの方での日常は、さすがに照れくさいから俺の内に秘めておく。ソッチの追及はカンベンな。代わりにと言っちゃナンだが、Attisでの話をしておこう。正直、Attisの方での経験は驚きの連続だった。
「どうだ?ヒュート?」
「装甲のバラシは完了してますよ。けどコイツは・・・ホントなら1から造った方が早いですけどね。まぁ、フロイトさんのコト考えたら、内部構造はできる限り修理って方が馴染みやすいでしょうね」
「だなぁ・・・ヒュート、見て解かるか?」
「大丈夫なトコロ探す方が難しいですが・・・機構上特にマズいのは、左肘シリンダーの歪みですね。たぶん連動で左肩も後ろにズレてます。あと、股関節も左右バランスが狂ってますね」
「うん、それと左足首も歪んでるね。細かいけど、左前腕もシールド接続部周辺が凹んでるよ」
これが仁王立ちでAttisを見上げる2人の技術者の会話だ。内容から分かるかもしれないが、彼らは外装をバラしただけで、それ以外にはまだ何もしていない。ウテナ局長が言ったとおり、見ただけで、見ても分からない修理の必要な個所を言い当ててる(と言っても、オレがその正解を知っているワケじゃないが)。
「アンタら見ただけでそこまで分かるのか?」
「ああ、フロイトさん。もうヘーキっぽいですね・・・ええ、今なら局長の8割ぐらいですかね」
なるほど、ADaMaS製Mhwの性能はウテナ局長1人が支えてるワケじゃないってことか。局長はことMhw製造に関してバケモノなんだろうが、しっかり下も育ってるわけだ。もともと疑ってなかったが、これなら安心してAttisを任せられる。
「こんなにしちまって悪いとは思うんだが・・・コイツをよろしく頼む」
「ああ、フロイトさん、これは僕らの仕事だし、シュミでもあるからね。任せてもらって大丈夫だよ。仕上がりを楽しみにしててもらっていいよ」
正直なところ、俺は見てても彼らが何をやってるのかはさっぱり分からない。特に内部骨格の状態だとお手上げだ。それでも、彼らの会話・・・と言うより、その単位を知ったときは、彼らの仕事にこれ以上ないほど驚いた。
「クルーガン!そのパーツはあと-0.25だ!」
「りょーかいっす。一回外しますね!」
工場の内側ではいろんな音や匂いが充満しているってのは知ってるが、ココは戦艦内だから猶更だ。声を張り上げないと聞こえやしない。今まで見たこともないし、イメージにも無かったが、あのウテナ局長が声を張り上げてる。それにしても・・・やっぱりウテナ局長は見ただけでそのパーツの〝何か〟が見えるみたいだ。触れても無ければデータを見てるワケでもないのに指示を出している。
「なぁ、ヒュートくん、聞いてもいいかい?さっきの数字はパーツの外径とかかな?それを見ただけで・・・25センチ?かな・・・そんなのどうして解かるんだ?」
たまたま隣にいたヒュートに聞いてみたが、目をパチクリさせてるな・・・俺、何かおかしなことでも言ったんだろうか?
「どうしてって言われると、局長がヘンタイさんだからとしか答えようがないですけど・・・フロイトさん?単位間違ってますよ。-0.25は2.5ミリ厚みを削れってことですよ」
どうやら今度は俺が目をパチクリさせる番らしい。何か言葉を出したくても、うまく出てこないほどの衝撃だな。
「・・・はぁ!?」
うん、コレが精一杯だわ。いやいや、ウテナ局長ってどうなってんのよ?〝ヘンタイさん〟で済ませられるコトなの?ソレ!?2.5ミリって・・・ソレ、IHCだったとしても、誤差にもならない数字じゃねぇの?Mhwほどのデカさよ?それで2.5ミリって、スゴイとかいうより、それを見て判別できちゃうってもう、キモチ悪いってレベルじゃねぇかよ。
「あ~・・・そうかそうか・・・俺たちとしちゃああの感覚に慣れてますからね・・・」
「あ~・・・クルーガン、ワルい。外したとこ見たら、ソレ、-0.25じゃなくて-0.23だね」
あっはっは、もう笑えて来るな。ここの連中はみただけで1ミリ以下の誤差を判別しちゃうのか、そーかそーか。そんな連中が造るMhwだもんな、超級Mhwで当たり前なワケだ。ここで俺のAttisがどうなっていくのか見てるつもりだったが、どうやら〝どうなってるのか〟がそもそも理解できないレベルらしい。
そんなこんなでベルのところへ足を運ぶことが増えていた。ベルも順調に回復し、艦内をあちこち歩けるようになった。ベルの回復具合と比べて、Attisの方はというと、細かなことは聞かされてないが、ハンガー全体にカバーがかけられていて遠目からだと何も分からない状況が数日続いていた。
そんなある日、
「フロイトさん。Attis、終わったよ。今から起動テストするけど、見に来る?」
ベルと一緒に食堂で昼食を食べ終わったころ、ウテナ局長が声をかけてきた。正面に座るベルを見ると、どうやらベルも見たいらしいことがうかがえる。
「ああ、ぜひ」
「じゃあ行こうか」
ウテナ局長について歩いていく。ベルの歩行速度が心配ではあったが、そもそもウテナ局長の歩きはそれほど速いものではなかった。ほどなくしてハンガー内に入ったが、まだ正面にはカバーがかけられたままだ。
「きょくちょー!いいタイミングっす!カバー外しますよ?」
「おーぅ。やってくれ~」
彼らにとっちゃ日常なんだろうが、俺にしてみたら一大イベントなんだがなぁ・・・なんとも盛り上がりに欠ける口調だな。
「コレが新しいフロイトさんの機体〝Attis-Refine:Designだよ。僕らはコイツを通称で〝Re:D〟と呼んでるよ」
いや・・・まぁ、スゲぇよ。外観に関しちゃ以前のAttisとはベツモンだ。Astarothもあるようだが、形状が異なってる。パッと見で解かるのは推進力だな。背部バックパックが新規設計なうえに、肩に3連スラスターが増設されてやがる・・・いや、コイツは位置的には肩の上だが、接続基部は胴体側だな。おそらくフレキシブル稼働だろう。
「瞬発力が桁違いに上がってないか?あの肩にあるヤツ、可動式だろ?」
「へぇ・・・さすがだね。そのとおりだよ。コイツの瞬発力はたぶん、全Mhw中トップだと思う。それを支えられるよう、脚部にショックアブソバーの追加などを施してあるよ」
「これまで以上に近接戦闘特化ってことか・・・」
「うん、そなるね。爪の他にバックパックにも長短長さの異なる実剣を装備してるよ」
これまで以上の近接格闘って・・・俺好みじゃねぇか!
「そうなると、もう私を乗せてってのはムリっぽいですね・・・」
となりでいたずらっぽく微笑むベルは・・・うん、今日も美人だ。
「それはそうと・・・Re:Dですか・・・もうAttisの〝ア〟の字もありませんね」
ホントだな、オイ。




