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第九部 A Few Later(その後)
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第九部 第10話 選択

 「フロイト少佐、そのまま外に出てきてもらえるとありがたいのですが?」

その声の主はまだフロイトに姿を晒していない。見えているのは変わらず腕と銃だけだ。こめかみ辺りに触れた金属質な物質が何であるかを瞬時に悟ったのだろうベルルーイが、そちらの方へ顔を向けようとするのに気付いたフロイトは、手で静止するよう合図した。それほど怯えた様子も無いベルルーイと目線があった瞬間、フロイトが小さくうなずいた。その様子は腕の主から見えていないことは織り込み済みだ。

 「疑いは晴れて無かったってことか。なるほどね。狙いはAttis(アティス)だったってコトね」

「抵抗されますか?その場合、最悪の場合も許可をもらっています。私としてはどちらでも構いませんが、どうします?」

口調に抑揚が少なく、コレがただの事務作業だとでも言うかのようだ。どうやら時間はそれほど無いらしい。突き出ている腕からスーツを着用していることが分かる。軍内部で、しかもMhwの影に潜んでいたのだ、正直、あまり関わり合いになりたくはない部署の者だろう。そしておそらく、この男の他にも1人か2人、身を潜めている同類が居るはずだ。自分のことはさて置いても、現状、ベルルーイの安全性は微塵も無い。

 「ベルルーイ少尉の安全は保障できるか?」

「アナタ次第です。あと15秒で決めてください」

交渉どころか時間の引き延ばしすらできる様子はない。それどころか、〝抵抗してくれると嬉しい〟とさえ思っているかのような口ぶりだ。ベルルーイと見つめ合ったままだった視線をわずかに下にずらす。フロイトとしては〝下〟ではなく〝手前〟を意図した合図のつもりだったが、うまく伝わってくれと願うばかりだ。

 この男は軍内部でも〝裏方〟の役割をこなすスペシャリストだろう。噂でしか知らないが、将官クラスの中にはこういった者たちを従えている者も多いと聞く。「だがオマエら、Mhwに関しちゃシロートだろ?」とフロイトは内心でつぶやいた。

 「分かった。ソッチに出ていく」

おそらく、スーツ男の仲間がどこかこちらを見ることができる位置に潜んでいるはずだ。フロイトはゆっくりとシートから腰を浮かせながら、まだベルルーイの動きを静止させたままだった右手を、ゆっくりと動かす。ベルルーイの視線がその手のひらから離れずに、眼球だけを動かしている。「いいぞ」と再び内心でつぶやきながら、その右手を自身の身体を支えるようにレバーに添えた。その右手が黒服たちの死角になれと願いながら。

 〝ゴゥン〟

鈍い音と同時にAttisの右腕がデッキを支える支柱に触れ、まるで地震が発生したかのように、そこに居合わせた者全員のバランスを著しく崩させた。

〝プシュン〟

サイレンサーを付けた銃が撃たれたようだが、揺れがくることを事前に理解していたベルルーイは、音が鳴るよりも先に、揺れの力を借りてコクピット内へ倒れこんでいた。実際に目視することはできないが、実弾は誰かに当たることなく飛び去りったようだ。後で思えばオソロシイ掛けだったと思い返すハメになるだろうが、シートにも1発、銃弾がめり込んだ痕があった。

 「このまま強引に出るよ。ベル、後ろに!」

「またですか。もう慣れましたけど・・・少佐、行ってください!」

コクピット内に倒れこんで来るベルルーイを左腕で受け止め、シートの後方へ受け流しながら、コクピットハッチのシールド、補助シート展開、Attisの前進を素早くこなしていく。騒音でハッキリと聞こえはしないが、コクピットハッチ周囲で弾丸の跳ね返る金属音が微かに響いている。

「ハンっ!起動済みのMhwに座ってるパイロットを脅迫するたぁ、いい度胸してんじゃねーの・・・ベル、いいのか?このまま出れば、脱走兵だ。とーぜん、追ってくる」

「少佐が守ってくれるんでしょ?構いません、私は少佐・・・いえ、ヴォルフについて行きます」

「ヴォルフ」は特に親しい者しか呼ぶことはない。現状はディミトリーぐらいのもので、ベルルーイにそのことを話した覚えもない。フロイトからは見えていなかったが、ベルルーイは優しい微笑みを浮かべていた。それは金属に反射してベルルーイ自身には見えていたが、フロイトが気付いていれば、この状況の中であっても気を散らせたかもしれないと思うとこれから先、一緒に居ることでフロイトの喜ぶ様をまたゆっくりと楽しむ機会もあるだろうと思う。

 ハンガーの入り口にある扉を強引にこじ開ける。こうした基地に存在するハンガーの出入り口はそれほど強固なものではなく、Mhwであれば造作もない(基地内だからセキュリティの心配がない)。どうやら背後では先ほどのスーツ姿の男が3人、Attisに向かって発砲しているようだ。しかし当然、そんなモノがMhwに通用するはずもない。やがて基地全域にアラートが鳴り響きだした。

「Attisが無断起動。Valahlla(ヴァルハラ)と合流することが予測されます。各機出撃次第これを取り押さえもしくは、破壊をお願いします」

 AttisもNoah’s-Ark(ノアズアーク)のMhwだ。その軍共通の通信は、Attisのコクピット内にもハッキリと聞こえていた。

「・・・だってさ。まぁ、ディミトリーに用事があるのは間違っちゃいないがな」

「ヴォルフ?Attisは前回の戦闘による損壊から修理が完了していません。特に右腕には注意してください」

本来ならとっくに修理されているはずだが、コレもまた意図的に遅延していたのだろう。

「まったく、手抜きもいいとこだな・・・まだMhwは上がってきてないな。まずは一気に距離を取るよ?少し踏ん張っててくれ」

「状況が状況です。こちらは気にしないでください」

フロイトが言うまでもなく、乗り込んだ直後から体を突っ張っている。ダカールでは何事も無かったが、今回は多少の戦闘行動もあり得る。ムチ打ちぐらいは覚悟する必要がありそうだ。

「それとな、ベル。〝ヴォルフ〟呼び、いいな!極わずかしか居ないけど、特に親しいのはそう呼ぶんだ。〝ヴォルフゲン〟は長ったらしいらしい」

「・・・分かりました・・・ヴォルフ。・・・改まれると少し照れますね」

きっとフロイトの顔は緩み切っているに違いない。よくよく考えれば状況がどうであれ、嬉しいと感じる気持ちを消すことなどできやしない。そんなことを考えているうちに、体に重力がかかった。本来だったらもっと急激に重力がかかるのだろうが、ベルのことを気遣っているのが分かる。

 「なぁ、ベル?ADaMaSからのメッセージ、オレはその意味が解かった気がするよ」

「・・・奇遇ですね。私もです」

「ベル、舌を噛むから返事はいい。聞いてくれてるだけで大丈夫だ」

実際、声を出し辛そうな声色ではあった。自分の意志でMhwを振り回しているとはいえ、Mhwのパイロットというものがどれほど強靭なのかを、改めて実感する。

 Mhwのパイロットは、当たり前だがMhwを操縦する。これまた当たり前だが、得てして忘れがちなのが、〝Mhwはヒトの命を奪う〟ということだ。そして軍人は戦争に参加し、戦争もまた、ヒトの命を奪う。傲慢かもしれないが、「何のためにヒトの命を奪うのか?」がなければ、ソレをする資格は無い。

 Mhwの中でもADaMaS製は飛びぬけた性能を有している。言い換えればそれは、他のMhwと比べてよりヒトの命を多く奪うということだ。あのメッセージは、ADaMaS製Mhwに搭乗するパイロットへ向けられた、覚悟を問うていた。

「少なくともオレはそう受け止めている。しばらくオレも見失ってたようだけど、オレはただ、戦争を早く終わらせたかったんだ」

気付けば後方には、複数のMhwがその姿を現していた。

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