第九部 第6話 休憩後、Continuation
「全員戻ったね。それじゃあ、続けようか」
ADaMaSのメンバーだった者たちはウテナとミシェル、ローズ、ナナクルを除いて全員が何かしらを食べていたようだ。その間、ウテナとナナクルをその場に残し、ミシェルとローズが飲み物を取りに行っていた。もちろん4人分だったが、さすがにアルコールの類ではなかった。
ハートレイ兄妹は何か話し込んでいたが、途中からマドカも加わっていたようだ。そして同じようにpentagramは4人で、ルアンクとオピューリアが2人でそれぞれ話し込んでいた様子があった。
「先にいいかな?」
割って入ったのはアンだった。ウテナは少し戸惑ったようだが、傍らに居るマドカの頷きを見てアンに先を譲る仕草を見せた。
「私と兄はNIGHT-Daleと直に戦ったの。それで・・・あのMhwから感じた人の意志はヘンだった。意志はあるのにまるでそこに居ないような・・・知らない人も居るから言うけど、私はNEXT。ミリアークは〝誰も及ばないほど強力な〟って言ってた・・・だからそう感じたのは間違ってないと思う。局長さん?人の意志をプログラミングすることは可能?」
アンのNEXTという告白には誰も驚いていないようだ。他のゲストは皆、長い時間を戦場で過ごした者たちだ。アンの人柄を見て違和感を覚え、アンの告白に違和感の正体を得たのだろう。戦いに身を置く者は、得てしてそういった雰囲気を自然と身に着けるものだ。
「人工知能という意味なら容易いよ。けれど、そこにNEXT-Levelは発生しない。あり得るとすれば・・・と言うか、僕はそうだと思っているけど、NEXTの〝脳〟を使った有機コンピューターならば、NEXT-Level込みで実現できる」
ウテナの返答に、アンの質問で薄々感づいてはいたとしても、誰もが戦慄を覚えた。その場がザワついたわけでも、誰かが恐怖や畏怖を顔に表したわけでもない。ただソレと感じることのできる雰囲気が、全員を包み込んでいた。
「追い打ちをかけるようだけど、あの茶会でマドカだけが気付いたことがある」
ウテナはマドカに視線を送った。その視線にすぐさま気付いたマドカは、兄からの促しに一瞬ためらいを見せた。それは確証がなかったからでも、その内容に恐怖したからでもない。人が行っていいものではないと感じたからだった。
「・・・ミリアークたちの車、覚えてる?運転手が居たでしょう?ガラスが黒くてよく見えなかっただろうけど、私には少女に見えた。そしてその子にミリアークを感じたの。でもそれだけじゃなくて・・・その奥?にアンとか、他の知ってるNEXTたちの雰囲気がした」
それまでも、話の内容の重さによる場の静けさはあった。しかし、マドカの発言によって訪れたソレは、寒い冬のしんしんと降り積もる雪の夜ですらうるさいと感じられるほどの静寂、まるで音の無くなった世界のようだった。
「・・・チッ・・・クローンね。ミリアークをベースにしたうえに、Tartarosで調べたNEXTたちの遺伝子情報を加えたってとこかしら」
「ああ。そして作った目的が〝戦い〟なら、1人だけなはずがない。おそらく、部隊・・・少なくとも小隊規模、ヘタすりゃ大隊規模だ」
「じゃあナニ?ミリアークたちは武力による世界征服でも目論んでるって言うの?私にはあの女の本当の目的がまだ見えないんだけど」
舌打ちだったとはいえ、音の無くなったその空間にミシェルがソレを取り戻させた。ナナクルとローズはこれまで同様、解釈とまとめに注力しているのが分かる。ウテナの一般的からは程遠い思考を他者が理解するには、ADaMaS全員で補完する必要があるらしい。
「ミリアークの本質は変わらないよ。そしてとても理論的だね」
彼女個人の目的はたった1つ、〝知る〟ことだ。そして、現在の対象は〝NEXT〟だ。NEXTの解明に、戦争という時代は都合がいい。NEXTを解明しようとすれば、おそらく非人道的手段が必要となる。戦争という時代は、それを隠し、誤魔化し、時には肯定さえする。
彼女は狡猾だ。本当の目的を隠したまま、他者に目的を与える。その1つは、地球環境だろう。彼女の理論は、戦争という舞台をコントロールし、人口の調整を図ることだ。「人類を永続させるため、自らは悪魔にでもなろう」ぐらいは言っているかもしれない。その目的が響かない者には、戦争状況をコントロールし、永続させることで得られる利益を説いていることだろう。
彼女は〝戦争を永続させる〟ことによって発生する〝目的〟を、対象者に合わせて変化させる。だが逆は無い。〝手段〟が変わることは無いのだ。
「人類の未来という意味では、彼女の言ってることも1つの真理だよ。正直、彼女の目的がソレだったとしたら、僕は彼女と敵対することをためらったかもしれない」
「人類が背負った〝業〟ってトコかしら?乗るかどうかは別としても、まぁ・・・理解はできるわね・・・いいわ。ウテナ局長、私たちpentagramはアナタの話に乗るわ」
それは突然の申し入れだった。協力してくれるのはありがたいが、そう決意表明するにはタイミングがおかしい。
「オレたちは現状、脱走兵だからなぁ・・・行くアテがあるわけでもねぇし」
「タクヒのこともあるけど・・・局長さんの話に現実味があるんだって、皆さん見てたら理解できました」
「ちょっとリッカさん?ネコ被りすぎですよ?それに、さっきの休憩のとき、もう決めてたじゃないですか~」
ウルの言うことが正しいのなら、pentagramはタイミングを待っていたのだろう。このタイミングだったのは、どちらかというとシビレを切らしたといったところか。しかし、このpentagramがきっかけにはなったようだ。
「僕と彼女も同行させてください。もともと戦争を終わらせたくて軍人になったんです。意図的に続けようだなんてゴメンですね」
「えーっと・・・いろいろ考えたんですけどね?一番は〝外宇宙〟に興味津々なんですよね」
ルアンクとオピューリアは失った2人のことは表に出さなかった。この2人もやはり、休憩の時間ですでに心を決めていたのだろう。
「私たちも一緒に行きます!ここは・・・これまでのどこよりも居心地がいいんですっ!」
少し照れくさそうにそう話すアンの後ろでは、ユウが優しく微笑んでいる。ユウにとって、マドカたちと一緒に居るアンは、まだ家族が一緒だったころのアンによく似ていた。
「よかったわね、ウテナ。これで残す戦力はあと1人よ?」
「まぁ、結果としては良好だね。みんな、ありがとう。けど、もう少し、話を続けてもいいかな?」
全員の顔がそれを了承している様子がウテナには分かった。
「ディミトリーは止めなきゃならない。ミリアークの好きにはさせられない。たぶん、先に対処しなきゃならないのはディミトリーになると思う。けど、問題は山積みなんだよね。けど一番の問題は、それを成したとき、僕たちは世界の敵になるってことなんだよ」
今、Valhallaは世界で急速に認知され、支持されている。もちろん、ディミトリーの本当の目的を知ればそうはならないだろうが、ソレが表に出ることはないだろう。現にADaMaSとしてはすでに、軍事兵器産業として彼ら(といっても本流ではなかったが)の攻撃を受けた。早い話、長引く戦争に疲弊した人類にとって、Valhallaは救世主的存在となっている。これを打倒しようというのだから、世界からどう思われるかは明白だろう。
「あの~・・・いいです?」
実にゆっくりとした動きだった。〝おずおずと〟右手を挙げたのはpentagramのウル・ハガクレだ。しかしその動きとは裏腹に、表情を見ると不思議そうなキョトンとした表情を見せている。何を言おうとするかの予測がつかないまま、ウテナはウルを示した。
「えっと~・・・みんなからキラわれると、何か困るんです?」
わずかな時間ではあったが、全員の動きを止めるだけの力がウルの発言にはあったようだ。
「あっはっは・・・うん、何も困らないかな。うんうん、味方だと思うと頼もしい限りだよ」
「ついでにもう1ついいです?確か、ウチの准将も居ましたよね?ずっと見ないんですけど、帰ったんです?」
ADaMaSのメンバー全員がローズの方を見る。その視線に気づいたローズの表情は急速に変化していった。
「・・・あ、あぁあああー!忘れてたーっ!!」




