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第九部 A Few Later(その後)
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第九部 第4話 合流後、knee-highにて

 「それじゃあ、ちょっと話をしようか」

 切り出したウテナがそれまで見つめていた窓に背を向ける。ウテナの背後にある窓の向こうには、陽の光が残る時間だったのなら、一面に広がる水平線と残光を反射する波間が美しい風景を見せていただろう。

 空軍基地を離れたknee-Socks(ニー・ソックス)は、ほどなくknee-high(ニー・ハイ)thigh-high(サイ・ハイ)の2隻と合流し、手近な無人島に降りていた。その地で、Mhw(ミュー)は全てthigh-highへ移し、パイロットたちはknee-highへと移り、半日ほどの時間を各々に過ごした。シャワーを浴びる者、パイロットを失ったMhwを見上げる者、ただ体を休める者、涙に暮れる者。その時間の過ごし方は人により、時間により様々だった。彼らにはそうするだけの理由があった。

 各々に時間を過ごし、ADaMaS(アダマス)の主要メンバー、pentagram(ペンタグラム)の4人、ルアンクとオピューリア、そしてハートレイ兄妹は、knee-high内にある食堂に集まっていた。

「僕が話すのは、これからの僕たちの目的だよ。来てもらった8人には、その内容も含めて、自分たちの進む道を決めて欲しい。いいかい?コレはあくまで僕の我儘だから、すまないけど自分たちで見極めてほしい」

 そこは食堂なのだから、彼ら以外にも人は居る。厨房でまだ調理をする者、彼らに作ってもらった食事を食べている者も居る。だが、そんな彼らはすでに〝道を決めた者〟たちだった。ウテナはもちろん、ADaMaSの主要メンバーにとって彼らに聞かれて困る内容など存在しない。

 「先に目的を話す。これはまだ誰も知らないことだよ。僕が考えている最終的な目的だ。僕は人類を外宇宙に出す」

誰も言葉を発さない。それはウテナの言葉は理解できても、内容に頭が追い付いていないためであり、それぞれの表情にもそういった雰囲気が見て取れた。周囲の雰囲気を察したナナクルが、みんなを代表するかのように口を開いた。

「スマン、ウテナ。意味が分からん」

「そりゃそうでしょ。中身はこれから順を追って話すんだから」

ニヤリとするウテナの表情に、「だったら〝間〟を置くなよ」と何人かが思いはしたが、実際に口に出した者は居なかった。

 人類という種は争うことを止められない。しかし、今回の戦争にあってはその原因がはっきりしている。人口の増加だ。地球という惑星1つでは抱えきれなくなった人類をコロニーへ移住させたことがそもそもの発端と考えていいだろう。

 次に戦争の原因となったのは、コロニーと地球の違いだと考えることができる。要は、〝自然〟と〝人工〟の違いのことだ。この違いに人は自然と優劣を持ち、優劣どちらの立場に立つ者も例外なく全て、その差を根底では認めている。だからこそ、優に立つ者はソレを維持しようとし、劣に立つ者はソレを埋めようとする。この思考が争いを生み出した。

 ここに加わる要素が1つ存在する。それは〝距離〟だ。地球とコロニーの間に存在する物理的な距離。結果論にはなってしまうが、この距離が〝中途半端〟だったことが、戦争を生み出すステージを用意したと言っていい。この2つの間にある距離を縮めることは、正直に言って物理的に難しい。地球や月といった惑星に存在する重力が、〝リスク〟となって横たわるからだ。では逆に、この距離が簡単に往来できないほどに離れていたとすればどうだったか。実はこれも、人類が生きる場所がコロニーという人工物である以上、実際の建造や移住といった面で難しい。

 では、これらの問題を解決する手段はあるだろうか?出来るできないを別にすれば答えは簡単。「地球がもう1つあればいい」だ。実のところ、この可能性はそれほど低くはない。人類の惑星移住については西暦の頃から調査が始まっている。その頃にはすでに、人類が移住できる可能性を持った惑星が発見されてもいるのに加え、身近な火星などをテラフォーミング(惑星地球化計画)も進められていた。

 後者は残念ながら、現在も研究段階だ(むしろ戦争の影響でストップしている)。前者についても、大きな進捗があるわけではないが、対象となり得そうな惑星は、新たにいくつか発見されている。

 「ちょ、ちょっとまってくれる?ADaMaSじゃ、こんなトンデモ話が当たり前なの?やるにしても、実現までにいったい何世代かかると思ってるのよ」

予想外に疑問を挟んだのはpentagramのアイだった。普通に考えればアイの疑問は正しい。戦争という状況下におけるADaMaSの目的がコレだと言うのならば、戦争状況の地球を放棄し、ノアの箱舟さながらに地球圏を去るとしか聞こえない。それはつまり、これまでの自身の人生を否定しているに等しい。いくらなんでも、そんな計画に乗れるほど、聖人の域には達していない。

 「アイさん、何世代も必要ないっすよ。発見と移住の準備には数年かかるかもですけど、それ以降はたぶん、数日あれば往来できる・・・でしょ?局長?」

その場に居た者は大きく3つに分かれた。クルーガンの言うように、ウテナの計画がある程度見えた者、方法は見当もつかないが、ウテナならやりそうだと思う者、そして、「コイツら、アタマおかしいんじゃ?」と訝しむ者だ。

 「へぇ・・・やるね、クルーガン。それに・・・ヒュート、セシル、ジェイクもか」

ウテナはそこに揃っている表情を見渡し、3つのどれに該当してるのかを見定めた。

「説明、できるか?」

「反物質っしょ?あれは唯一、時間という神に挑戦できるシロモノですからね」

ヒュートがヤレヤレといった表情でウテナの課題に答えだした。ヒュートの言葉尻をジェイクが拾い上げる。

「空間という物質に反物質をぶつけて、空間の時間を引き延ばす。その反物質の内側を抜けることができれば、引き延ばされた時間の中を進むことになる。となると、入口と出口にどれほどの距離があったとしても、その往来は一瞬のできごとに過ぎないってワケですよね。さしずめ、反物質のトンネルってトコですか?」

 ウテナの表情が珍しくニヤリとする。もちろん、名前の挙がった4人以外は説明の省かれた話についていけないが、それでも、ADaMaSのメンツに限っては落ち着いた様子だった。

 「局長?1つだけ分からないんで教えてもらえます?・・・いつからですか?」

セシルの質問には多くの言葉が欠けている。それでも、ウテナはその質問を正しく理解していた。

「〝もしかしたら〟は依頼を受けた時、〝確信〟は性能実験の日だよ」

「ふ~ん・・・ってことは、お兄ちゃんは〝外宇宙惑星移住計画〟そのもに関して、そーとー昔から描いてたってコトよね?我が兄ながら・・・オツムのブッ飛び距離も外宇宙ね」

マドカが片手を額に当て、天井を見上げる。どれほど強力なNEXT-Levelを持っていようと、たとえそれが血を分けた兄妹だったとしても、この男の考えを理解するには足りないらしい。

「マドカ・・・そんなに褒めても何もあげないよ?」

「ホメられてないわよ・・・って、ツッコむのもバカらしいわね」

 今日初めてADaMaSの、ウテナの造り上げた戦艦に乗り込んだ幾人かは、これまで〝疑念〟や〝不信感〟をわずかでも抱いていたことを恥ずかしいとさえ思った。自分たちに与えられたMhwはADaMaSが、この男が造り上げた。その圧倒的な性能・・・いや、トンデモない性能を最も知っているのは自分たちだ。おおよそ常識の外側で造られたとしか思えないMhwを現実のモノとした彼らに、自分たちのもつ一般的な常識が当てはまるはずもない。もっと言えば、この感覚が彼らにとっての〝常識〟なのだろう。つくづく思い知らされる。〝常識〟とは全員が知っていることを指すものではなく、個人単位で思考することすら必要としない〝意思〟のことなのだ。

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