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第九部 A Few Later(その後)
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第九部 第2話 会談後、Valhallaにて

 「あそこの茶はウマかったなー。ちょっとツブしちまうのは勿体ない気がするぜ」

珍しく紅茶を手にしてはみたものの、その味に激しく後悔した後、カーズはルシオンの方に向けて言葉を発した。紅茶をリクエストしたのはカーズ本人だが、今回給仕したのはルシオンだ。

「ローズと比較すんなよ。アソコのハーブティーに勝てるよーなシロモノはここには無いよ」

ADaMaS(アダマス)を離れてどれぐらいの日が過ぎたろうか。少しぐらいは懐かしんだり、何か感慨が浮かぶかと思っていたが、思いの他そうした感情は浮かんでこない。どうやら心の底に沈んでいるのではなく、そもそも〝無い〟感情なのだと気付くが、そのこと自体に驚きは無かった。

 「ところで、アソコが狙われてるってホントっすか?」

手にしたグラスから、極小さな発泡と「シュワー」という音が聞こえている。ザイクンが飲んでいるのはどうやらコーラのようだ。さきほど口にした分が胃の中で空気を生み出し、喉を駆けあがっている様子がうかがえる。

「ああ、その情報は確かですよ。そうは言っても軍隊じゃないから、アソコがホンキ出したら負けるとは思えないがね」

 ルシオンの中で、マドカ・アカホシの存在は特別なものだ。それは今も変わらない。実際にマドカ専用機があるわけではないが、彼女に乗りこなせないMhw(ミュー)が無いことは知っている。それが例えeS(エス)であれ、REVAZZ(レヴッザ)であれ、軍隊でもない烏合の衆にマドカが遅れるとは思えない。マドカのことを一番知っているのは自分だという自負が彼にはあった。

 「表向き、彼らはMhw製造企業だからね。表立ってのMhwでの戦闘行動は、自衛であってもしないんじゃないかな。」

「んじゃ、黙って皆殺しにされるってのか?それこそあり得ねぇぜ?」

バカバカしいとばかりに、カップに残った紅茶を一息に飲み干すと、空になったカップを少々荒々しくソーサーに戻す。その勢いと2つが接触したときに発した音が、陶器製のそれらが砕けるのではないかと思わせる。

 「ちょ・・・そのカップ高いんだから、扱いはもう少し丁寧にしてくれよ」

「心配すんなよ、二度と頼まねえから」

そのカップはどうやらルシオンの私物らしく、割られてはかなわないといった表情を見せている。そんな2人のやり取りを見ていたザイクンは、「だったらソレで出さなきゃいいのに」と内心で思いながらも、「カーズさんに丁寧な扱いを期待する方が間違ってる」とも同時に思い至る。そもそもカーズに上品という言葉が似合うはずもない。

 「ディミトリーさーん。結局ADaMaSをどうするんです?敵?味方?それとも放置っすかー?」

ディミトリーとしては、ADaMaSを自陣に引き入れたかったのは事実だ。そして、かつてディミトリーであった者としても、その考えは変わっていない。それは、ADaMaSが単体の敵であったとしても、いずれかの陣営に与することになったとしても、その存在にとっては望まないことだった。

「できれば彼らとは敵対したくないというのが本音だよ。だがもし、彼らが敵対を意思表示するのならば、我々Valahlla(ヴァルハラ)の障害となるのなら構わない、全力で叩き潰せ」

 ウテナによって露呈したpluriel(プルリエル)という存在を理解している者は2人しか存在しない。ウテナと同席していたミリアークだ。カーズやザイクンであってもそのことを知らないが、その2人に関しては、そうしたことに興味が無い。それは2人を引き入れた理由でもある。

 ディミトリーがADaMaSを引き入れたい本当の理由はMhwに関することではない。少し違和感のある表現になるが、pluriel自身のメンテナンスがその目的だった。メンテナンスと言ってしまえば、定期的に行う必要があるように聞こえるが、実際のところ、plurielとしての存在を維持するために何かをしなければならないということは無い。それが必要と成るのは、〝反物質精製装置〟であり、それを成せるのはウテナだけ。そしてplurielと自ら名付けた反物質が実際に存在するのは、その〝精製装置〟の内部だからだった。

 実際に対面し、話をしたことで確信したことがある。ウテナはそのことを知っている。もしも彼らがValahllaを、plurielを打倒するのだとすれば、Mhw〝pluriel〟の撃破ではなく、精製装置に対する〝意図的な故障の誘発〟以外に手段は無い。Mhw〝pluriel〟の設計者は他でもないウテナ自身なのだから、その撃破が不可能であることは誰よりも知っているはずだからだ。

 もしも(といっても可能性は高いと感じるが)ValahllaがADaMaSと敵対するとなれば、言い放ったように全力で打倒する。精製装置が故障するかどうかに何も確証はないが、故障しないと言い切れない以上、問題は〝時間との勝負〟となる。故障する前に、自らの〝真の目的〟を達することができるかどうか、という話だ。

 「ディミトリーさんよぉ?そうは言うけどさ、確かにアソコの作るMhwは強力だよ?けど、Mhwがどれだけ強力だからって乗り手が居なけりゃ、ただの鉄くずだろ?」

「そうそう!多少乗れたとしても、コッチはADaMaS製と同等で、パイロットがボクたちなんだからさ、マジでヤりあっても向こうがムリゲーじゃね?」

自ら勝手にビールの缶を開けているカーズに同調するように、すでに空になったグラスを弄びながらザイクンもディミトリーに視線を向ける。

「1人、2人ぐらいは乗れるのが居るかもしれんがな。まぁ、むしろ問題はもう1人の女・・・ミリアークの方かもしれんな」

 ミリアークに関しては不明確な要素が多すぎる。いや、もっと正確に表現するならば、目に見える動きが多すぎて、どこに本命が隠されているのかが分からない。ミリアークはIHCの最高幹部であることは間違いない。だが、IHCが何かコトを起こすとは考えられない。ならば彼女が出資するTartaros(タルタロス)というNEXT-Level(ネクストレベル)研究施設はどうか?その研究対象が軍事転用されていたとすれば脅威だろうが、出資しているとは言え(多少は発言権もあるだろうが)、管轄はNoah’s-Ark(ノアズアーク)だ。ミリアークの独断がカンペキに通るとも思えない。

 そこに現れたのがあの2人の男だった。あの2人は知っている。13DとGMの幹部だ。軍事としては敵対関係にあるはずの3社が揃っているとなれば、その3社間に癒着があると考えるべきだろう。だが、ディミトリーの記憶にそういった類のモノは無い。となればやはり、企業間ではなく、個人での癒着だと考えるべきだ。

 あの3人がどういった目的の下に集まって居るのかは分からないが、3人が筆頭となる組織体が構築されていても不思議は無いどころか、可能性が高い。どれほどの企業がソレに参画しているのか分からないが、いずれも軍需産業だろうことは予想できる。ならばその組織はこの戦争において、武力を持つ一勢力だ。

 「ディミトリーさんはこうお考えですか?この戦争にはNoah’s-Ark、StarGazer(スターゲイザー)、ADaMaSとその企業連合、そして我々Valahllaの5つの勢力が存在すると」

「そうだ。あの時、我々3人が手を組めば、2つの軍を圧倒することもできたろうが、その後でいずれ争いになる。なら5つでニラみ合った方が面白いだろ?」

今日もやはりカウンターの向こう側に居るディミトリーに、それまでのディミトリーには似つかわしくない笑みが浮かぶ。丁度ブランデーを飲み干して空になったグラスを顔の正面に持ち上げているからだろう、その向こう側にいる3人から見えるその笑みが、ひどく歪んで見える。

 「へぇ・・・アンタがそんな風に言うなんてな。けど、ま、キライじゃないぜ?」

「カーズさん、むしろそういうの好きじゃないっすか。お互い様っすけど」

「オレの作ったMhwの優秀さを見せつけてくれるんなら何でもいいよ。好きに暴れろ」

3人のそれぞれの言葉を聞いたディミトリーの笑顔が、グラスを通さなくとも醜悪に歪む。不思議なことに、さらに歪んだその笑みは、グラスを通すと無表情に見えた。

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