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第八部 UNICORN's(可能性の獣たち)
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第八部 第14話 tears(誰にもどうしようもない怒り)

 「オペっ!無事だな?StarGazer(スターゲイザー)のヤローが勝手に盾になってくれて助かったぜ」

その言葉は、それを耳にした者を1人残らず硬直させた。その理由は立ち位置によって少々異なるようだ。

 「ベク・・・アナタ、なんてことを言うの?照れ隠しでも言ってはいけないコトバよ、ソレは!」

「ベクスター、旧友としての頼みだ。今すぐ彼らに謝れ。もしもそれができないのなら・・・今すぐこの場から失せろ」

2人の辛辣な言葉は当然のことだったろう。オピューリアからすれば、ベクスターのその発言は、婚約者であったとしても容認できるものではない。盾と成りその命を捨ててまで守った者はオピューリア自身だ。そしてルアンクからすれば、ベクスターは「ベク」と通称で呼べる〝友〟であり、自分の部下でもある。

 もしもこの2人の言葉が無かったなら、pentagram(ペンタグラム)の残された者たちは一斉にFAUABWS(ファウアバウス)に牙を向けたかもしれなかった。その行動を取る直前、pentagramの前に立ったThe()kuynbout(クインバウト)の、彼らを制止するような仕草が、寸でのところで堪えさせた。pentagramの4人は誰も言葉を発さなかった。

 マドカ・アカホシの駆る〝Snow-White(スノーホワイト)〟がその場に降り立ったのは、「失せろ」という言葉の直後に訪れた静寂の中だった。内部フレームが純白に彩色され、まるで透かし彫りの紋様かのようにシルバーで縁取りをされた透明な装甲を持つその機体は、背中と両サイドに生えるまるで翼のようなバインダーも相まって、戦場には場違い(あるいは打って付けなのかもしれない)な天使を彷彿とさせた。

 「キレイ・・・天使?」

最初に感想を発したのはオピューリアだった。彼女に代表されるように、その場を支配していた〝殺気〟にも似た〝怒り〟の感情が薄らいでいく。

「天使だったら良かったんですけど、すいません。私はマドカ・アカホシ。ADaMaS(アダマス)の開発Mhw(ミュー)テストパイロットです。あ・・・もうADaMaSはありませんけど」

 ふと周りを見渡せば、オピューリアの居る指令室には誰も居ない。どのタイミングでそうなったのかは分からなかったが、戦闘行動の終了(現にこの戦場で動ける兵器は彼ら以外に見当たらない)を判断した基地司令が撤退(避難)を指示したのだろう。オピューリアにも声はかかったはずだが、彼女の記憶にそれは無い。

「ADaMaSだぁ?技術屋がMhwに乗ってナニしに来たんだよ?オレたちのMhwを修理してくれるってんなら歓迎するけどな」

ただ1人、ベクスターだけが場の雰囲気に馴染めなかった。自分の発言から引き起こされた殺伐とした雰囲気に飲まれ、逆上したことで冷静さが失われてしまったと思いたいAIR-FORTH(エアフォース)の2人はしかし、彼の過去を知っている以上、アレが本心だったろうことも承知している。

 「ベク?キミの・・・守りたかった人を守ったのは彼らだ。その死には敬意を持つべきだと思う。僕はもう、彼らを敵として見ることはできないよ」

AIR-FORTHの中でまだ言葉を発していなかったケビンは、これが隊内での自身の役割だと言わんばかりに、片脚の機能を失ったpierrot(pierrot)をFAUABWSの側に置いた。

「ダメっ!!」

「待って!!」

「スマンな、ケビン。敵に成るヤツは見逃せないんだ」

マドカとウル。この2人にはベクスターの乗るFAUABWSが闇に飲まれる様が見えた。コクピットから生まれたその闇は、彼女たちの言葉を遮るかのようにFAUABWSとpierrotを包み込み、その闇の中で、pierrotはビームサーベルでそのコクピットを貫かれていた。それはベクスター自らの指示で改良され、携行することが可能となったFAUABWS自身のサーベルだった。

 「ああぁ・・・ベク・・・ゴメンなさい」

オピューリアは目の前で起こってしまった悲劇を止められなかった自分を責めた。彼女はベクが背負ってしまった憎悪を知っていた。最初はその憎悪を薄めてあげたいと思った。そうして時を過ごすうち、ベクスターから求婚されたが、その時彼女が抱いていた感情が〝恋愛感情〟だったのかは今も分からない。だが、彼女はそんな自分に納得し、満足していた。薄まったと思っていたベクスターの憎悪は、結局変わらなかったという現実を突きつけられたオピューリアは、その場で涙し、崩れ折れるしかなかった。

 「ベクスタァァァッ!!」

頭で考えた行動ではない。目にした光景に身体が、口が勝手に反応したようだった。ルアンクの身体はThekuynboutにビームライフルを構えさせ、トリガーを引かせた。銃口に光が宿り、その光は1本の線となってFAUABWSのコクピットを目指した。

 光の線は突如空へとその進行を変えた。ルアンクの眼前には、背部から伸びるアームに支えられたその片翼を前面に展開しているマドカのSnow-Whiteと、まだビームサーベルが刺さったままのpierrotを支えるように立つウルの観世音(カンゼオン)の姿があった。

 2人はpierrotが刺される前に動き出していた。彼女たちは決して未来が見えるわけではない。それでも、間髪入れず瞬間的に立ちあがった〝殺意〟を感じた2人にとって、それ以前から動き出せていたことは幸運だった。マドカは2機の間に入り込むことに間に合い、ウルはFAUABWSを殴り飛ばし、崩れ落ちようとするpierrotを支えることに成功していた。

 「お願い・・・これ以上はもうヤメて。ベク?聞こえる?私、アナタの抱えていた憎悪を、少しは無くすこと、出来てたのかな?」

それはとてもか細い、そして震えた涙声だった。オピューリアのものだ。彼女はまだ立ち上がることが出来ていない。窓から外を見るのが怖かった。床に膝をついたまま、ただうつむき、涙が頬を濡らしている。

 「くそっ・・・イテぇな。オペ、オレからそれを消せるワケがないだろ。それが無くなっちまったら、オレはもう・・・オレでなくなっちまう」

「そう・・・ゴメンね。独りよがりだった。今までありがとう・・・」

その声は今まで以上に涙が邪魔をしていた。それでも、オピューリアの精一杯の声は、その場の全員に意味を理解させるに十分だ。誰しもが、「それ以上言葉に出さなくていい」と思った。その言葉を向けられたベクスターでさえも。

「オペ、もう喋るな。それ以上喋れば、オレはオマエも敵と見なきゃならなくなるだろ」

そのベクスターの言葉は全てオピューリアに聞かれてしまっただろうか。ウルは観世音システムを起動させ、FAUABWSの全てを封じた。おそらく外側から誰かがこじ開けない限り、コクピットから出ることもできないはずだ。

 ビームサーベルはMhwが手に握ることでエネルギーの供給を確立している。柄の部分にある程度はチャージしておけるが、それほど長い時間、手から離れてビームを精製し続けることはできない。pierrotのコクピットに突き立てられたビームサーベルもまた、内在するエネルギーを使い果たしたのだろう。光が弱まり、pierrotから抜け落ち、地面に転がる頃には、完全に光を失っていた。

 誰も言葉を発さず、周囲の喧騒すらも声を潜めたその地に、オピューリアの堪えようとしても漏れ聞こえる嗚咽だけが、それぞれのコクピットに響いていた。

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