第八部 第13話 自来也(誰が、何を、護るのか)
「ナニ、ココ・・・。どうしたらこうなるの?」
見える限り、Mhwと戦闘機の残骸がアチコチに散らばってるんだけど。PentagramとAIR-FORTHを含む大部隊が衝突してるって知らせ受けて飛んできたけど、そりゃあね?すでに戦闘が始まってるってことは知ってたよ?けれど、こんな結果は見たことも聞いたことも無いんだけど。これじゃまるで、戦場全体を何か巨大なフライパンかなにかでぶっ叩いたみたい。
すでに戦闘行動が終了して、両軍とも引き上げた後?けれど向こうでまだ火の手が上がってるしな・・・それもけっこうな勢いで。もしかしてpentagram側が圧勝しちゃった感じ?見える限り、動きのある機体は1つも無いよね・・・あっ!
「アッチにまだ居るね」
なんだろう?すっごく強い意識が10個ぐらい揃ってるっぽいな。どーも急がないとマズいっぽい。なんだかイヤな予感がビシビシ伝わってくるよ。
見えてきた。pentagramの5機とAIR-FORTHの3機、それとアレは・・・ダカールの映像でチラっと映ってたヤツだな。なんだろ?アレからヘンな感じが伝わってくるな・・・子供?なんかこの状況を楽しんでるように感じるな。
PentagramとAIR-FORTHの機体はけっこーダメージあるね。互いにヤり合ってたトコにあの紫のが来たって感じ?でないとああはならないか。けれど、私の目的はあの8機だから、紫の子には退場してもらいたいんだよねー。もし乗ってるのが子供だったとしたら、やりづらい事この上ないな。
「あっ!まだ動かないでっ!って、ムリかぁぁ」
正直、スローモーションのように見えた。走馬灯じゃあるまいし、縁起でもない。紫のヤツが後退しながら1発だけトリガーを引いたのが分かった。構えたライフルの先っちょから、火薬で押し出された弾丸と、ソレを追うようにケムリが飛び出してきたのが見えた。
見た感じ、pentagramとAIR-FORTHの両方とも紫の動き出しに集中してたと思うんだけど、そのワリには反応が少しニブかったよーな気がするんだよね。なんとなくだけど、向かってくることに対して集中してたんじゃないのかな?それが意表を突くフルバックブーストだったもんだから、コンマ数秒遅れで射出された弾丸の方に反応するしかなかったってトコかな。
それにしても紫の子、やるなぁ。意表を突いたのもそーだけど、動いた状況から見て1対8だったようだから、離脱は正解。しかも、8機の状況考えれば、射撃兵装を持ってるのは観世音の大砲とFAUABWS(なんで本体だけでいるんだろ?)のキャノンしか無い。Thekuynboutもビームライフルは持ってるけど、頭部が無い。ってことは、正確に照準合わないからね。大砲とキャノンじゃ、あの速度で移動すればまず当たらない。しかしも、私の存在に気付いたんだよね。突然直角に左へと向きを変えてった。
問題はたった1発だけ射出した弾丸だったよ。お兄ちゃんから聞いてたけど、あの機体、ホントに弾丸の軌道操作ができるんだ・・・弾丸が曲がりながら、いくつかの機体の間をすり抜けた。あの紫の子、どーやらホントの目的は基地の壊滅だったみたいね。彼らの後方で3つの大きな炎と、そこからもうもうと立ち昇る炎が見える。そして、1つの炎の隣にまだ倒壊してない建物があって、弾丸はそこを目指してた。
たぶん、紫の子を操ってるパイロット最大の誤算は、観世音のパイロットの存在だったはず。私もまだ直接会ったことはないけれど、観世音に乗ってる子は、高い能力を持つNEXTだって判る。その子だけが、紫の真意に気付いてた。観世音のパイロットって確か、まだ19歳のピチピチ女の子だったはず。きっとコクピット内で叫んだ声なんだろな。「狙いは棟ですっ!!」って聞こえてた。その声は、弾丸が射出されるよりも早かった。
「黒王に任せろっ!」
そう叫んで棟の方へ向きを変えた機体があった。黒王の持ち主、自来也。そのパイロットは確かタクヒ・メイゲツイン。Pentagramのみんなは、実は私と故郷が一緒なんだよ。世界からみたらとっても小さな島国。その出身者なら〝メイゲツイン〟の名前に聞き覚えがある人がほとんどだと思う。それほど有名な名前。結局、直接顔を合わせることは無いけれど、私もADaMaSのみんなも、彼を忘れることは無い。
「タクヒっ!よく止めたぁっつつ!!」
すでに紫の子は離脱したその場所で、木花之佐久夜のパイロットが叫ぶ声が聞こえた。けれど、それに対する反応が無かったの。
「あ、ありがとう・・・ん?」
Thekuynboutに乗るパイロットは気付いたみたいね。弾丸を、飛び上がりつつ構えた黒王のハラで受け止めたはずの自来也が、防衛を果たした後の着地時にそのまま態勢を崩した。倒れることこそ無かったけど、普通に着地した体勢とも思えなかったよ。
「エ?ウソでしょ?・・・ちょっと・・・アレ、黒王に・・・穴・・・」
そう。黒王の中央には、黒王からすれば小さな穴が開いてるの。静御前のパイロットが目にしたことは正しい。その穴はまるでコルクを抜いたみたいにキレイに貫通してるの。
「わた、わ、私が言わなかったら良かったんですよね?ううん、気付いた私が動けば良かったんですよねぇ!ねぇ!アイさぁんっ!!」
確かに誰よりも先に気付いたのは観世音のパイロット。だけど、もし言うように自身で止めに行ったとしてたら、自分もろとも後ろの建物も貫かれてた。あの弾丸を止めることが出来たのは、その場では黒王を持ってる自来也だけだったんだよ?私は見えたんだ。たぶん、弾丸が黒王を突き破った瞬間に判断したんだと思う。自来也は咄嗟に手を背中側に回したんだ。そしてその瞬間、掌がちょうどコクピットの背中側で開かれたと同時に、その掌が歪んだんだ。その掌は、大地に各座した今でも、背後に回されたまま、そこにあるんだ。
「タクヒ・・・タクヒぃぃ!」
「行くなっ!タクヒは死んだっ!それとも何か?アイツが粉々になってる姿を見たいのかっ!?」
どっちの気持ちも分かるよ。どっちも仲間を想う気持ちだよね。そんなすぐに仲間が死んだコトなんて、認められないよね。そして伊邪那岐のパイロットさん。自分が崩れてしまいそうになるのを必死に抑えてる。
あの紫の機体が放った弾丸は、7機のMhwの間をすり抜け、黒王に穴を開け、自来也のコクピットすらも貫いた。それは自来也の掌を歪めてようやく止まったんだ。Mhwからすれば指で摘まめる弾丸でも、人と比べればそれは同等の大きさ。想像したくもないけど、高速で回転する人間大の弾丸が人間に直撃したとしたら・・・それは見たことを後悔する凄惨さなんだろう。pentagram内の人間関係がどうだったのかはよく知らないけれど、仲間のソレを目にしたとしたら、その人はきっともう、二度と立ち上がるコトなんてできない。
自来也のパイロットはStarGazerの軍人さん。なのに彼は、Noah’s-Arkの軍事基地を守った。ホントはそんな義理も義務もなかったはず。でも敵だからってどうなってもいいってコトじゃないよね。彼はきっと、自分の信念に基づいて行動を起こしたんだ。それは叫んだ観世音の子もそう。狙いが分かったとして、自分たちじゃないなら放っておけばよかった。けれど彼女はそうしなかった。敵味方にカンケーなく、危機を知らせたんだ。
全員かどうかはまだ確信が持てないけど、今あそこに居る内の何人かは、信頼を預けることができる人たちだと思う。私はあの人たちと話がしたい。




