第八部 第12話 Mentalist(ザイクン・ネップード)
「ベクっ、ケビン!来るぞっ!!」
正直なところ、射撃で来ると考えていた。ザイクンはオールラウンダーなMhw乗りだとは聞いているが、ヤツ自身が「魔弾」と言っているうえに、機体を見てもその武装は射撃に寄っているように見える。近接格闘系の装備はあってもサーベルぐらいなものだろう。
Freikugelが少しばかり沈み込んだ瞬間、ヤツが斬り込んでくると思った。実際にそうなったし、ベクとケビンは僕の声に反応して機体を上昇させようとした。僕もそのつもりだったけれど、咄嗟で僕たち3人の動きを変えさせたのは、まだ幼いとも言えそうな女の子の叫ぶ声だった。
「違いますっ!みんな避けてっ!弾丸が来ますっ!!」
ザイクンが〝GameMaster〟と呼ばれていることは知っている。ヤツが無類のゲーム好きなのと、戦場をゲームに見立てていることからそう呼ばれていると聞いていたが、たぶんそれは〝結果的に〟そうなのだと、瞬間的に頭が理解したんだと思う。
ゲームに登場する敵は所詮プログラムだ。プレイヤーの動きや状況に合わせて、どれだけあるのかは見当もつかないけれど、複数のプログラムから、例えば攻撃方法が選択され、実行される。たとえそれが対人のゲームであっても、プログラムされている動き以外のことはできない。
コイツは相手の行動を瞬間的に予測しているんだ。もちろん、こちらの動きの可能性全てを予測することはできないだろうし、仮にできたとしても、どれほどのパターン数になるのか数える気も起きないほど膨大な数のパターンを予測しても意味がない。コイツの予測は、その前に〝誘導〟があるんだ。膨大な数の行動パターンの中から、選択し得るパターンを絞り込めるように誘導している。時折そういった駆け引きをした覚えはあるが、コイツに限っては〝常に〟誘導し続けているらしい。さすがに狂犬の双璧なだけはあるってことか。
ザイクンは高速で斬り込むコトで僕たち3機を上昇させ、そこへ射撃を撃ち込みつつ、さらに僕たち3機に突っ込むことで、彼女たち5機の動きが一瞬硬直することを予測していたんだ。そしてその隙を逃さず、最も近くにいるお姉さんの機体を斬り落とし、上手くすれば僕たち3機の内誰か、あるいは全部を撃ち抜くつもりだったんだろう。
「おかげで助かった!狂犬のゲームマスターか・・・」
「まだですっ!2段階っ!!」
ザイクン・ネップード・・・この男、これほどかっ!あの機体(と言うか弾丸?)の性能を可能な限り最大化してくる。「弾丸を曲げて来る」かもしれないというのは予測できていた。最初の1発は少女の声で8機とも回避できていた。見えたワケじゃないけど、たぶんお姉さんを狙った弾丸が、サクヤヒメに避けられた後、再度方向を変えてThekuynboutを狙ってきた。
「なん」
「だって!」と続けようと思ったけれど、後ろから爆音が聞こえ、続ける言葉が口から出てこなかった。後方、つまり基地の方から聞こえたその爆音は、残されていた2つの大きな建物のうち1つが破壊された音だった。
〝これほどか〟と驚いたさらに上を、ザイクンは突いていたってことか。見れば、ベクは被弾したフライトアーマーをパージしている。ケビンも片足に被弾して飛行バランスを著しく崩したようだね。それに僕だって、もともとお姉さんに斬り飛ばされてたから助かっただけで、記録されている弾丸の軌道は、Thekuynboutの頭部位置を通過している。そして、8機を狙った弾丸のいくつかは、ザイクンがもともと標的にしていた基地をキッチリ破壊している。
「すまない・・・コイツがこれほどの脅威だとは思ってなかった。ソッチは無事か?」
「死んでは無いわね・・・2機が被弾したわ」
なるほど、現状で無傷なのは〝盾持ち〟と〝猫耳〟だけか。他の6機はどこかの部位を失ってるってワケだ。くそっ・・・ザイクンが(顔は知らんが)コクピット内でニヤけてる姿が浮かぶようだよ。
「ベクっ!基地の方は・・・オピューリアたちは無事かっ?」
「あ・・・ああ。オペの居た方じゃねぇよ・・・けど!何なんだよっコイツはっ!弾が飛び回るなんて有り得ねぇだろっ!!」
まずい。ベクスターが冷静さを失ってる。ケビンの方も生きてはいるが、片脚の機能の一部を失ったpierrotじゃ、立っていることはできても真骨頂の飛行はままならないよな。情けなくもお姉さんたちに期待したいところだが、向こうもどちらかと言えば攻撃寄りの機体は全て被弾している。
それにしてもあの〝猫耳〟のパイロット・・・彼女の咄嗟の声が無かったら、被弾程度で済んじゃいない。と言うか、ザイクンがトリガーを引いて弾丸が発射された後、個々の弾丸が着弾するまでどれほどの時間があった?弾丸の動きはモノによっては、Mhwのサイズなら見える。だからと言って、人間の反射神経で避けれるといったレベルじゃない。猫耳は何故分かった?踏み込みがフェイクであり、弾丸が2度曲がることを、どのタイミングで知った?
間違いない。猫耳のパイロットはNEXTだ。実際にどれほど事前に察知できていたかは分からないが、あの指示は事前に分かってなければ不可能だ。記憶を出来る限り鮮明に遡っても、猫耳は魔弾が放たれる前に叫んでいたはずだ。お姉さんもイジワルだな。こんな隠し玉を黙ってるだなんて・・・いや、もしかしたら仲間内でも、さらには本人ですらも気付いてないのか?
いずれにしても、ベクスターとケビンは大変そうだけど、僕には少し余裕ができた。ザイクンのFreikugelが動きを止めている。明らかにこちらを警戒している雰囲気が伝わってくる。ヤツはこちらに高いNEXT-Levelを持つNEXTが居る事に気付いただろうけど、8機のうち誰がそうなのかは分かってない。無傷は猫耳と盾持ちだけど、だからそのどちらかがNEXTだと断定することもできないだろう。
ヤツの流れを断ち切れたことはラッキーだったね。それでもヤツの強さに変わりはないし、有利なのもヤツだ。これに対して僕たちはと言えば、無傷の猫耳と盾持ち、次に軽傷なのが野生児か。FAUABWSはユニットを失いはしたけれど、本体のMhwとしては無傷と言えるかな?そして頭部破損のThekuynboutと片腕のサクヤヒメ。ザイクンは最後の1棟を狙ってくるはずだ。ヤツを止めるには全機でかかる必要がありそうだけど、問題はベクスターかな。StarGazerを目の敵にしてるベクスターが、はたして彼女らと連携できるのかどうか・・・
やけに周囲が静かに感じる。ザイクンの向こう側ではMhwと戦闘機の入り乱れた乱戦が続いているはずだ。方や、僕たちの後ろでは4つある棟のうち3つを失い、いたるところで業火に焼かれている。その2方の真ん中に立ちながら、静かだと感じるなんて・・・どうやら僕は知らずの内に集中しているらしい。周りのどんな喧騒すらも僕の集中が作った壁を越えて来ることはできないみたいだ。
何に集中してるのかって?今更ながらADaMaSのメッセージが沁みるけど、僕の信念を貫くためさ。僕が軍人に成った理由は、目に見える範囲に映る人々ぐらいは守りたい、護る力が欲しいと思ったからだ。これ以上、誰かを犠牲にしてたまるか。




