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メルティ✕ギルティ〜その少女はやがて暗夜をも統べる〜  作者: びば!
0章。それは、物語のはじまり
8/80

5。メルティとキツネ一家

面白いんだぜ!!

いつの間にかすごいpvになってて驚いてんだぜ。


読むんだぁあああ!!

「……キッちゃん……?ほんとにキッちゃんなの?」

「はい、お母さん、私です……!キツネです!」

「キッちゃん……!」

「お母さん……!」


 ひしりと熱い抱擁を交わす親子。

 キツネの母親らしき女性は大粒の涙をこぼしながら、キツネの身体を撫でて、

「どこか痛いところないかしら?」

「ほらはやく、お家に入ってお休みなさい」

 と言っている。


 ようやく失踪した娘が戻ってきたのである。

 さすがにそこに割り込むほど野暮じゃない。

 メルティはただ静かにドア横の壁に寄りかかって、親子の再会を淡々と眺めていた。


 ――渦巻く瞳の気持ちは、誰にもわからない。


 幾分後。

 一通り満足したキツネの母が、顔を持ち上げた。

 安堵の顔色に、戻りつつある。

 しかし長い、長い夜で彼女の精神はかなり削られていたようで、歓喜にも疲れがにじみ出ていた。


「……それで――キッちゃん、後ろの子も紹介してくれるかしら?」


 はっとメルティの方を見るキツネ。

 完全に泣きじゃくるのに夢中になって、メルティのことを忘れていたらしい。

 気まずそうな――あるいは気恥ずかしそうな表情をみせた。

 両目とも真っ赤だ。


「……ぐす。あ、え、と、その、……忘れていました。えへ……。お母さん、この子はメルティちゃん。私と――ほかにも誘拐された子、いっぱい助けてくれたんです!そ、その……と、とにかくすごい子なんです!」


 身振り手振りで、なんとかしてメルティの凄さをアピールしようとするキツネ。

 彼女をどうどうと宥めながら、メルティは軽く頭を下げた。


「……キツネ落ち着いて。……わたしはメルティ。メルティ・イノセント」


 ちなみに目上っぽい人や、お世話になる人には頭を下げて挨拶、というのは副ギルドマスターからの教えである。


「あら、可愛らしい子ね。わたくしはキッちゃん――キツネの母のオーリンよ。今回はほんとに助かったわ。おかげさまでまた、キッちゃんとこうして居られるんだもの」


 ぎゅっとキツネを抱き寄せようとするオーリン。

 しかし今度は恥ずかしさが勝ったようで、キツネは、


「お母さん……私はもう十二才だよ」と言って膨れっ面になった。

 そして母のほうも「それくらいいいじゃない……」と口を尖らせる。

 二人のやり取りを黙って聞いてから、メルティは「どうも」とだけ言って、コートの襟で口元を隠した。


「さて、詳しいお話は後ほど、お父さんが戻ってきてからにしましょう。それでメルティちゃん、親御さんに一度、お礼を言いたいのだけれど……」


 親御さん。つまり、両親。


「あー」


 道中の会話で家族の話もしたため、メルティに家族らしい人は居ないことをキツネは知っていた。


 メルティにちらちら目配せをしながら、なんとか取り繕おうとするキツネ。


「キツネ、大丈夫。話す」


 それからメルティは、大まかな話をオーリンに伝えた。


 親は特にいない(というか知らない)こと。

 家もないから、基本的には屋根の上で過ごしてきたこと。

 それから――今はここ、フッサ家の屋根に住み着いていること。


 など、など。


 彼女が話しているうちにオーリンの表情はどんどん変わって行き、最終的には感銘を受けた様子で、メルティを胸に抱き埋めた。


「辛かったのね……グスッ……よく今まで頑張って生きてきたわ……偉いわ。ほんとに偉いわ。安心しなさい、これからは何か辛いことがあったら、わたくしに頼ってちょうだい。力になるわ!」


「えーっと。……ありがとう」


 と、空返事なメルティ。

 頭の中では、


(あれ、屋根を使ったことで怒られるかと思ったのに。なにも言われなかった)

(なんかオーリンさん、キツネと似ている……「おやこ」、だからかなぁ)

(あでも、胸すごい。マシュマロだ。ふかふかだなぁ)


 ……と、考えを巡らせていた。


 するとそこに割り込む声。


「あーっ、ずるいですお母さん。その役目は私のです!」


 母の懐からメルティを奪い返すキツネ。

 床のカーペットに座り、メルティを膝の上に乗せると、なでなでくりくり。


 なんの役目なのかはもう突っ込まない。

 メルティは半ば諦めといった感じで、そっとキツネに体重をかけた。

 ちょっと高めの体温が、伝わってくる。


「……ん……」


(たまには、こういうのも悪くない……)


 口角をあげて微笑を浮かべ、メルティは電池が切れたように瞼を閉じた。




 見えるのは、黒い影。


 見慣れない雨。


 手を伸ばそうとしても、動かない。


 突然目の前に現れる一人の少女。


 真っ黒だ。


 だけど、わかる。


 この子は、キツネだ。


 でも、真っ黒だ。


「キツネ」はメルティに目をやることもなく早歩きで去って行ってしまった。


 呼び止めようとする。

 あれ。

 声が出ない。

 手を伸ばす。

 足を伸ばす。

 重い。

 一歩一歩が、とてつもなく重い。

 ただひたすらに、頭になだれ混む悪意。憎悪。悲愴――。




 どれほど時間が経ったのか。

 うっすらと意識を取り戻す。


(もしかして、さっきまで眠っていた?)

(今までほとんど眠って来なかったわたしが……眠った?)


 それに、さっきの夢。

 夢にしては嫌にリアルで、よく覚えている。

 でもそれが仮に夢じゃなくて、本当に近いナニカなら……。


 メルティは自分の頬に触れた。


 ……濡れている。


(泣いたの?)

(……わたしが?)

(泣くってどんな感覚なの)

(全然、わからなかった)


 だが、もし本当にメルティが泣いていたなら。


(わたし、なんで泣いたんだろう)

(泣くって、さっきのキツネとオーリンさんみたいな感情だよね)


 メルティも、色々な場面を見てきた。

 泣くことだけでも、いろんな色がある。

 悲しみ。悔しさ。感動。安堵。


(わたし……悲しかったのかな)

(やっぱり、ぜんぜんわからないや)


 目をゆっくりと開ける。

「んえ……?」

 メルティを抱き枕にして、キツネはすぅすぅ寝息を立てていた。

 彼女を起こさないように、そっと上半身を起こす。

 なんだか暗いなと思えば、もうすでに夜だった。

 オーリンさんが移してくれたのだろうか。

 場所は……どこかの寝室のようだ。

 メルティたちの上には、一枚の毛織りブランケットがふんわりかかっていた。


 メルティは次に、キツネを見た。


 ――キツネ・フッサ。


 出会いは、唐突に始まった。

 マータに推されなければ、出会うこともなかっただろう。

 そうなっていたら、一体……どんな未来が待っていたのだろう。

 あの小太りの男がやったことは、間違いなく犯罪である。

 本人がどんな理由で、どれほど苦しくても。

 獲物を狩るが如く機会をうかがって、誘拐することは間違いである。


 ――果たしてあの中で、キツネは今みたいに気持ち良さげに眠れたのだろうか。


 他の子達は?


 その親は?


 屋敷を出たとき、大勢の少女たちがメルティを囲んで頭を下げていた。


 その時は心そこに有らずであまり聞いていなかったが、感謝されていたのだなとメルティは思い返す。


 ――むず痒い。


 けど、悪い気分じゃない。


 炎の暖かさとはまた違う。

 懐かしさが、全身を駆け巡る感じ。


(そっか)

(そのムズムズってするのを、キツネから感じたのかな)


 ギルドマスターのお説教とも、マータさんの可愛がりとも違う何か。

 形容のしようもないもの。


 出会って一日も経たないくらいなのに、もう同じ部屋で、同じ毛布をかぶって寝ている。

 不思議なものだ。


(……変な顔)


 何か摩訶不思議な夢でも見ているのか。

 目まぐるしくコロコロ変わるキツネの顔つきに、メルティは思わず吹き出した。

 そっと手を伸ばす。


「つかまえましたっ」

「!」


 目をぱっちり開けたキツネに、手を掴まれてしまった。


「もー、メルティちゃん。いたずらはメッ、ですよ」

「……いたずらなんてしてない」


 そっぽを向くメルティ。


「本当ですー?じゃあ今お手々を伸ばしたのは、何ティちゃんですかぁ?」


「……イエティ(※雪のモンスターの一種)」


「あはははっ、メルティちゃんも冗談言うんですねぇ」

「……」

「もう、可愛いですねぇ。キツネ(株)謹製のヴァルヴァドの実をプレゼントしちゃいまーす」

「ん、もらう」


 と、そんな時。

 ドアの向こうから、聞こえるノック音。


「お二人とも起きたのかしら?ほら、お腹、すいたでしょう。お父さんも帰って来たから晩御飯にするわよー」

「あ、お母さんだ。……お父さん、やっと帰って来たのですね」


 どこか愉しげなキツネ。

 ウキウキ顔で「はーい、いますぐ行きまぁす!」と返事した。


「良かったね。楽しんできて」


「何お馬鹿な事言っているのですか。メルティちゃんも行くのですよ」

「え」

「ほら」


 キツネが差しのべた手を、じっと見つめた。


 ――ぎゅっ。


(……暖かい)


「そういえばさっき、変な夢を見たんですよ」

「……どんな夢?」

「雪女が電池切れでイエティになって、メルティドラゴンを飲むんです」

「イエティ被った」

「あはは、すっごい偶然ですよね」

「ゴクゴク?」

「はい、それはもうゴクゴクでしたよ」

「メルティドラゴン、液体だった……?」

「そうですねぇ、液体だったら――」


 食事部屋までの一本道。

 くだらないけど、ずっとずっと止まらない会話。

 メルティは心の中の、中の、中の……そのどこかで、黒いナニカが溶けていく気がした。

 振り返ると、さっきまで寝ていた寝室が、小指の爪サイズに見えた。


 ――まるで、氷がホットミルクの中で溶けていくような。


 ――あるいは、バターがパンの上でとろけていくような。


「ここですよ」

 メルティはドアノブに手をかけた。


 勢いよく開けると、ブワッと暖かくて明るい空気が、メルティの体をいつまでも包んだ。



読んでくれてあざっす!!


次回更新は4/4(木)だぜ。


お楽しみにぃ!!

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