表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
メルティ✕ギルティ〜その少女はやがて暗夜をも統べる〜  作者: びば!
3章。学園編〜それは、蝕まれた憧れ・下
75/80

72。メルティと涼南

おまたせ

ようやく危機を感じたのか、幼虫はその肥満な肉体を捩らせた。

それだけの巨体だと、ちょっとした動きでも被害は甚大だ。メルティは足を滑らせ、落下した。

「メルティちゃん!!」

キツネの叫び声。

それと共に、メルティはいくつもの球体に跳ね上げられた。

魔法で、果実に【ダメージ吸収】を付与したのだろう。

それを足場に、もう一度相手の背中に乗る。

意地汚くのたうち回るその巨体。

「もう、終わりだよ」

メルティはポーチから、もう一枚のカードを引っ張り出した。

そしてそれを噛み千切り、両手を幼虫の体内に鋭く差し込んだ。


「【リョナたん】、いくよ」

――『準備、完了』


「『……【執刀(チルギィ)】』」


パリン。

ヘッドホンを、そしてマイクを包んでいた黒ずんだ膜が剥がれた。

光とも、闇とも言えないような色をした剣が、次々と幼虫の体内へと侵入していく。


聖魔法。

それは、心の拠り所となる「神」から肉体を分け与えてもらう魔法。

――と、言われている。

そのため聖魔法に分類されるものは基本的に、強力で人知を超えている。

例えば治癒魔法。

例えば蘇生魔法。

例えば退魔。

メルティはどうして聖魔法が使えるのか?

正確に言えば聖魔法は【闇配信リョナたん】由来である。

彼女の悪意、憎悪の念を借りることで、得られたモノである。

ではなぜ、【悪役】の肩書を持つ彼女、聖護院(しょうごいん)涼南(すずな)は聖魔法を心に抱き得るのか。

「……きれい」

メルティは微笑んだ。

舞台裏で見守ってくれている、一人の少女に向かって。

鈍色が溢れ出す相手の傷口に、幾筋もの光が浸透していく。

その光は淡く、それでいて力強い。


メルティ・イノセント。

今まで閉ざされていたやるせない気持ちも、モヤモヤも、不幸も、その全てを受け止めてくれた存在。

そんなメルティに差し延ばされる手を、涼南はすがるように受け止めた。


――この瞬間、涼南は「昇華」した。


かつての涼南には、大きな夢があった。

辛くて苦しいときもあったけれど、それと同じくらい夢を持っていた。

――その分、我慢の限界を超えたときの「悪意」は人一倍大きかった。

彼女は思い出す。

あの変な眼鏡をかけた男に、「スカウト」されたときのこと。

――『これからの涼っちゃんの主人はね、面白い娘だよ。涼っちゃんのこともきっと、理解してくれる』――

これを言われたときに、その主人とやらを殺そうかと思った。

誰も、自分と同じ経験をしたことがない。

両親に養育放棄され。

校長に穢され。

変な噂が流れて、退学して。

どん底に落ちて。

生きるために配信にすがって。

【リョナたん】になって。

ファンたちのリクエストに夢中になって。

解剖と縫合の快楽に中毒になって。

ついには暴力ばかりだった彼氏を連れ込んで、分解して。

もっともっと、ファンが増えて。

もっともっと、自分の身体も解剖してほしいという熱烈なファンが現れて。

徐々に、徐々にエスカレートしていく。

こんな経験を、したことがあるはずがない。

それだというのに、「善い大人」たちはみんな口々偉そうに慰めてきた。

担任も。親代わりも。

――「きっといいことある」

――「まだ若いんだから」

――「私たちだってつらい」

大人としての立場を保ちたいだけなのかもね。

何もしないと、周りの目が痛いから。

本当は「面倒な()に当たったな」くらいしか思っていないくせに。

本当に助けを求めたときには、一回も話を聞いてくれなかったくせに。

私の頑張りを、一度も認めてくれなかったくせに。


――なんでそういう時に限って、大人面をするのかな。


本当に、無責任だ。

その慰めはさ、私と同じ道を全部味わってから言ってもらえるかな。

涼南はそんな怨恨を、メルティにぶつけ続けた。あわよくば体を乗っ取って潰そうとすら思った。

それなのに、メルティはずっと平然としていた。

こうして舞台裏での真っ暗な日々を過ごしていると、涼南は自分が滑稽に思えてきた。

あれだけ暴れておいて、結局なにも変わっていない。

ただ、心にたまった「悪意」をメルティにぶつけるだけ。

考えれば考えるほど、ショックだった。

これではまるで、赤ちゃんみたいではないか。

……そう、赤ちゃんのオムツ替えだ。

溜まったものを出して、勝手に騒いで、相手にしてもらう。

自分では何もできないクセに、声の大きさは人一倍。 

そんな自分を見つめなおすと、ぞわっとするような嫌悪感と恥ずかしさを覚えた。


やがて、メルティと頻繁に会話するようになった。

メルティが戦っているのを、自分の目で見るようになった。

力は、貸してあげなかった。

最後の抵抗(わがまま)のつもりだった。

けれど。

メルティがシャルメイ王女と「喧嘩」するところを見て。

メルティが屍のドラゴンと対峙するところを見て。

メルティが今、女王蜂を奪還するために頑張っているのを見て。

涼南は思った。

――自分は今、何をしているのだろう。

何を考えているのだろう。

メルティは、手を差し伸べてくれた。

自分は、何ができるんだろう。


……変われるの?

戻れるの?


あの頃の、無垢な自分に。

「お医者さんになりたい」と言って、毎日のようにおままごとをしていた自分に。


ううん。

戻れない。

自分がやったことが、社会にもたらしたことが、消えることはない。


でも。

でも……!


もう一度、あたしも――頑張っていいのかな。


涼南はわらった。

蕾を開くようにしてわらった。


――『そろそろ……日差しが恋しいや』



「……っ!」

一筋の危機感。

メルティは空飛ぶソファに手を添え、反動を推進力にしてとっさに虫から離れた。

次の瞬間、ソレは羽化した。


メルティが繰り出した破邪の光すらも飲み込み、ソレは成長した。

形作るのは、一体の蝿。

あるいは「蝿の王」と呼ぶべきかもしれない。


――まずい。

メルティは直感的にそう思った。

これは「持久戦」に持ち込まれている。

もしもソレが産卵したとしたら。

もしもソレらが孵化したら。

どれほどの幼虫がまき散らされるのだろう。

どれほどの被害を生むのだろう。


このまま進めば――ゲーム、オーバー。


『ほんと気持ち悪い奴ね』

「え」


メルティは横を向き、そして目を見張った。

自分の肩に、二頭身の女の子が座っていた。



「……涼南?」


体力切れです。


次回更新は11/24(日)


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ