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メルティ✕ギルティ〜その少女はやがて暗夜をも統べる〜  作者: びば!
3章。学園編〜それは、蝕まれた憧れ・下
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71。メルティと虫退治②

「ギニャぁああっ!?……た、大変ニャーッ!!」


「ミャオちゃん!?」

「大丈夫なのだ?」

三人は声の源へと駆けつけた。そこに広がるのは色とりどりのガーデン。所々に木が生えており、蜂の巣を果実のようにぶら下げている。


騒動の中心は、その巣のうちの一つ。絶え間なく火吹く蜂を沸かせながら、上空へと登っていた。(点打つ)

地面にへたりと座りこんでいるシャオミャオ。

涙目のまま、彼女らの方へと顔を向けた。


「終わったにゃぁ……」

「まだ平気なのだ。あの巣を取り戻せばいいのだ?」


鼻水を拭き取ってあげつつ、シャルメイがなだめる。

シャオミャオは嗚咽をもらしながら小さく頷いた。よほどパニックになっていたらしい。


「……ニャ……フレアホーネット(蜂の一種)の巣の点検をしていたら、突然どこからか幼虫がやってきて、そのまま巣を盗まれたニャ……あれ一個なくなると他の()たちも逃げちゃうニャ」


空を見上げる。

蜂たちに火責めをされながらも、一体の巨大な虫が空中を悠々と泳いでいた。その背中に生えるは一対の翼。

……羽根ではない。天使の絵に加えるような、あの純白の翼だ。

まるで、似合っていないアンバランスさである。


「それならその幼虫を倒して来ましょう。メルティちゃん、強火で――」


早速行動に移そうとメルティの手首を取るキツネ。


「それは勘弁ニャ!……わがままなのはわかるけど聞いてほしいニャ」

「あっ、聞きます、聞きます。だから落ち着いて話してくださいな」


キツネ(とメルティ)にあやされながら、シャオミャオはひと深呼吸して説明し始めた。


「フレアホーネット」。

この世で唯一、契約を行う蜂種。

もしもこの「フレアホーネット」から蜜や受粉などの利益を得たい場合、家主は彼らの「契約担当」と契約を結ぶ必要がある。

逆に言えば「契約違反」と見なされると、絶交されてしまう可能性があるのだ。


契約内容は単純。

・エリア内全てのフレアホーネットの巣を守る。

・十分な花の量。

・女王を共に守る。


……と、言うのは簡単だが、エリア内全ての巣に対して(点を打つ)契約を守るというのは決して容易なことではない。

多くの個体――「兵士」「門衛」などは毒炎を吹けるので、自衛能力が備わっている。

しかし肝心な「女王」は、卵を生み群をまとめることに専念していて、防御も攻撃もままならないのである。

巣の大半を占めるその体はたった薄皮一枚で包まれており、落下の衝撃だけで破裂してしまう。


そのため仮に猛攻の結果羽虫を潰せたとしても、中におわす「クイーン」がご存命でなければ、さようならである。


その説明を聞いて、三人は唸るほかなかった。

これは、ある意味単純な強敵を倒すよりも難しい。

どの依頼でもそうだが、「重要人物の護衛依頼」というのは概ねリスクが高くランク制限も厳しい。いくら道中で襲いかかるモンスターらを薙ぎ倒せても、もしその護衛対象が死んでしまっていたらアウトだからだ。

当然、その分報酬金はかなりのものになるが。


そしてまさに今回も、同じような感じである。


「うーん、そうなりますと蛮力ではどうしようもないですね……」


キツネは腕組みをした。

空高くかかるフレアホーネットの巣が、闘いに巻き込まれて揺らいでいる。


「うニャ……だから専門的な人を呼びたかったんニャ。あまりにも依頼を受けてくれる人がいなくて困ってたところに、ナノちゃんが来てくれたんニャ」

「じゃんじゃん頼ってくれていいのだ。一応調べておいたのだ。細かいお話はまた後でするけど、簡単に言えばあれを完全に潰すには【聖魔法】が必要なのだ」


聖魔法。

それは、精神や肉体に作用する魔法。

【回復魔法】や、【祓い術】がこれに当たる。


「じゃあ、やってみる」

メルティはポーチに手を当てると、空を仰視した。

「えっ、メルっち【聖魔法】が使えるのだ?」

「……わかんない。でもアテはある」


メルティは息の流れを整えた。

イメージするは、一人の少女。

傷だらけになりながらも、配信を続けた少女。


「……【リョナたん】×【悪意一縮(マリス・ガウン)】」


憎悪を煮詰めたようなカードは捻り千切られた。

その隙間からまるでインクのような粘液が噴き出し、たちまち視界を覆う。


ーーー『3。2。1』

ーーー『配信開始イタシマス』


靄を絶えず噴き出すヘッドホン、スクリーン、マイクそして回転椅子。

それらは宙を浮き、メルティに装備されていく。

メルティは自分の髪を撫でた。

黒だったはずの髪が、映える白銀色に染まっていた。

肌を触った感じだと、メイクも自動的にされているらしい。


いつもの自分じゃないみたい。けれど、たしかに自分がそこにいて、マイクもあって、一言放てばそれが遠くへと一気に広がりそうな感覚。

(なるほど……これが配信……)


――『ちょっと待ちなさい、なにあんた勝手に配信してんのよ』


頭の中で響く声。

これは【リョナたん】、こと涼南(すずな)の声だ。


(ごめん、なんか涼南の悪意(ソレ)を使ったらこうなった。……わたしはよくわかんない)


巨人【ガロミヤ】の悪をまとえば、「鉄壁」を得る。

王子【スケイプ】をまとえば、左腕が【氷魔法】の源泉となる。

守護者【ナナ】であれば、巨大な「命の金槌」を得る。


十人十色だ。込められた気持ちが違えば、魔法だって変わってくる。

それなら、こんな魔法があってもいいのではないのか。


メルティはそっと、ヘッドホンに手を添えた。

この、ちょっと固い触り心地が気に入ったらしい。


――『そういうことじゃないから。いきなり配信始めるとかイミフなんだけど。脳みそ何ccなの?』

ため息が伝わってくる。


(こっちの状況、わかる感じ?)


――『まあある程度ね。なんか戦っているんでしょ」

(うん。虫退治)


――『虫なんてペストサイドで溶かすだけじゃないの』

(なんか、空飛ぶらしい。あと、それだと潰しちゃいけないものまで潰れちゃうから。……

ねぇ、この機械ってもしかして、涼南が使っていたもの?)

――『知らんよ。……どういうやつ?』

(可愛いシールいっぱい貼ってあって……黒いやつで、)

――『……それ以上言ったら殺す』


あ、たぶん当たっていたんだな。

メルティはお口をチャックすると、椅子に乗ったまま空中へと上がって行った。


(これ、飛べるんだね)

――『一応言っておくけれど、あたしが使っていた時は飛行能力なんてなかったからね。どうせなんか、魔法とかでしょ』


なるほど。

そうなるとますます、この【悪意】を使う魔法のシステムがよくわからなくなる。


「……あ、見えた」


目の前に広がるのは、「虫」と「虫」の攻防戦。

炎を吐くフレアホーネットと、構わず蜂の巣を運びながら飛行する幼虫。

空気が揺らぐほどの温度になるのだから、火力が足りない訳ではない。相手の肉壁が厚すぎるのだ。

強い矛と強い盾がぶつかって、拮抗している。


――『あたし虫マジで嫌いだから、早めに終わらせて』

……と涼南は舞台裏からガミガミ言うが、そう簡単には行くはずがない。


なぜなら――。


「わっ」

鋭い火柱が、メルティに向かって一直線で突いて来た。

フレアホーネットに、敵として認識されたらしい。

辛うじて回避するが、火力は劣ることなく数で攻めてくる。


椅子に座っていると、どうしても移動が困難だ。

時折体を掠ると、じゅわりと肉が生焼けしたような匂いが広がった。

メルティは自分の溶けかかった頬に触れた。


ホーネットの炎に触れた部分だけ、ドロリとスライム状に爛れて変質していた。


「んー……まあ、いいか」


自分の指にこびりついた頬肉の欠片を眺めること十数秒、メルティは蜂の巣へと直進した。

すると、涼南の長いため息が聞こえてきた。


――『はぁ…………。え?なに?痛感ない系メルティなの?仲間のせいで熱傷をうけて筋組織破壊されまくっているのに、まあいいか、で終わり??」



(うん。痛くはないし)

――『ねぇ、一つ聞いていい?』

(いいよ)


ひとテンポ遅れてから涼南が続けた。さっきよりも、二段階くらい音量が小さめだ。


――『相手を助けようとしてさ。……それなのに仇で返されているのって、どういう気持ち?』


メルティは無言で炎の噴射をよけた。

「嵐」の中心に近づくにつれて、攻撃も激しくなった。


(……わかんない)

――『え?わかんない?』

(うん、わかんない)


今、自分がフレアホーネットの巣へと向かっているのは、なぜか。

それは、幼虫を倒すためだ。


今、自分が幼虫を倒すのはなぜか。

それは、依頼を受けたからだ。


今、自分が依頼を素直に受けているのはなぜか。

それは――。


(たぶん、後味が悪いからだと思う。いくら、攻撃されたとしても)


ーーー『そう。……別に困っている人を助けたい、とかそういうのじゃないんだ』

自嘲気味に零す涼南。


(うん。違う……とおもう)

メルティは小さく頷いた。


(だって、わたしはまだ……助けたいなんて気持ち、わからないから。ただ、もしわたしが今やらなかったら……きっとキツネとか、シャルとかがやるんだと思う。……そしたら、きっと怪我する)


ーーー『でも今、あんたが怪我しているんだけど』


(わたしは今……強い)


――『それなんか、前も聞いた気がする』

(うん。でも今、涼南が力を貸してくれて空を飛んでいる)

――『……何が言いたいのよ』


(わたしが言いたいのは……今、力があるから、キツネが受けるかもしれない痛みを引き受けられるってこと。それなら、キツネのためなら……いくらでも、痛みくらい引き受けてあげたいってこと。あと、力があるから、キツネが笑っているところが見られるなら……なんでも頑張れるってこと)


そう言ってメルティは、はにかんだ。

キツネと口にするたびにニヤけが止まらなくて、襟で口元を隠した。

そうするとなんだか、くすぐったいくらいに核が震えて、生きている感じがするのだった。


――『……なによ、ヒーロー気取りのつもり?』

言葉のわりに、笑いをこらえているような口振り。


(違うよ。せっかく涼南と一緒に戦えるんだから、……頑張ろうってことだよ。ねえ涼南)

――『なーによ』

(わたしさ、最近いっぱい友達ができたんだ)

――『自慢?』

(うん。自慢。すごいでしょ。いままで全然できなかったのに)

――『……ほんと調子狂うんだけど。うん。はい、うん。すごいすごい』

(でね。その中のひとりに、親友って。親友って言われた)

――『あの王女でしょ』

(うん)

――『はいはい、よかったね』


(だから、親友になろ)


――『え……?は?』


(一緒に手を取り合って戦う。だから親友。……がんばろ)


……涼南は俯いた。

舞台裏の、あの真っ暗な空間で両膝を抱いた。

伸ばした手は、まだまだスクリーンの向こう側の、あの子には届かない。

けれど――すぐそこにいるような気がした。


涼南は鼻声でため息をついた。


――『……そういうなら、戦友なんだけど』

(え?)

――『まあいいや。なーんでもない』


ちょっとでも、ちょっとでも。

少しでも、少しでも。

(あこがれ)の……力になれるように。


「じゃあ、行こっか」


――『うん。………………………………………ありがと』


マイクが、光った。

スクリーンに、ノイズが走った。

――体が、軽くなった。


星屑のような光線が、ひび割れた黒色の殻から漏れ出る。


それはまるで、夜に輝く一面のタペストリー。

それはまるで、プリズムの小部屋。


メルティはヘッドホンを付けたまま、椅子から飛び出た。

フレアホーネットの炎の渦を優雅にかわし、椅子を踏み台にして巨大な幼虫の背中へと乗った。


烽火が、上がった。



(蜂と烽をかけてみました)


次回更新は11/21(木)です。お楽しみに。

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