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メルティ✕ギルティ〜その少女はやがて暗夜をも統べる〜  作者: びば!
3章。学園編〜それは、蝕まれた憧れ・下
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70。メルティと虫退治①

 さて、夏休み前の最後の休日がやってきた。

 メルティは久しぶりに依頼を受けたくなって、家を飛び出した。それを見て、キツネもついていくことになった。ルイザとペットのパンダちゃんはお留守番である。


 ……飛び出したのはいいものの。

 王都のギルドホームには滅多に行かないために、メルティらは迷子状態になっていた。

 自慢の【烏】を呼べばいいのでは、と思うかもしれない。しかし実は烏というのはかなり目立つ存在なのである。

 すでに、実習の日に学校全エリアに放った【烏】たちが話題を呼んでいるのだ。メルティとしてはそれ以上注目を浴びるのは「安全上」避けたいらしい。


 そんなわけで、素直にあちこち道を聞いて回っていると、前からやってきた人に呼び止められた。

 深くかぶったフードに、素朴な杖。

 華奢と力強さを、同時に具現化したような雰囲気。


「おひさなのだ」

「シャル……メイ様! お久しぶりです」


 言わずもがな、このメランジュ王国の第二王女、シャルメイのお忍び姿である。


「メルっちにも言ったけど、こういうときは『シャル』と呼んでいいのだ。数少ない対等の友達なのだ」


 王女という立場もあり、きっと気楽に友達を作ってこられなかったのだろう。キツネはそう案じて、畏れ多いと思いつつも言われた通りに呼び方を変えた。


「では、シャルちゃん、で」

「はいなのだ。それよりもここで会うとはびっくりなのだ。もしかして冒険者ギルドに行く道なのだ?」


「えっ、わかるんですか!」

「よくわかったね」


 まだまだギルドの「ぎ」の字も見えていないのに、シャルメイの慧眼は既に彼女らの行き先を当てた。二人して目を大きく開いたのも無理もない。


 しかしシャルメイはあくまでも淡々としていた。

「そりゃそうなのだ。キネっちが珍しく帯剣しているから、わかるのだ。あとここは王都生まれでない冒険者なら、十回は間違って来ちゃう場所なのだ」


 見た感じ、何の変哲もない街並みである。

 かなり出店もあって繁栄しており、ちょっと進んで角を曲がれば、ギルドも見えてきそうな雰囲気だが――。


「え、では本当の場所は……?」

真逆(あっち)なのだ」

「「ああ……」」


 ナノちゃんことシャルメイが、杖先を向けた方。

 その辺りの、まだまだ昼前で賑わいがよく溶け込んだ青空に、メルティとキツネは揃って哀愁漂う目を向けるしかなかった。

 ……それはもうたっぷりと、満足するまで。


 だいたい二人が気を取り戻したくらいのタイミングで、シャルメイが開口する。


「せっかくなのだ。三人で依頼受けてみないのだ?」

「えっと……」


 メルティに回答をパスするキツネ。


「べつにいいよ」

「え、あ、そ、そうですね。はい」


 ……キツネの心の中では、二人のキツネが対決していた。

「ここは断っちゃおうぜぇ!! 王女だかなんだか知らんけどメルティちゃんとの依頼デートが優先だろ!! 第三者(サードウィール)は帰った、帰った!!」

 ――という悪魔のキツネ。

「だ、だめですわ……。せっかくのお友達なのですから、仲良くしましょう。ね?」

 ――という天使のキツネ。

 そんな中キツネはメルティに返事を預けたのだが、あろうことか即答の「イエス」。


「私の葛藤は一体なんだったんだ……」という転けたような感覚。

 キツネは結局「メルティちゃんが楽しいならなんでもいいや」という立場に落ち着いて、流れに身を任せるのだった。


「それで、シャルは……なんかやりたい依頼あるの?」

「一応あるのだ」


 そう言って取り出したのは、一枚の依頼書。


「【特殊依頼】なのだ。とある花屋からなのだ。多分面白いのだ」


 特殊依頼。専門知識を伴うため、それなりに条件の厳しい依頼。

 今回の依頼元は、広場外れのとある花屋。

 店名を、「みゃおみゃおの花屋」という。


 ……ん?

 なぁんか聞いたあるぞー?


 こんな特徴的な名前を忘れるはずもない。そのはずだが、どうしてもどこで見かけたのかを思い出せない。

 うーん、うーんと唸りながら、二人はシャルメイと共に目的地へと向かうのだった。


「あら、いらっしゃいニャ。今日は何をしに来たニャ?」

「「やっぱりここかぁー」」

「……なんの反応ニャ。不服そうニャ」


 大きい猫の目をして頭を傾げるのは、「みゃおみゃおの花屋」の店長。

 ――(ラン)小苗(シャオミャオ)

 そう、あの猫の血がたっぷり流れた花屋である。


「不服はないないです。……ただ、また来るとはーって感じです」

「なるほどニャ」


「はじめましてなのだ。店長さんであっているのだ?」

 シャルメイが一歩シャオミャオに寄って、依頼書を彼女に優しく手渡した。

 ……正体がわかってから改めて見ると、たしかに「ナノちゃん」の姿であっても、、王女(シャルメイ)らしい柔らかな仕草が出ている。


「あってるニャ。(ラン)小苗(シャオミャオ)ニャ。……ふむふむ、今日は依頼受けてくれたのニャ、ナノちゃん様?」

「たまには手伝いに来たいのだ。王族一同お世話になっているのだ。あと後ろの二人は同じく親友なのだ。ここでは様はいらないのだ」


 親密な握手を交わして、ひしりと肩を抱き合うシャオミャオとシャルメイ。


「こちらこそありがとニャ、ナノちゃん。そのお二人もちょっと前に会っているニャ。確か『タマオニの根』をお買い上げくださったニャ」


 どうやらあの「じゃがいもモドキ」、ここでは「タマオニの根」と呼ぶらしい。


「キツネ・フッサと言います」

「……メルティ」

「ふむふむ。覚えたニャ。メルティの方は名前覚えていたニャ。それでどうだったにゃ、揚げ物のほうはうまくいったニャ?」

「うん。美味しかった」


 メルティが味を思い出すように返した。


「それならよかったニャ。今度あっちにも食べさせるニャ」

「はい、ぜひ!まだまだ余っているので次回、持参しますね。……そういえばここってもしかして……王家御用達なのですか?」


 シャルメイとシャオミャオが顔を見合わせる。


「まあそんな感じなのだ。ここは品揃えがいいのだ。なんなら王城勤めの人はだいたいここで植物を買うのだ」

「そう言ってもらえるのは嬉しいニャ。あと今度の納入準備はもうできたから、そろそろ取りに来させるニャ」

「わかったのだ」


 王城、王家が信頼して購入する店というだけでも、ブランドものである。

 つまりそれだけの信頼性がある場所。

 目の前の「のんびりの権化」が意外にも大物であることに、キツネは唾を飲んだ。


「早速依頼の話に移るニャ。実はやってほしいのは虫退治ニャ」


 何かと思えば。

 もしかしたら王族関連の依頼かもしれない――と心配するまでもなかったようだ。


「あれ、では何故特殊依頼なのですか」

「たしかに気になる」

「なのだ」

「それは現場で説明するニャ。まずはこっちに来てほしいニャ」

 というわけで、現場へと向かうことになった。


 ……が。


 目的地まではそう遠くなかった。

 直線距離五十メートルくらいの廊下。

 草がモジャリとまとまってできた山。

 それらを越え、視界に広がるのは――。


「「「うわぁ」」」


 感動の「うわー」ではない。

 マジかよ、の方の「うわー」である。

 三人揃って目を向ける先には、一面に広がる森と花畑。自然に融合させた形の農場だ。


 しかし目の前の情景にはもう、夏らしい陽気な色は一切なかった。


 ただひたすらに広がる、枯れ草と枯れ木。時折花びらを見つけても、大体は色褪せて腐っているものばかりだ。ひと時前に戦火でもあったかのような地獄絵図である。


「ここはあっちの森ニャ。ちょいと前から虫食いが増えて、色々魔法を撒いたニャ。でもことごとく無効で、気づけばこのザマニャ」


 本来ならば、単純な虫退治として依頼を出してもよかったのかもしれない。

 が、ここまで広い農園で、諸悪の根源が全く見つからないのなら、やはりある程度専門的に見てもらいたい。

 そういうわけで「一般」ではなく、「特殊依頼」に設定されたのである。


「この状態じゃ、納入は無理なのだ。無茶せず次期に回してもらえればいいのだ。父上に話は通しておくのだ」


 たしかにこの状態で「出荷しろ」というのは厳しい話である。

 しかしシャオミャオは、親指を立てて言った。


「大丈夫ニャ。それは別のエリアニャ。精霊を呼んであるから、そこは虫達も入れなかったらしいニャ」

「えっ、シャオミャオさん、精霊が見えるのですか」

「当然ニャ。あとミャオちゃんって呼ぶニャ」


 これにはメルティも思わず動じた。

 およそ死角がない彼女でさえ罹った、精霊魔法。精霊という、不可侵の存在。

 そんなカレらが、シャオミャオには当然のように見えているらしい。

 エルフといい、この猫人族といい、つくづくこの世の広さを感じる。


「あっち(=私)の種族では、見えないほうが珍しいニャ」

「どんな見た目?怖い?」

「あ、私も知りたいです」

「怖いはずがないニャ。キュートな羽根をつけてるニャ。ほら」


 そういって、そこにいるらしい精霊を手に乗せ、指差しアピールをするシャオミャオ。

 当たり前だが、他の三人にはちんぷんかんぷんである。

 なんなら精霊魔法の怖さに懲りたキツネは一歩後ろに下がったくらいだ。


「【精霊魔法】……ミャオちゃんは、罹らないのですか」

「かからないニャ。よほど嫌われない限り深刻な悪戯はされないニャ。多くて夢遊病ニャ」

「それもどうかと思いますが……。あれ、では何故ルイザちゃんは【精霊魔法】にかかったのでしょうか……いい子なのに」

 ルイザが、精霊に嫌われる要素などあっただろうか。

 生活を思い返すが、見当たらない。

 しかしその疑問は、すぐに解消した。


「……その子、オーガ族とか、鬼族ニャ?」

「そうですね」


「あー。そこらへんの種族は赤ちゃん教育のときに、『精霊は非常食』って代々伝えているから、古くから精霊に嫌われてきたのニャ」


「「「……あー……」」」


 いつ食われるかわからない相手に、優しくできるはずもない。

 そんな思いの外当然の理由に、三人は間の抜けた顔で声を伸ばすほかなかった。




 さて、気を取り戻していよいよ虫退治である。


「ちょっとしたらまた戻ってくるニャ」と言ってシャオミャオは店番に帰った。

 虫の巣でも見つかれば万々歳だが、世の中そんなにうまくいくことは少ない。葉っぱをかき分けかき分け、土を掘り返し掘り返し、折れかけた木を倒し倒し……。

 十分後。

 再びスタート地点に集まった三人。

 いかにも仕事をしていたような、いい感じの汚れ具合だが……。


「見つかりましたか?」

「全然なのだ」

「同じく」


 虫が、全く見当たらないのだ。

 もしこの悲惨な枯れ具合を見ていなかったら、シャオミャオが夢を見ていたのではないかと疑うレベルで、見つからない。

 言ってしまえば、死地である。

「なんならフンもないのだ。ちょっと異常なのだ」


 手袋を叩きながら、あたり一面の荒土を眺めるシャルメイ。


「同感です。だってアリとか、ミミズとかくらいなら居そうだったのに、全然いませんでしたもん。あとこの花種だと、共生する羽虫もいるはずなのに見かけませんし……」


「……多分問題はここじゃないとおもう」とメルティ。

「か、すごい地中深くとか」

「それは掘り返せませんからね……あれ、そういえばシャルちゃんにお聞きしたいのですが」

「なんでもどうぞなのだ」


「精霊って、エリアの区別をどう付けているのでしょうか」


 何気ない質問に、シャルメイが腕組んで唸る。

 落ち着いて説明したいのか、庭横の大岩に腰を下ろした。全員が座ったところで、彼女は思い出すように開口した。

「本で読む限り、魔力の波長の違いで区別するとか、神聖なものを読み取るとか。説は定まっていないのだ」

「ではここまで精霊が来ないのは、神聖ではないから、といった理由でしょうか。……たしかに精霊はミャオちゃんが呼びましたが、それのおかげで虫が寄らなくなったということは、『虫は精霊と相容れない存在』……ということでしょうか」


「聞いたことないのだ。しかもそれだと森の中には精霊がいないはずなのだ」

「虫、うじゃうじゃいる」

「ですもんねぇ」


「虫」と「精霊」の相性が悪い訳ではない。

 ではどうして、精霊を呼んだエリアには虫が寄らないのか?


 今回の虫が特別だから?

 それともほかに何か訳が……?


 ――と、三人揃って唸っていた時のことだった。


「ギニャぁああっ!?……た、大変ニャーッ!!」


次回は11/17(日) 

お楽しみに


シャオワンちゃんのお姉ちゃんですね

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